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#11 「はじまり1/4」

『ドサッ!』
電気もつけず、ソファーに勢いよく背中からダイブして肘掛けを枕に天井を眺める。

酔っていはいたが、昨夜を冷静にフィードバックしていた。

ラクーアでの彼女を見つける時のドキドキ。

サンダードルフィンが中止でBプランに切り替えて水道橋駅からCONAに行く時のぎこちなさ。

お店についてから、オーダーして乾杯からの彼女の話を聞いてる時の新鮮さ。

俺の話を真剣に面白おかしく聞いてくれている彼女の横顔。

RYOが来て3人になって、座席を移動して俺の隣に座ってもらった時の彼女の表情。

彼女の髪をRYOが触れていた時の『モヤっ』とした感情。

酔って身体が火照ってて、手が腕が勝手に動いて彼女の背中を通した時の俺の大胆さ。

『頑張ってる』彼女の話を聞いて頭を撫でる行為。

店を後にした時、横断歩道でリュックサックの端を掴んでくれた時の俺のトキメキかつドキドキ。

改札口から、エレベーターに…上っている時、前にいた彼女が振り向こうとよろめいた瞬間、
彼女を支えたと同時に、顔と顔が、鼻と鼻が、触れるくらいの距離になった時の俺の気持ちと彼女の気持ち。

そして、俺たちのファーストキスが生まれた時。


はじまった。


俺のしまいこんででいた、
二度と出てくることのないであろう、

『この人のために生きたい』

という心の鍵を彼女は自然に開けてくれた。

御徒町から池袋まで行き、別れるまでの経過はまぶたを閉じれば、彼女がハニカム表情が第1に思い浮かぶ。
あんなにステキなチャーミングな笑顔をしてくれる人に出会ったことがなかった。
彼女の瞳に吸い込まれる自分がいるのがわかる。
なんのまとまりもないこの表現だが100個彼女の魅力を言えと言われれば言える自信がある。

短期間で?
俺はハマってしまったのだ。
会えたから?
一緒に飲んだから?
話たから?
一緒に歩いたから?
キスをしたから?
それだけじゃない。彼女の至る全ての『アクション』がだ。
間違いない。

LINEの短い着信音が鳴る。

[今日は、ありがとうございました^_^
本当はもっとずっといたかったけど…あたし塚越さんの仕草、話し方、全部がツボなんです!]
彼女にしては珍しく『どストレート』な感想がドキドキさせる。
『ツボ』。
大人としての?
チャラさとしての?
キスが?行動が?
それは、わからない。
いくらフィードバック(復習)してもあんな大胆な行動のできる男ではなかったから。
チャラくても
人タラシでも
『キスがしたい』『ハグしたい』…なんて思うことはあっても、
妄想で我慢して行動になんて移すことはなかったのに。
『いいやつ』はそんなことはしないから。
しないからこそ『(都合の)いいやつ』なんだろうけど。
彼女は俺のリミットを外した。
いや、自分自身がそんなことができるなんて知らなかった。

[着いた?俺もありがとう。
もっといたかったけど、恵にとっての休日も大事にしてほしいからさ。
東京タワーに行く約束したから!
ほんとはさもっとキスしたかった。恵を感じてたかったんだ…]
少し時間が経ってから、
[着いたーっていうかもう好きかも。おやすみなさーい!]
なんか、一方的にごまかす勢いのごとく…
というより『好きかも』?
彼女も俺のこと好きなの?えっ?えっ?本当に?
薄々は感じてはいたけれども。

[たまらん…うれしいよ。]

[早くまた、あいたいよー]
[俺も早くあいたいよ。
ってかまだ、寝かせなーい!ところで、途中から『恵』って呼んでたの気づいた?馴れ馴れしくてごめん]
[気づきましたよ!もうドキドキだったんですよー!気づかないふりしてました^_^]
[ごめん。なんか、素敵な名前だからさ。あと、距離をもっと縮めたかったから。]
[嬉しかったからいーのー]
[ならよかった]
[私もRYOさんみたく、『ゆうたさん』って呼んでも良いですか?]
[なんで、ゆうたさん?『ゆうた』でいいよーそもそも、教え子で俺のこと下の名前で呼ぶのRYOくらいなもんだけどねー
恵には、ゆうたって呼んでもらえるように距離を縮めていきたいよー]
[私も教え子みたいなもの?]
[いやいや、大事な人だよ。]
[「ゆうた」にしたら敬語できませんよ?時間帯とか?に分けるとか?]
面白い発想をする子だな(笑)俺は全然気にしないのにな。
[常に「ゆうた」って呼んでもらいたよ!]
[頑張ります!…頑張る!]
ぎこちないが彼女なりの精一杯の回答をしつつの楽しんでいる感じ。良い。

タグホイヤーは[2:58]を指していた。

彼女はメイクを落とし[おやすみなさーい]のメッセージを最後に俺はぼーっと、ルパンの『カリオストロの城』をBGMにソファーで寝ていた。

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