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#32 「ギフト」

「ねーねー」
とほろ酔いなのか、陽気なムードをかもしながら聞いてくる。
彼女か歌っている。
その横で普段見せない表情で聞いてくる。
「な……」
と、聞き返そうとしたら、
彼女からキスをされた。

安室ちゃんの曲をBGMに

一瞬で離れようとした。
俺は逃さなかった。
彼女は歌い出そうとした。
俺はそれを制してし続けた。
「う、うぅん」
と、ハニカミながら唇を離そうとした。
俺は、歌うフレーズも構わず、
唇を奪い続けた。

彼女は観念したのか、
受け入れた。

モニターは、音声のない自分の知らないアーティストを映し出していた。

「コンコン」
と、ノック音が唇を離す合図になった。
店員はお構いなしに
「レモンサワーと白ワインになりまーす」
と告げ、
空いたグラスを下げていった。

その時の俺と彼女の赤らめた顔は、
言うまでもなく。
そして、大笑いをした。

「あー焦ったねーーー!」
「そう?俺は構わなかったけどねー」
と強がって見せたが、
口角は大きく上がって、俺も大笑いして、
強がっていた俺の威厳は、脆くも崩れたことも、
言うまでもない。

「で、次は何歌ってくれるのー?」
「それはね…」
と、リモコンタブレットの送信ボタンを押す。

【次曲: ギフト】

彼女は『ハッ』としたのか、
次の瞬間にはワインを一口飲んで、
何かを待つ準備をするかのような表情になっていた。

俺は、酔っ払っていた。

ちゃんと歌いたかった。

座って歌うほどの想いでではなく、
ちゃんと歌いたくて、
立ち上がっていた。

彼女はキョトンとしていた。

♫一生 忘れられないよ
 ずっと ずっと 大事な贈り物
 一生 忘れられないよ
 きっと きっと 【こいつ】は宝物
 何よりも
 特別な
 最高の
 Oh ギフトーーーーー

歌い出すと彼女はモニターの歌詞を目で追いかけていた。

♫どんなに安いものでも
 冗談交じりの言葉でも
 つまらん喧嘩の理由でも
 俺ちゃんと【ここ】にしまってあるよ

 そう二人が偶然にも出会えた幸せ
 それこそこの世で
 【たった一つの贈り物】なんや

俺が、感情を込めて歌う。
立ったまま。
彼女に伝わるように。

決してETーkingではないけど。
俺なりの精一杯をギフトしたくて。

俺は、3月末から、
歌詞の通りの【たった一つの贈り物】を
彼女からもらっていたんだ。
それは、
手に入れられない【もの】
自分からは手にいれることはできない【もの】
もう諦めていた【もの】
答えなんて本当はなかった。

ただただ、前にある問題に立ち向かっていた。
あの頃。
俺は、何も考えずもそれを片付けるだけの毎日。

そんなグレーがかった、黒にも白にもならない日々に、
あの電話から、
黒や白しかなかった俺に、
鮮やかで。綺麗で眩しいくらいの色が、
混ざってきた。

それを与えてくれたあなたに、
俺は、
あなたに同じ想い以上に
キラキラしてもらいたいと思った。
それが、俺によってもたらされることなのかどうか。
そんなおこがましいことは望まない。

だけど、
俺といることで、
黒と白の世界から抜けられると感じてくれるなら、
俺は、あなたの為に、
あなたと歩きたい。

♫くじけそうなとき
 そっと読み返す
 それは
 ひどくボロボロに落ち込む俺への
 お前が書いた あの手紙なんだ
 時間が経って
 色褪せてしまっても
 今でもまだ
 あたたかいまま
 心強く
 背中を押してくれる

 あなたがいつもくれる【もの】
 それは
 目には見えなくて
 でも確かに そこにはあったんだ
 知らず知らずのうちに

 どれだけ救われたんだろう
 その言葉に
 その笑顔に
 その愛に
 普通が普通じゃなくなるように
 特別な存在になる

Song:ギフト ET-KING

何も言わなくても
彼女は
真剣な眼差しで、歌う俺を見ていた。

To be next story…

(あとがき)
更新が遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。
忙しいは言い訳にしかなりません。
どう表現していいか分からなくなっていて…
本当にすみません。
まだまだカラオケBOXでの出来事は続きます。
官能的部分が多くてお許しください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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