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SDGs 信頼・期待アプローチ

前回取り上げた「環境マネジメントシステム」は、各組織内のルール体系でした。
自分たちが業務を遂行する上で不可欠なルール体系を整備するための枠組み(器、入れ物)としての「PDCAサイクル」が正常に機能するためには、P(プラン、つまり計画)段階の二本柱「メンテナンス」と「イノベーション」を分けて扱い、とりわけ後者で「必要な目標」を設定して「DCA」を活かすルール体系にしていくことが、「環境」と「現価値」(前回参照)という(両立しにくいが)大切な価値を(なんとか)両立させていくことで、「見せかけ」「張りぼて」「やってるフリ」を回避していく、という考え方を示しました。

これは言うまでもないことですが、「環境マネジメントシステム」というルール体系は、「星の数ほどこの世に存在する組織」それぞれが、「自分たちが実際に使用するもの」として構築するのであって、どこか他の同業者や有名企業をまねて済ますものではありません。
モノマネは、悪い意味での「究極の張りぼて」ですね。
そんなものは絶対に使えないルール体系(そもそもルールですらないでしょうが…)です。
さすがに全体をまねることはないでしょうが、たとえ部分的であっても避けなければなりません。

また、ある企業がCSRに取り組むにあたっても、本気で成果を上げようとするのであれば、自社(自組織)のルール体系にそれら(CSR的な取組み)を浸透させることになるでしょう。
いわば「CSRマネジメントシステム」なるものが”できあがる”、というイメージです。

ところで、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001が初めて発行されたのは1996年、CSR(SR)の国際規格であるISO26000が発行されたのは2010年、そして2015年にSDGsが誕生しました。
どれも「公の値打ち(みんな全員にとって大切なこと)」を他人事とせずに取り組んでいくということでは方向性を同じくしていますね。
我々が環境問題(あるいはCSR、SDGs)に本気で取り組むためには、「法規制」だけでは足りません。
法規制はトップダウンです。
トップつまり偉い人たち(政治家さんや官僚さん)がその豊富な知識を駆使して「言葉で線を引き、ここまではセーフ、ここからはアウト」という一連のルールを作って、さらにこれを全員に周知させ、これを守ってもらうように働きかけて、これに違反した場合には取り締まる、という具合に法規制が有効に機能するためのハードル(条件)があります。
しかし、「全員が犯人で全員が被害者」という構図を持っている環境問題(CSR、SDGs)は、余りにも大勢の犯人たち(少し誇張しすぎですがご容赦をm(_ _)m)が、今何をしているのか、どんなモノ(たとえば新しい化学物質など)を創り出したのかすら、法規制の番人たち(トップの方々)は把握できないのですから、有効な法規制を作りようがないですし、取り締まることもほぼ不可能、極めて困難です。
つまり、トップダウンだけではうまく機能しないのです。

そうであれば、ボトムアップを活用するしかありません。
もちろん、ボトムアップだけというわけではなく、トップダウンとの組み合わせでスキームを構築していく必要があります。
個々の組織・企業がそれぞれのルール体系の中に環境や社会的責任という大切な価値を尊重する活動を浸透させていくこと、つまり環境マネジメントシステムやCSRマネジメントシステムを構築して、すべての組織・企業に波及する方向へトップダウンによって導いていくこと、こうした社会的なスキームが醸成されることができれば、理想的ですね・・・。

しかし現実はといえば、とても残念なことに、これら3つの動きは、図らずも「ウォッシュ」という不名誉な表現によって批判されています。
「ウォッシュ」すなわち「うわべだけを取り繕う」ような悪しき状態については、前回簡単に触れました。
SDGs「ウォッシュ」を回避して本質的に成果を上げるために個々の企業や組織が具体的にどのように進めていけばよいのか、これについても「信頼」と「期待」がヒントを与えてくれると考えています。

そこで今回は、「ウォッシュ」にならないような健全なSDGsの取組み方を、例の「信頼」と「期待」という2つのキーワードになぞって提案していきます。

SDGsは、「Susteinable Development Goals」の3つの頭文字と複数形のsによる略語で「持続可能な開発(発展)目標」と訳されますね。
中身は一般に「12の目標」と訳されますが、日本人の我々にとっては「12のテーマ(あるいはジャンル)」と「169の目標」と表現した方が分かりやすいと思います。
案外こうした細かい表現のズレが活用の妨げになることがあるので、この文章では、このように表現します。
個人的には、SDGsの基本精神「誰一人取り残さない」という表現が私のお気に入りです。
つまり、人を選別をしない、一部の人たちが生き残れば良いというのではない、いわば「ノアの方舟を作らない」という潔さがとても清々しいですね。
もちろん、これが単なる「強がりのアドバルーン」でなく、愚直にその実現を目指していく姿勢に安心感を抱きます。
この基本精神は、これから行き着くであろう「自動化社会の成熟期」にも我々は確実に引き継いでいく必要があると考えています。

