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函館市縄文文化交流センター

この建物の外壁は曲線で構成されている。いくつもの中心点から描かれた複数の円を組み合わせることによってデザインされた外観は、時の流れのように緩やかに波を打っている。だが、近づいてよくこの壁を見ていただきたい。一見すると曲線に見える外壁は、幅9センチほどの直線の連続によって造形されていることが分かる。これは、地元で伐採した杉の間伐材を製材して組み上げた型枠にコンクリートを流し込んで建築したものだからである。

型枠が外され、初めてその外観に触れた時、フランスの哲学者アンリ・ベルクソンの「曲線のきわめて小さな一要素は、ほとんど直線に近い。しかし、曲線が多くの直線から成り立っているのでは無いのと同様に、生命も物理や化学的な諸要素からできているのではない」という言葉が頭をよぎった。これは19世紀の後半に支配的になったスペンサーやダーウィンの進化論的思想に対して疑問を呈する形で1907年に発表された「創造的進化」で語られた言葉である。無論、この建物の構成は逆説的に直線が曲線を構成しているのだが、曲線と直線という両極にある二項が一つのフラクタルな曲面を形成していることは、「縄文」というものを考えるうえで確かにある種の示唆を含んでいる。

図面を見た当初は、E.メンデルゾーンのアインシュタイン塔に代表されるように、20世紀初頭に始まったドイツ表現主義による建築思想かと思っていたが、実際に見る建物は遙かに哲学的であった。
この解釈が設計者である石黒浩一郎氏の意図なのか議論することはなかったが、私が資料展示によって表現しようと模索している縄文文化の根幹的な精神、あるいは縄文文化を研究するうえでの思考の方向姓は、この建物の外観に象徴されていると言っても過言ではない。
内部の展示室は「生活」と「精神」の二つの空間で構成している。縄文人の精神構造の根幹に「二項融合」の思考があることは既に指摘されているところであるが、そうした思想を反映するように、館内は「日常の空間」と「縄文の空間」に区分し、光や音の処理も「明と暗」、「反響と無反響」など二項の相対する要素を組み合わせ、一つの展示空間を創っている。

展示されている資料たちには、発見から展示に至るそれぞれの物語がある。考古資料が人の手によって発掘され整理される以上、そこには科学的な諸要素だけではない何かがある。では、その代表的な5つの物語をご紹介しよう。

函館市縄文文化交流センター館内(生活の空間)

1.漆の糸(垣ノ島B遺跡)
https://note.com/jomon_jazz2501/n/n941e3d93c717

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