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大幅に不足するIT人材、本質的な改革で対応する手段とは

こんな方々におすすめ

経営層(CEO、CIO、CDO、CHRO等の役員やリーダー)、情報システム部門、DX部門、経営企画部門、人事部門

記事のポイント(SCQR)

Situaiton(状況)2030年、IT人材は多ければ80万人近くが不足。「2025年の崖」を越えられずにDXを実現できず、衰退に向かう企業が出てくる。経営課題としてのIT施策かつ人事施策として重要な論点。

Complexity(複雑性)IT人材は短期間では増えず、需給バランスは悪い状況が続き、採用を増やしたくても増やせない、あるいは人材争奪戦となる可能性。情報システム担当者の残業時間は、12%が過労死ラインの月80時間を越えて過重労働。離職率も高く、現状の人材定着や「働き方改革」など人事施策としても課題。

Question(問い)こうした課題を踏まえ、IT人材が不足しているという前提で、どう対応していくべきか。

Resolution(解決法)経営層が重要課題として意識し、情報システム担当者をノンコア業務から解放し、DXなど企業成長やITガバナンスに必要なコア業務に集中できる環境を作る。その手段の一つとして、ノンコア業務のアウトソーシングの活用がある。


はじめに

 IT人材の不足は日本の社会経済構造に関わる問題であり、IT部門による現場での努力だけでは解決が難しく、経営課題として優先度を高して早急に対策を講じていく必要があります。

 企業成長の核となるDX(デジタルトランスフォーメーション)に関わる経営企画としての視点に加えて、人事施策でも重要課題となります。とりわけ情報システム要因は退職率が高く、21%という調査(2019年、デル株式会社調べ)もあり、人事部門も当事者意識を持って臨むべき課題です。

「ジョーシス式ITガバナンス」の第7回では、企業がIT人材不足に対応する方法について検討します。様々な手段がありますが、そのなかでも今回はアウトソーシングについて取りあげます。


1.「2025年の崖」とIT人材不足

 IT人材不足については、経済産業省の「IT 人材の最新動向と将来推計に関する調査」(2016年)をきっかけに、危機感が広がりました。この報告書は2030年には79万人のIT人材が不足すると指摘しています。2019年の新たな調査「IT人材需給に関する調査」では、16.4 万人~78.7 万人(中間値は 44.9 万人)の不足との予想が示されました。ごくわずかだけ、不足見通しが緩和されたものの、基本的には数十万人単位で不足することに変わりがなく楽観視できる状況ではありません

 そして、IT人材不足は、経済産業省が2018年に指摘した「2025年の崖」の克服において重大な課題となっています(「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」)。「2025年の崖」の論点は多岐にわたりますが、ポイントは下記に集約されます。

  • 企業の既存のITシステムが老朽化してレガシーシステム化、DXの妨げに

  • レガシーシステムの刷新ができず、DXに遅れが発生

  • その結果、日本企業が世界でのデジタル競争に敗退

  • 2025〜2030年に日本国内で発生する損失は最大毎年12兆円と予測

  • システムが更新されないため、サイバーリスクに晒される

 こうした課題に対応するには、多くのIT人材が必要となりますが、育成には時間がかかるため、短期でIT人材プールが大きくなることは期待できません

(Photo: Unsplash/Antoine Martin)

2.短期的に「数」での対応は困難

 もちろん、引き続き。IT人材を獲得する努力は続ける必要はあります。ただ、IT人材に対する需要が増す一方で供給が不足しているという状況のため、企業としては、思うように人材獲得できないリスクも考慮した施策を打つべきでしょう。

 仮に、幸運にも現時点では十分な人数を雇用できたとしても、長期的に充足した体制が維持できないリスクや、高度人材を中心に賃金が高騰して激しい人材獲得競争に巻き込まれる可能性も十分にあります。

 とすれば、人材の数だけではない、他の発想に基づいて対応を進める必要があります。現状の体制ですぐに着手できることから対応しつつ、中長期的な対応を徐々に実現していくことが考えられます。

 すぐにでも着手すべきは、情報システム部門をノンコア業務から開放し、DXなど「攻め」の業務と、サイバーセキュリティなど重要度の高い「守り」の業務に集中できる組織へと変えていくことです。

(Photo: Unsplash/Mimi Thian)