さて、話を戻して、SDGsの「12のテーマ(ジャンル)」および「169の目標」は、すべての項目がすべての組織・企業に当てはまるわけではありません。
国家や行政を実施主体として想定されている項目も少なくありません。
したがって、自分たち(企業・組織)に関係のある項目を探していく作業がスタートラインです。
そこで、この文章では、自分たち(企業や組織)にあてはまる項目を探していく方法を提案しています。
ここでも、「信頼」と「期待」がヒントを与えてくれます。
「信頼」されている立場を意識した「綻び探し」、そして、「期待」されている立場を意識した「宝探し」です。
「信頼」については、「自分たちを信頼している(信頼せざるを得ない)利害関係者」からみて「すでに実現できている良い状態をメンテナンスつまり現状維持すること」によって初めて「裏切らない」つまり「責任を果たす」ことができる、ということでした。
一方の「期待」については、困ったことや放っておけないことがあって解決してほしいというニーズ(期待)に対して、「期待している利害関係者」からみて「これから先に解決できる技術、商品、サービスなどを新たに産み出すイノベーションに挑戦していくこと」でした。
「信頼」は、もともと良い状態を継続することが目的なので、メンテナンスを担当する人々(製造担当など)にとって、良品を低コストで納期通りに製造することが日常業務なので、これらを脅かす状態(不良品、コストアップ、納期遅れなど)を「予防」することが、「(利害関係者からの)信頼を裏切らない」うえでの”本当のお仕事”です。
つまり、「心配しまくる」という姿勢が正しく、今ではリスク管理、リスクマネジメントが脚光を浴びる時代になりました。
SDGsについても同様で、自分の会社(組織)の業務内容に関して、「自分たちの活動や製品によって、他者や周辺に悪影響を与えてしまう」ような事実や危険性があるかどうか、いわば「綻び探し」をします。
このときに大切なポイントは、自分自身(企業・組織そのもの)が直接手を下している事柄だけでなく、自分たちから「命じて」実施させている事柄にもリサーチ範囲を拡大しておくことです。
知りたくないこと、都合が悪いことに目をつぶること、こうした姿勢を続けていると知らないうちに悪影響に「加担」してしまうことがあります。
「命じる」といっても特別なことではなく、業務委託や発注条件には「命じる」要素が含まれていますから、たとえば途上国の業務委託先や発注先に「納期を早めてくれないかな」「もう少しコストダウンしてくれないかな」と気軽に要求すると、ビジネスを継続したければこうした要求を呑まざるを得ず、SDGs目標に逆行する悪影響を与えてしまうことがあり得ます。

こうした目で「12のテーマ」の中の「169の目標」を一つずつ検証していって、「綻び(につながる懸念)さがし」をします。
いくつかの綻びの懸念ポイントが見つかれば、後はリスクマネジメントの要領でアクションプランをルール化すれば、この「信頼」ルートつまり「綻び探し」は完了です。

次に「期待」です。こちらは楽しい「宝探し」です。
SDGsの「169の目標」の一つ一つから「困っている人」「困っていること」に注目して、自分たちの技術やノウハウを応用して解決や緩和に導くことができないか、吟味していきます。
もちろん、実際に救済手段が見つかったとしても、資源不足などがあって着手できない場合の多いでしょう。
それが「思考停止」につながることも頻発します。
しかしここでは、こうしたハードルをいったん取り払って、構想だけでもブレインストーミングのように発案していきます。
その中で、実現可能性が高い構想がいくつかできあがったら、そのときは、他の会社を巻き込んで共同実施することを想定してみてもよいでしょう。
幸いにも、SDGsに対して明確に背を向けている企業・組織は少数派なので、共同プロジェクトの提案は前向きに検討してもらえる時代になってきています。

「信頼」の「綻び探し」、「期待」の「宝探し」いずれも、まずは「自分たちが引き金を引いていること」を認識してみることから始めてみて下さい。
あるいは、「自分たちだけしかできないこと」「自分たちが命じていること」「他者が立ち入れないこと」にも注目して探してみて下さい。
結構たくさん見つかるはずですよ。

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