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【小説】テクノロジーを語る勿れ【第40話】

 一呼吸置くまでの間、広木は流れに身を任せたままでいた。顔を離すと先ほどまで何かのスイッチが入ったかのように目を座らせていた亜美が、広木の顔をじっと見つめてはクスクスと笑う。何かのトリックにでも誘導されてまんまとはめられた、もしくは単に茶化されているかのような気がして、途端に狭い車内の中で居心地が悪くなる。
「何で人の顔見て笑ってんだよ」
「いや、別に(笑)」
「自分だって目がトロンとしてただろうが(笑)」
「してないよ(笑)」
「じゃぁ何?」
「いや、こうやっていつもこの車で女の子とイチャイチャしているんだろうなって思って!」
「そんなことないよ(笑)」
「本当かなぁ?」
「本当だよ」
「ふーん(笑)」
「もしそうだったとして、亜美はこういう状況でここでこうしていることについてはどうなの?」
「うーん。そうだなぁ、私もここで何かしちゃうのかな?っていうのと、私ともそういうことしようとしているのかな?みたいな感じかな」
「冷静だな…」
「確かに!」

 日頃の行動が見透かされているようで、何とも返し辛い状況であったが談話に発展するくらいに亜美は冷静だった。広木はホッとする。この場であれこれと説教染みた様子で咎められていては堪らない。
 確かに言われてみれば、亜美の言う通り女性とドライブをしていると最終的には手持ち無沙汰になり、こうして車内でマッタリモードに至ることは通常パターンではあった。かといって誰でも構わずこうして時間を作るのかというとそうでもないが、やはり食事に誘いたくなるような相手と男女として二人きりで会うのであれば、こういう状況で互いがどうしたいかは確かめてみておいても良いのかも知れない。
 高校を中退した際に祖父が購入してくれた新古車の軽ワンボックスは、こうしてシートをフラットにされては大人二人分の体重を思い切り掛けられ、運転席の背中部分は中綿が剥がれて金具のパーツが気持ちばかり突起していた。春先になるとその部分がバチっと静電気を起すので、自分に突っ込むように笑いを溢しそうになるのだった。

 この空間をある程度受け入れたような、腹を括ったような様子の亜美の胸元に手を触れながら、広木は無言でまた舌先を亜美の唇の間に滑り込ませた。亜美を下にさせ覆い被さる様にしながら、片方の手を背中に回すと親指と対峙する人差し指と中指とで点で弾くようにしてブラジャーのホックを外す。上着の裾から中ほどへ手忍ばせ、親指を掛けるようにして手際良く捲し上げると、亜美の小振りな乳房が車内に差し込む月明りで蒼白く照らされた。片方の先端に吸い付き、甘噛みするよにしながら顔を引き離し、もう片方へも同じように唇を這わせた。片方だけでは不公平だと両方を公平に扱わなければと、中学生くらいの時に何かの漫画で読んだのを思い出した。

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