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禁断の果実の魔力

林檎

りんご
ではなく
リンゴでもなく
私は林檎と書く

りんごだと、ころんとしたまん丸で赤いりんごを連想するし、
リンゴなら、瑞々しくシャリシャリとした歯応えの新鮮なリンゴを連想する。

其れでも私は林檎と表記するのが一番しっくりとくるのだ。

恐らく、林檎という存在の特異さがそうさせるのだろう。
アダムとイヴが口にしたとも言われる果実、そしてギリシャ神話では最も美しい女神には黄金の林檎なるものが与えられ、その光景が数多くの芸術家によって描かれた。
歴史的には紀元前から栽培されていると言われるほど人類との関わりも密接である。
この神秘性や、芸術性、歴史の深さが林檎をある種特別な存在へと昇華させている気がする。

その林檎は、実は私にとって長らく親しみのある果実ではあったものの、特別好むという程の存在ではなかった。
林檎とは、あくまで日常に何気なく存在するものに過ぎなかった。

その私の価値観を覆すような存在が現れた。

林檎飴である。

林檎飴は、お祭りの屋台で出るものという認識であったが、最近は林檎飴専門店なるものが出来たのだ。
この存在もやはり私の大好きなasmrで知った。(食い意地のはった私にとってasmrは退屈しのぎには最高の動画である)

屋台の林檎飴しか知らぬ私にとって、それは堪らなく好奇心を擽られる存在であった。

味はどうなんだろう?
食感は?
見た目は可愛いし、美味しそうに見える。
色んな味を試してみたい。

あれこれと想像を働かせてみるも、所詮それは想像だ。
しかし、初めて林檎飴のasmrを観たときは、残念ながら私の住む場所は田舎すぎて上陸などしてはいなかった。

美味しいんだろうな。食べたいな。そう夢想しながら動画を観ることしか出来なかった。が、遂に身近に食べられるお店が地元に上陸したのである。
神はこのどうしようもない食いしん坊を見捨ててはいなかった。

早速お店に向かうと…嗚呼、本当に夢にまで見た林檎飴専門店が!

お店の陳列棚ショウケェスにはころんとした可愛らしいりんご飴(此処はりんご飴と表記させてもらう。此方の方が姿を想像しやすいからだ)がちょこんと行儀良く並んでいる。

定番のプレーンも勿論食べたかったが、折角専門店まで来たので、私は一番気になっていたシナモン味にした。

口に近付けると、甘いシナモンの薫りが鼻に触れた。
歯を立てると、先ずはカリカリの薄い飴の食感、次いで林檎のシャリシャリとした瑞々しさと甘美な甘さ。そしてシナモンの甘味と僅かな辛味それらが渾然一体となって口一杯に拡がった。

何と言う美味しさ!
一口で病み付きになってしまった。
今まで身近な存在として認識していたにもかかわらず、私は此の果実の魅力を何も判ってはいなかったのである。

其れ以来、ふとした瞬間に林檎飴を思い出してしまう。引っ越しにより、気軽に食べられる距離ではなくなった今でさえ。(だからこそ、かもしれない)

聖書や神話の登場人物の如く、私もすっかり林檎の魔力に取り憑かれた者になってしまった。
何と言う恐ろしい禁断の果実であろう。



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