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28.小学3年生

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破天荒な朝子に目をつけられた、いや気に入られた私は朝子と過ごす事が多くなった。
朝子には遠慮というものがなかった。
"竹を割ったような性格"って朝子の事かもしれない。
「七海はとろいんだねー!」
「何でこんな事もできないんだろ?」
と、純粋な眼差しで私の心をグサグサ刺してきた。
だけど今までのようにヒソヒソ言われたり、プークスクスされるよりは何百倍も心地よいものだった。
「七海は逆上がり出来るようになりたいの?」
と聞かれれば、今までなら”前向きな答えをした方が良いのではないか”という考えから答えを口にしていたけれど
「いや、別にできなくてもいいかな」
と朝子にだけは答えられた。
「まーできなくたって死なないしね!」
と、朝子もそんな私を受け入れてくれた。

三年生に上がってもクラスは同じだった。
うちの小学校は二年に一度しかクラス替えがないので、また二年間朝子と同じクラスで過ごせる事になった。

「そういえば二年生の時に、男子を泣かせてたって噂を聞いたけど」
と朝子に聞けば
「あいつは保育園からの付き合いで、いつもちょっかいだしてくるからねぇ。
七海はすぐナメられるけど、ナメられないようにするのも大事だよ?
バカな奴はすぐ調子に乗るんだから。
ナメてくる奴は力ずくで黙らせる」
と拳を突きだした。
こわ。
”いやいやちょっと暴論では?”なんて一瞬頭をよぎったけれど、朝子の言う通りだ。
朝子と一緒にいる時は、親の職業でからかってくる男子も絡んでこないけど、朝子と私の家は学校を挟んで反対側にあったので一緒に登下校はできないし。
朝子は友達が多い方だったし(と言っても女子特有のベタベタした感じではなく、非常にあっさりとした感じだったけれど)常に朝子といられるわけではない。
「私もこのままじゃいけないのかもしれない」
ぼんやりと”変化”を求め始めていた。


雨の日特有の学校の匂いは嫌いだ。
なんだか気分までジメジメする。
なのに湿度を含んだ本の匂いは、なぜだか嫌いになれなかった。
私は図書室に通うようになっていた。
いつも借りるのはミステリー小説だ。
非現実な事件の起きる世界に没頭する事は、私にとって現実逃避のひとつだった。

「目が覚めると、そこは白銀の世界だった」
と、朝子が呟いた。
「なにそれ?」
と問いかけると
「自分で書いたのに覚えてないのかよ~
去年の冬に、”雪の日”ってテーマで作文書いたじゃん?
七海の作文の書き出しだよ」
すっかり忘れていた。
そういえばそうだった。
あれが何かのコンクールに出されて、金賞みたいなのを貰ったんだった。
母は「賞金ないのね」と面白くなさそうに言っていたけど。
「あれ聞いてさ、七海と話してみたいと思ったんだよね。
ねぇ、小説家になりたいの?なれるよ七海なら」

初めて誰かに「何かになれる」と言われた。
「なれるわけないでしょ」と突き放したけれど、胸の奥が熱くなって涙が出そうになった。

私の母はAV女優で、父はAV男優だ。
しかも前科者。
「なににもなれない」と、祖母から呪いのように植えつけられていた鎖が、朝子の言葉で剥がされていくような気がした。

「まぁ七海が小説家になりたくても、なりたくなくてもいいや。
交換日記しようよ!
七海の書くもの読んでみたいし。
私こう見えて読書好きなんだよ~厳しいよ~」
と、またもや朝子の独断で交換日記を始める事が決まった。


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