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てるてるひめ物語
第三話 ときじくの樹
エコビジネスを立ち上げた女の子が雑踏の中でミミズを売っている。まるで弁当売りの様相である。かなり疲労の様子が滲んでいる。
「弁当~~、弁当、じゃなかった、みみず~~、みみず、いらんかえー。とっても働き者のミミちゃんよー。大地を耕し豊かにするミミちゃんだよー。みみず、みみず~~、いらんかえー」
そう大声で周りの通行人に呼びかけてから、そのままその重そうなトレイを肩から下ろして地面に置き、近くのベンチに腰を下ろしながらブツブツと独り言を漏らした。
「あたいたち、エコビジネス起こして早三年。現実って厳しいよね、まだ一匹も売れていないんだものね……」
そこに突然天使マヤが現れて女の子に声をかけた。
「ミミちゃんちょうだいな」
女の子の表情がパッと明るくなり、元気な声で答える。
「やったー。はい、百円頂きます。ところでお姉さん、どこの人。あんまり見かけないけど……。ミミちゃん働き者といっても、手も足もないもんで、あまりこき使わんで下さいましよ、お姉さん」
女の子、ミミちゃんを渡して退場する。
天使マヤ、ミミちゃんを大地に戻す。
「さあミミちゃん、私と一緒に働いてちょうだいな。お母さまの言いつけで、この地上を再生させなければならないの」
ミミちゃん、天使マヤの正体を知り丁寧に頭を下げて「ハイ、ワカリマシタマヤサマ」と伝える。
ミミちゃん、大地に入り込みその中で一所懸命に大地を耕し土を豊かにしてゆく。 労働歌ヨイトマケの歌を歌う。
「カアチャンノタメナラエーンヤコーラ、マヤチャンノタメナラエーンヤコーラ、モヒトツオマケニエーンヤコーラ、ト」
ボロディンの曲が流れる中、天使マヤ、ミミちゃんを指揮するように腕を振りながらお母さまの無上の恵みをこの地上に現そうとしている。
その時天使マヤの詠まれた歌。
「やまかはもくさきもむしもとりうをも
けものもさきはふあい(水火)のちからに」
やがて、大地から双葉の芽が出、成長して大きな樹となり、鳥や獣の番が集まり、遂には男女一組の人間が裸で現れその樹の真下に佇む。樹には美味しそうな蜜柑の実がたわわに実っている。
それを見て天使マヤの詠まれた歌。
「そそりたついきとほしのきときじくの
かぐのこのみとなりいでにけり」
しばらくして、天使マヤが声を上げる。
「さあ、これで私の役目は終わったわ。人間たちがこの地上の果実を、他の生き物たちすべてと分かち合ってくれるとうれしいんだけど」
ミミちゃんが言葉を挟む。
「デモニンゲントイウイキモノハ、ドウモフカンゼンデヨクブカイヨウデス。ドウカスルト、カジツシカメニハイラナイヨウデスヨ。シバラクシタラマタ、ホカノモノヲオシノケ、ソノカジツヲウバイアウヨウニナッテシマウンジャナインデスカ」
そう言ってミミちゃんの詠んだ歌。
「メジセバクコノミバカリゾミエラルルハ
トラハレヨクノミセサスルナリ」
天使マヤの返された歌。
「けいあいのまことなければひとのよは
すべてのものをやみにすつべし」
更に天使マヤが続けて言う。
「地上の世界が堕落して混沌とした状態になり、人間から敬愛のまことが失われるような時に備えて、お母さまの声を伝える役目を担った星たちが既に数多くこの地上に降ろされています。お母さまはそれらの星たちの助けを借りて人間たちを本来の道に導くはずなんだけど……、いけない、もう時間だわ。ではミミちゃん、さようなら。本当にご苦労さまでした」
ミミちゃん心配そうな様子で答える。
「マヤサマコソ、オツカレサマデシタ。サヨウナラ……」
第三話 ときじくの樹 おわり
第四話 てるてるひめ物語
https://note.com/jolly_willet791/n/n1db57ec4c23c
第一話 ニルヴァーナ
https://note.com/jolly_willet791/n/n2d02be59d24e
第二話 マトリクス(子宮)
https://note.com/jolly_willet791/n/nc0347b22ca11
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