3.情報システム部門の改革は経営課題

3.1ノンコア業務から解放、コア業務への集中へ

 「2025年の崖」を乗り越えるため、情報システム部門へと強化していくことは、企業の経営陣が優先度を高して取り組むべき課題です。この改革が遅れてしまえば、DXに大幅な遅れが生じ、「2025年の崖」を越えることができず、企業は衰退に向かうという危機感を持って臨むべきです。

 ただ、現実をみると、情報システム部門は、ITを企業成長のドライバーとしていくための業務だけに限らず、ノンコア業務も多く抱えている状態です。パソコンなどのITデバイスのセットアップや、組織で利用しているクラウドサービスのID発行や削除といった管理、既存システムの保守管理などです。どの業務も企業が組織として円滑に動くためには欠かせない大切な業務です。

 しかし、人的リソースが限られ、短期間で改善が望めないなかで、自社が持つIT人材は貴重です。その貴重な人材が、企業成長のためのコア業務や、情報資産の管理などガバナンス上で重要度の高い業務に注力できる環境がつくられていくべきです。

 既存業務のうち、本当に自社で行うべきものは何かを考え、自動化できるものやアウトソーシングできる、いわゆるノンコア業務の削減がカギとなります。

(Photo: Unsplash/LinkedIn Sales Solutions)

3.2現場の声はどうなっているか

 情報システム部門の現場の声を、ジョーシスによる独自調査を通じてみていきましょう。経営陣が主導して抜本的な対応に取り組むべき重大さが読み取れるはずです。

 まず、人員体制が十分ではないとの回答が約3分の2を占めました。人員が十分足りている、ちょうど良いとの回答は34.8%にとどまり、65.2%は少し不足している、非常に不足していると回答しています。今後は、IT人材に対する需要増が予想されるため、不足しているという回答が増えていく可能性が十分に考えられます。

 業務内容についても見直しが必要なことが浮き彫りになりました。戦略策定やシステム導入といった企業成長に貢献する分野の回答が一定数多かったものの、人手が必要で工数のかかる管理的な業務にも多くの時間が割かれていることが分かりました。そして、ノンコア業務をアウトソースすることを検討したいという回答が6割を超えました

4.「働き方改革」として人事部門も関心を

 冒頭でデル社のデータを引用したように、情報システム担当者の離職率は21%と高いことが判明しています。

 今後のIT業務は増える一方であるため、何らかの対策がとられない限りは、業務負担は高まることが予想されます。そうなれば、超過勤務による心身への負担や、プライベートの時間を持てなくなるといった不満につながり、離職をするリスクも高まります

 ジョーシスの調査5時間以上の残業との回答が9.1%、4時間以上が3.2%でした。厚生労働省のガイドラインでは、月間で80時間の残業時間を超えれば過労死ラインとされています。

 したがって、1日あたりの残業時間が「4時間以上5時間未満」と「5時間以上」の合計12.3%の担当者は、月単位では80時間を超えており、業務負担が極めて大きい状態におかれています。

 これは、健康への悪影響にとどまらず、生命のリスクさえ抱えていることになり、人事管理上も重大な問題と位置づけられます。「働き方改革」という視点からも、人事部門は高い関心を持ってIT人材の待遇や、加重負担解消に向けた施策を打っていくべきでしょう。

(Photo: Unsplash/Vitaly Gariev)

おわりに

 今回は、IT人材不足への対応について、情報システム部門をノンコア業務から開放すべきことを中心にデータを用いながら検討しました。短期間でできる対策の一つとして、デバイス管理やキッティング、ヘルプデスク対応などの業務をアウトソースすることが考えられます。

 アウトソースを起点として考えると情報システム部門での施策となりがちです。ただ、経営目線で捉えるとDX計画推進といった経営企画や、IT人材の確保といった人事施策にもつながるため、経営者が指導力を発揮すべき課題と言えるでしょう。アウトソースという一つの行動をとることが、IT人材不足の解消という改革に向けた大きな一歩ともなり得ます。

 このほか、IT人材不足については管理ツール導入による効率化、海外人材の活用といった選択肢もあります。これらは、今後、取りあげていきます。


 ジョーシスは、SaaS管理プラットフォーム(SMP:Saas Management Platform)であり、SaaS等クラウドサービスの一元管理やシャドーITの検知のほか、ITデバイスの管理やアウトソースといった統合管理プロダクトを提供しています。また、SaaS審査やコスト最適化のご相談にも対応しています。少しでも気になることがあれば、気軽にお問い合わせください。

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執筆者:川端隆史 ジョーシス株式会社シニアエコノミスト

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