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『爆烈刑事 鋼鉄の相棒編』第1話

あらすじ

 高木健吾は麻薬捜査課の熱血刑事である。頼れる相棒は天才チンパンジーのパンチ。二人が長年追っているのは、新型麻薬HGを製造密売している巨大地下組織〈ブラックファントム〉だ。謎多き組織で、いまだ〝タナカ〟と呼ばれるボスの正体も、アジトの場所もつかめていない。
 そんなとき、パンチが発情期になって人間の女性を襲ってしまい、強制動物園送りになってしまう(後に非人道的動物実験施設送りに)。
 高木の新しい相棒としてやってきたのは、なんと大手電気メーカーが開発した最新型アンドロイドのロイだった。刑事として模範的で有能だったが、昔気質のアナログ人間である高木はどうしても気に入らず・・・
 

人物表(第1話)

高木健吾(27)麻薬課の熱血刑事。昔気質のアナログ人間。
ロイ(製造5年)麻薬課に試験的に配属になったアンドロイド刑事。高木の新しい相棒。有能だが堅物。
パンチ(10)麻薬課のチンパンジー刑事。高木の元相棒。人として育てられた天才チンパンジー。人間の女好き。
山田(46)麻薬課の課長。動物嫌いでハイテク好き。嫌味たらしい。
川さん(53)麻薬課のベテラン刑事。
ジャガー(28)〈ブラックファントム〉の女殺し屋。
斧男(42)獰猛な殺し屋。


本文

○埠頭・情景(深夜)
大きな倉庫がいくつも並んでいる。
そのうちの一つが、謎の巨大地下組織〈ブラックファントム〉の倉庫である。
 
〇〈ブラックファントム〉の倉庫・中(深夜)
広くてガランとした空間。所々にカモフラージュのための資材がおかれている。奥には小さな中二階がある。
幹部の鈴木(54)だけが椅子に腰かけ、十人程いる部下(密売人)たちとやりとりしている。
鈴木の傍らには、女殺し屋のジャガー(28)が補佐として静かに立っている。
鈴木「売り上げを見せろ」
と部下の中ではリーダー格である斎藤(35)に、顎で指示する。
斎藤「わかりました」
テーブルにズラッといくつも並べてあるアタッシュケースの一つを鈴木に見えるように開ける。札束がいっぱいに詰まっている。他のアタッシュケースも、他の部下たちが次々と開けていく。すべてに札束がいっぱいに詰まっている。鈴木と部下たち、満足そうにニヤニヤと微笑む。(唯一、ジャガーのみ無表情)
鈴木「ボスもお喜びになるだろう」
ジャガーにむかって、
鈴木「おい」
運搬用のパレットに荷物が山積みされており、そこに布が被せてある。
ジャガー、その布をバサッと取る。
鈴木「先月の二倍の量だが、すぐにさばけるだろう」
小分けされたビニール袋が大量に積んである。透けて見える中身は、鮮明な青色の錠剤。新型麻薬のHGである。
鈴木「HGの市場人気はうなぎ上りだ。われわれ〈ブラックファントム〉はますます栄え精力絶倫。鰻だけにな。フッハッハッ!」
愉快そうに大笑いする。
斎藤と部下たちも、つまらない冗談にシラケつつも愛想笑いと拍手。(唯一、ジャガーのみ無表情)
 
