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Pentagon_❷爽やかに始まる

1.友の顔

あいつにはいつも彼女がいた。青春なら恋人がほしいのは当たり前だと自分の中で納得する俺は、あいつになぜ恋人ができるのか不思議だった。芯のないやつ。勝手にそういう風に思っていたから、あの眼差しに驚くどころか笑ってしまった。初めて見た。あいつはこんな顔もするのか。俺自身、そんな顔をしたことはない。要は、一目惚れだろ。あいつがしたのは。悔しいなあ、って勝手に憎みたくなってくる、いや相手も羨ましいよ。一目惚れされるなんてドラマかよ。でも、本気でいる親友を見れば、こいつの「初恋」を応援するべきだと思った。

いちいち爽やかで顔がいいから、あいつの初恋なんて勝手に叶うもんだと思っていたが、相手を考えたらそうでもないと思った。
間森蓮那ー学年のほとんどの人がその名前を知っている。運動も、勉強も、なんでもできてしまう才色兼備であるー。その分近寄りがたく、SNSもほとんどやっていないみたいだから、交流する機会がほぼない。ただ、俺は彼女と去年同じクラスで彼女と話したことがある。実際はとても話しやすく、笑顔が絶えない子だけれど、どう話しかけたらいいのかわからない。近づくと、オーラって言えばいいのか(?)話しかけないでっていう圧を感じる。本人に自覚はないらしい。まあ、実際そうでもないから、話しかけてみればいいのかもしれないな。問題は、あの子は恋愛に興味がないってことだろう。女子たちが言っていた。嘘か本当かは知らない。でも本当だろうな。親友にそこまで告げるわけにはいかなかった。


2.意識してない

「俐樹って昔は全然モテなかったよな。なのに今はずっと彼女いるし。」
「今フリーって。狙うべきじゃね?お前ら相手にもされないだろうけど笑」
「えー。そんなこと言わないでよ。そっちもうちらの眼中にいないわ。」

「俐樹、あいつ最近めっちゃインスタ更新するよな」
「わかりやすすぎる。」

「俐樹くんが言ってたカフェってこれ?めっちゃオシャレなんだけど」
「わーあいつ。狙っても意味ないよ。好きな人できたって。」
「いいなー俐樹くんの彼女になる人〜。」
「…。」

これって本当に普通のこと?ずっとずっとこの名前が聞こえてくる。意識せざるをえないじゃない。私は困った。でもどうにかこうにかして、そのことを頭から追い出そうと毎日毎日部活へ行って、水の中へ飛び込む。きつい練習が終わった後、人魚姫みたいに髪を水になびかせて、プールに浮かぶのが好き。1日頑張ったと思いながら、なぜだかとても幸せな気持ちになる。

今日は、そのとても幸せな気持ちに、忘れようとしたことが混ざりこんでくる。「俐樹を呼んでこようぜ」といたずらっぽく笑った橘翔が頭をよぎる。困る。困る困る、また抱いてはいけない期待をしてしまう。確かに目があったよね?あの時、私のことをじっと見てた人は、私に気があるの?広瀬俐樹ってどんな人?私のことを好きになってくれる人なんているの?
「あーもう迷惑!!」
誰にも聞こえないくらいの声で言った。でも心の中で、嬉しいと思っている私。本当はすっごく嬉しいという気持ちが心の中で駆け回ってて、どうしたらいいのかわからなくて、知らないあの人のことが好きになったかのようにドキドキした錯覚を抱いている。

恋なんてしたことない。それは嘘だけれど、恋ってこのことなの?素敵すぎない?そんなふうに舞い上がっている自分がいた。


3.お節介

俺があの時のことを翔に話した次の日。俺の周りの奴らが「応援するよ」なんか言ってきやがった。あいつが色々と言いふらしたようだ。まあ、いいけど。
って思っていたけど、全然よくない。あちらこちらで俺をからかっているのか(?)ってくらい俺のことを話し出す。翔なんて、いちいち報告してくる。「ターゲットの超近くで、お前の噂を流すことに成功いたしました!」お節介だ笑。彼女のインスタも探して見たけれど、やっぱりやっていないっぽい。噂のせいで、俺が恋人募集中だということになって、インスタで女子からのDMが相次いでいる。しばらく見ないでおこうかな。だが、翔とのやりとりがインスタのDMなわけで、女子のメッセージを押してしまいそうになる。

「蓮那って全然恋愛に興味ないよね〜。」
「それな。まず全然女子力なくない?前なんて雨でずぶ濡れになって、裸足だったよ。」
「え、引くわー。それに、なんか老けてない?髪切って40代くらいに見える笑笑」
「マジでそれ!」
「それに比べて、あんためっちゃショート似合ってて可愛すぎ!すぐ彼氏できちゃうじゃん!」
「あの人と進展あった?」
「既読すらつかない〜ショック」…。

こんな会話を盗み聞きしてしまった。誰が話していたのかはわからなかったが、いわゆる意識高めな女子たちだろうとはわかった。恋愛に興味ない、ってところ以外は別に気にならなかった。翔によると、間森さんは「高嶺の花」という存在のようだ。確かに、周りの奴らからすれば話すのには気がひけると言っていたし。実際に俺自身、話しかける勇気はない。その上、SNSをしてないならチャンスは全然ない。でも一つ、塾が一緒であることがわかった。が、個別指導である、会うことは模試の時しかできない。こんなに考えているけれど、恋愛に興味がない彼女に話しかけたところで迷惑がられて終わってしまったらどうしよう、とか思ってくる。でも隣に他の誰かが近づいていくことの方が嫌だ。


4.片思い中

私には好きな人がいる。広瀬俐樹くん。とっても爽やかで、イケメン。インスタでDMを送ってみたときに、会話が弾んだのがきっかけで好きになった。私は最近髪を切った。流行りのショートヘア。友達にもたくさん褒められたのがとても嬉しくて、髪を切ったことを広瀬くんにもDMしてみたけど、いまだに既読がつかない。今日は木曜日。もうDMして3日も経つのに!
月曜日に蓮那も髪を切っていた。結構個性的な感じで、本音を言えば、ちょっとおかしい。蓮那は私の周りにいる少し普通の子たちとは違って、恋愛にも興味なさそうだし、身なりに気を配っている様子もあまりない。でも、何もしなくても綺麗な容姿。ちょっとずるいと思う。去年から同じクラスで、出席番号も隣、私の方が可愛くいる努力をしているはずなのに、実際目を引くのはきっと彼女の方だ。だから今回、髪を切って蓮那よりも可愛くなれたことが結構嬉しい。広瀬くんとの恋がうまくいけばもっといいのに。

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忘れられない恋物語

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