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【映画評】ポール・ヴァーホーヴェン『氷の微笑』(Basic Instinct, 1992)

 A・ゴンボー(Adrien Gombeaud)曰く、「煙草の煙を介して、女は自らの存在のみならずその快楽を強調する。煙草を吸う女は快楽をわがものとし、それを見せつける。そもそも20世紀になるまで、女性はおおやけの場所で煙草を吸わなかった」。
 カルメンはセビリヤの煙草工場で働く女だった。1820年代のことだ。銀幕上で煙を吐く女は、だから映画史(1895-)のごく初期からいたはずだ。とはいえヒロイン、いやヴァンプやファム・ファタルが堂々と煙草を吸うようになったのは、WW1で(男が戦場に行った代わりに)女性が工場労働に従事し始めて以降だ。
 男でも女でも、紫煙を燻らせている間、その人物は物語におけるヘゲモニーを失わない。ストーンは煙草と共にある役者だ。『プレイボーイ』誌上でも『悪魔のような女』(1995)でもそうだった。彼女はルイーズ・ブルックス、グレタ・ガルボ、ジーン・ハーロウ、キャサリーン・ヘプバーンらの正統な後継者である。

〈引用文献〉Adrien Gombeaud, Tabac & Cinéma: Histoire d’un mythe, Editions Scope, 2008.

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