○同・中二階(深夜)
倉庫内全体を見下ろすことができる。
高木健吾(27)は、うつ伏せで身を隠し、下の様子を見張っている。
〈ブラックファントム〉のメンバーたちが笑ったり拍手しているのが見える。
高木「調子に乗りやがって。だが今夜が年貢の納め時だ」
腕時計に目をやり、
高木「そろそろ応援が到着するころだな」
すぐ隣りには、チンパンジーのパンチ(10)が同じようにうつ伏せで身を隠している。(パンチは服を着ている)
パンチ、もの言いたげな顔を高木にむける。
高木「あわてるな。むこうは全員武装してるんだぞ」
ポケットからスマホを取り出して、
高木「慎重に行動するんだ。警部に問い合わせてみよう」
操作を誤り、アイドルのコンサート動画の音声を大ボリュームで鳴り響かせてしまう。
高木「!」
あわてて止めようとするも、いまいち操作法がわからない。
鈴木「誰だ!」
メンバー全員がこちらをむく。
高木、ガバッと立ち上がって警察バッジを掲げ、
高木「警察だ! おまえたちを麻薬密売の容疑で逮捕する! 神妙にお縄を──」
一発の銃声とともに、掲げていた警察バッジが吹っ飛ぶ。
すでにメンバー全員が銃を抜いており、高木にむかって一斉射撃する。
高木「くそっ!」
あわててまた身を伏せ、銃を抜いてめくらめっぽうに撃ち返す。(パンチは銃を所持していない)
だが双方射撃はへたくそで、銃弾はいっこうに相手に当たらない。
そのうちの一発が壁に当たって跳弾となり、鈴木の目の前にいた部下の一人の胸に命中して倒れる。
鈴木「!」
さらにまた一発が壁と鉄の支柱に当たってやはり跳弾となり、部下の一人の頭に命中して倒れる。
鈴木「おい、やめろ!」
部下たち、撃つのを止める。
鈴木「撃つな、危ない! ヤッパを使え!」
部下たち、日本刀や鎖鎌などめいめいの武器を(どこからか)取り出す。
高木「やるか!」
パンチ「ウッキー(あたぼうよ)!」
高木とパンチ、階下へ飛び降り、そのまま敵の集団に突っこんでいく。
いっせいに部下たちが襲いかかってきて、たちまち乱闘となる。
高木、トンファーを(どこからか)取り出し、見事なトンファー捌きで次々と倒していく。
パンチ、ものすごい怪力でめちゃくちゃ強い。部下たちをドロップキックで蹴り倒し、ジャイアントスイングでぶん回して投げ飛ばし、ブレーンバスターでノックアウトする。(噛みつきや引っ掻きなどの本能的な戦い方はしない)
鈴木「相手はたった一人と一匹だ! さっさとしとめろ!」
高木、鈴木のほうに向かっていく。
そこに大柄(身長185㎝)なジャガーが立ちふさがり、西洋の大剣を振るってくる。
高木「!」
トンファーで、大剣の鋭利な刃を弾く。
高木「こいつは鋼鉄製だ!」
高木とジャガーの一対一の闘いが始まり、互角の勝負が続く。
高木「ならば!」
さらにもう一本のトンファーを抜いてダブルトンファースタイルになると、優勢になる。
ジャガー、トンファーで手の平を叩かれ、大剣を取り落としてしまう。
ジャガー「(悔しそうな顔)くっ!」
そのとき倉庫の外から、複数のパトカーのサイレンの音が響いてくる。
鈴木「ちっ、援軍だ!」
真っ先に逃げようとする。
そこへパンチが飛んできて、鈴木の背後からフェイスロックを極める。
鈴木「ぐわっ!」
高木「そいつは組織の幹部だ。絶対に逃がすな!」
警部(54)を先頭に、大勢の武装した警察官が飛び込んでくる。
警部「警察だ! 武器を捨てて全員両手を上げろ!」
部下たちは観念し、言う通りにする。
ジャガー、素早く大剣を拾うと躊躇することなく、パンチにフェイスロックを極められてもがいている鈴木の首を刎ねる。
パンチ「!」
鈴木の体がバタンと倒れ、パンチのロックした両腕には鈴木の首だけが残される。
高木「口封じか!」
高木たちが驚いている隙に、ジャガーはあっというまに裏口のドアから外へ逃げる。
高木「待て!」
あわてて追いかける。
だが裏口のドアを開いたとたん、目の前でジャガーが操縦するヘリコプターが離陸し、飛び去ってしまう。
高木「くそっ!」
 
〇八曲警察署・前
正面出入口に『警視庁八曲警察署』の文字。
 
〇同・取調室・中
高木、椅子に座らされている斎藤の襟首をつかんで、
高木「〈ブラックファントム〉のアジトはどこだ!」
斎藤「(ビビッて)し、知らない」
高木、斎藤の顔をぶん殴る。
斎藤は椅子から転げ落ちて床に這いつくばる。
 *
高木「おまえらのボス〝タナカ〟というのは、どこの何者だ!」
上半身裸にした斎藤の背中を鞭でバチーンと思い切り打つ。
斎藤「ウグッ! 知らない! 会ったこともない!」 
 *
高木「とぼけるな!」
椅子に座っている斎藤の手の爪をペンチで剥ぎ取っていく。
斎藤「ギャーーッ! ほんとだって! 俺みたいな下っ端には何も教えてくれない!」
 *
高木「人権を踏みにじる野蛮人め!」
斎藤を正座させ、江戸時代の石抱責めにする。
斎藤「グ、グアーーッ!」
 *
高木「おまえは人間の皮を被った悪魔だ!」
斎藤の頭部にセットしてあるのは、中世ドイツの拷問具である頭蓋骨粉砕機である。高木、頭上のハンドルを回していく。
斎藤「ド、ドクター・・」
朦朧とした意識で口にする。
高木「医者を呼べって? おまえにそんな資格はない!」
さらにハンドルを回していく。
斎藤「ア・・アガガ・・ドクター中村・・・」
高木「主治医の名前か? 地獄で悪魔に治してもらえ!」
さらにハンドルを回していく。
斎藤、ガクッと意識を失う。
高木、壁の時計に目をやる。六時を過ぎている。
高木「もう定時か。強情な奴め、今日はこのくらいにしといてやる」
 
