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鴨川モラトリアム

福岡、京都、東京、仙台と27歳にしてはいろいろな都市に住んできた。

なかでも一番多感な時期を過ごした京都には数えきれないほどの思い出がある。
初めての一人暮らし。初めてのアルバイト。初めての恋人。初めての失恋。
たくさんの初めてをこの街で経験した。

京都というのは不思議な街で、大学生人口比率が約10%を占める学生街だ。
そんな街での大学生活を「モラトリアム」と称する京都の学生たち。
猶予期間。4年間、子どもから大人になるまでの長いようで短い猶予期間。
大学生とは不思議な身分で、成人しているけどまだ学生で、働いていても多少の世間知らずを許され、その癖一丁前に酒を飲んでは大人ぶって、子供と大人のいいとこ取りをしていたように思う。

京都に思い出深い場所はたくさんあるが、なかでも私は鴨川が好きだった。というか、京都で学生生活を送っていて鴨川に思い出のない人なんていないと思う。
空きコマに出町柳の商店街で買ったドーナツ片手に鴨川デルタで友人と語り合った。
デートの終わりは大抵鴨川沿いを散歩して、だらだら缶チューハイを飲んでいた。
卒論が行き詰まった時、就活で悩んだ時、1人でぼーっと川を眺めていた。
鴨川は時に酒を、時に吐瀉物を流されながらどれだけの若者の青春を見てきたのだろうか。
4年のサイクルで一つの青春が終わり、また新しい若者がやってくる。
若者の営みを一番近くで眺めている。

私は大学を卒業してからも1年間京都に住んでいたが、なんとも言えない居づらさを感じた。
友人は新天地で社会人生活を始めているなか、自分だけが学生街に囚われているように感じた。
(決してそのようなことはないのだが)私は京都を子どもから大人になるまでの猶予期間を過ごす街だと捉えていて、大人になってもそこに居続けることに違和感を覚えたのだと思う。

かくあれ、今は東京に住んでいるが、社会人の私にはどうもしっくりくる。
それでもずっと京都は特別で大切な街だ。

〈最後に〉

「退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都/栗木京子」

有名な短歌だが、これほど的確に京都の学生生活を表現した詩はない。

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