○マンション・全景(夜)
 
○同・高木の部屋・玄関前(夜)
帰宅した高木、鍵を取り出してドアを開け、中に入る。
 
○同・高木の部屋・中(夜)
高木、上着をソファーの上に脱ぎ捨てると、冷蔵庫を開けてビール缶を取り出す。ワンルームで、いかにも男の独り暮らしといった感じのむさくるしい部屋。
高木、ちゃぶ台の前に腰を下ろし、ビールを飲んで一息つく。
高木「今日も一日、よく働いたなあ」
リモコンを手にしてテレビをつけ、チャンネルを一通りチェックしていく。
高木「野球はやってないか」
他愛ないトークバラエティに番組を合わせる。
高木の背後の壁際に、草野球で使うグローブと金属バットとスポーツバッグがおいてある。
そのスポーツバッグのファスナーが、ひとりでにゆっくりと開いていく。実は中に体を小さく折りたたんだ殺し屋が潜んでいて、内側から開けているのだ。
高木、テレビを見て大笑いしている。
バッグの中から、殺し屋の斧男(42)が顔だけを出し、高木に獰猛な眼光をむける。
斧男「ウガーッ!」
雄叫びを上げ、スポーツバッグの中から飛び出し、高木の脳天にむかって武器の斧を振り下ろす。
高木「!」
とっさに身をかわす。
空振りになった斧は、ちゃぶ台を真っ二つにする。凄まじい怪力である。 
高木「なんだおまえは⁉」
斧男、問答無用で斧を振り回して襲ってくる。スポーツバッグの中に入っていたとはとうてい信じられないほどの巨体である。
高木、必死で斧をかわしていく。
サッと身を低くして横殴りの斧を避けると、空振りになった斧は部屋干ししていた洗濯物を何枚か引っ掛け、それが斧男の頭に被さる。
斧男、視界を塞がれ、急いで洗濯物を剥ぎ取ろうとするが、慌てているせいかもたつく。 
高木、その隙に金属バットを手にし、しっかり構えてプロ選手並みの良いフォームで思い切りスウィングして斧男の頭をかっ飛ばす。
斧男、あっけなく気絶して倒れる。
高木「こいつ、何者だ? 空き巣にしては手ごわすぎるな」
斧男のズボンのポケットが膨らんでいることに気づき、財布かと思って取り出してみると、それは駄菓子の〈ベビースターラーメン〉である。さらに上着のポケットも探ってみるが、〈うまい棒〉や〈ヤングドーナツ〉や〈チョコモナカ〉や〈ヨーグル〉や〈フルーツマーブルガム〉や〈さくらんぼ餅〉等のキャラに似合わない可愛い駄菓子ばかりが出てくる。
高木「・・!」
半袖シャツの袖から、刺青の一部が見えている。
高木、駄菓子をポリポリと食べながら、斧男のシャツを脱がす。
腕と背中に複数の刺青がある。そのうちの黒い熱帯魚(ブラックファントム・テトラ)の刺青を指でなぞって、
高木「これは、〈ブラックファントム〉のメンバーであることを示す刺青だ!」
さらに別の刺青(斧や七つ並んだドクロマーク)も指でなぞっていき、
高木「こっちのは、この男のコードネームを示し、この下のは仕事の実績──」
QRコードの刺青もあり、スマホで撮影してサイトに飛んでみる。
高木「さらにこれは、この男の本名と住所と生年月日と保険証の番号だ・・!」
ふくらませたフーセンガムがパンと弾け、  
高木「この前の手入れの報復か! パンチがあぶない!」
すぐにスマホで電話をかけるが、「ただいま電話に出ることができません。しばらくたってからおかけ直しください」というアナウンス。
 
〇パンチの夢の中
──自家用プール。
サングラスをかけたパンチ、プールサイドのビーチチェアに気持ちよさそうにもたれている。どこからかハワイアンのBGМまで聞こえてくる。
プールの中では、人間の水着美女たちが戯れている。
パンチの元に、ひときわゴージャスな水着美女が淫靡な微笑みを浮かべて、トロカルドリンクを運んでくる。
パンチ、ムラムラして、グラスを手わたしてくるその水着美女のブラを外そうと指を伸ばす。
 
〇パンチの家・リビング(夜)
パンチ、ソファーで目覚める。(バスローブ姿)
ガッカリの顔。
リビングの飾り付けは、高木の部屋とは対照的にお洒落で趣味がいい。
棚の上には、育ての親である老夫婦(故人)と小猿の頃のパンチがいっしょに写っている写真立てが飾ってある。
パンチ、酒棚においてあるワインをグラスに注ぎ、飲む。
そのとき、玄関のチャイムが鳴る。
 
○同・前の道~前庭(夜)
前庭のあるお洒落な一戸建てである。(自家用プールはない)
高木、バイクで駆けつける。
すでにパトカーと救急車が到着しており、警官や救急隊員たちが立ち働いている。
近所の人たちも何事かと、家の外に出て見物している。
救急隊員、毛布を被せてある人物を乗せた担架を救急車に乗せる。
高木、バイクを降りて前庭に入り、担架に駆け寄る。
高木「パンチ!」
担架の毛布を剥ぎ取る。
担架に横たわっているのは人間の女性(42)である。意識もあり軽傷のようだ。
高木「こいつが殺し屋か!」
いきなり女性の服を剥ぎ取ろうとする。
女性「(仰天して)ひいっ!」
高木「どこだ! 組織の刺青は!」
女性、手にしている宗教本とトゲだらけのしゃもじのような奇怪な祈り道具を掲げ、
女性「邪悪な悪魔よ去れ! この世から立ち去れ!」
と、すごい形相で叫ぶ。 
救急隊員たちも驚き、高木を制止する。
救急隊員A「この人は被害者ですよ!」
高木「なに?」
家の中から、手錠をかけられてショボンとしたパンチが警官二人に連行されて出てくる。パンチの眉間辺りには、ケガをして血を流した跡がある。
高木、近くにいる警部に駆け寄り、
高木「何があったんですか?」
警部「強姦未遂容疑だ。新興宗教の勧誘で訪ねてきた女性をパンチが襲ったらしい」
高木「はあ?」
 
〇八曲警察署・前
 
〇同・映像解析室
最新の映像解析機器がそろっている。
高木と技術職員が話している。
高木「組織によるハニートラップということは考えられないか?」
技術職員「これが、パンチ刑事の自宅の監視カメラの映像です」
技術職員が機器のスイッチを入れると、目の前のモニターに映像が映し出される。
──監視カメラの映像。
玄関のドアが勢いよく開き、被害女性が飛び出てきたかと思うと、足をもつらせてすっ転ぶ。そのとき、手にしていた勧誘用の宗教本とトゲだらけのしゃもじのような祈り道具を前方の地面に投げ落としてしまう。
遅れてパンチ(裸である)が飛び出てきて、背後から女性に抱きつき、上着を脱がそうとする。明らかに交尾しようとしているのがわかる。
女性、脱皮するように上着だけを脱いで逃げ出す。
パンチ、さらに追いかけようとするが宗教本を踏んで足を滑らしてずっこけ、そのときに祈り道具のトゲに顔面をぶつけてしまい、痛みでのたうち回る。
高木「(失望の表情)・・・」
 
〇同・麻薬捜査課・課長室
高木、デスクに着いている課長の山田(46)と話している。
山田、最新のモバイルパソコンをいじりながら、
山田「もう10歳だからな。生殖可能な年になって凶暴化したんだろう。これだからケモノは」
実に嫌味たらしい口ぶりである。
山田「危険なのは以前から専門家からも指摘されてたが、署長がつっぱねてたんだ。私は始めから大反対だったがね」
高木「課長がパンチを嫌ってたのは知ってます。あいつ、あんまりにも課長の嫌味に腹が立って、その場で脱糞して投げつけて課長の顔面に──」
山田「言うな!」
高木「こんどのことも悪気はなかったんです。彼なりの求愛行動をしようとしただけで・・」
山田「被害者の女性が訴えを起こしてる。あれは呪われた獣で地獄に堕ちるべきだと。その通りだな。ただ免罪符代二百万を支払えば和解可能らしいから、そちらはそれでいいとして──」
高木「パンチは功績が多いですから、それに免じて殺処分だけは」
山田「引き取りたいという奇特な動物園があってな。運がいい。大温情だ」
高木「動物園? 彼は生まれたときから人間として育てられたから動物園は・・」
山田「嫌なら殺処分だ」
高木「・・・」
山田「それで、おまえの新しい相棒だが」
高木「それならベテランの川さんを」
山田「ダメだ。他の山をかかえてる。新人と組んでくれ」
高木「新米? 御冗談でしょう?〈ブラックファントム〉に殺されますよ」
山田「(自信たっぷりに)名門出のきわめて優秀な新人だ」
高木「一流大学出のお坊ちゃんなんか、現場じゃ役に立たない」
山田「心配するな。おまえ好みのタフな男だ」
高木「そんなのいるんですか? 今どきの若者で」
山田「(ドアにむかって)入りたまえ」
入ってきたのは、スーツ姿の堅物っぽい雰囲気の三十歳くらいに見える男性。だが両のこめかみの部分に、未来っぽいアンテナのような機械部品が埋め込まれている。
ロイ「初めまして、高木刑事。私は新任のロイです」
高木「・・?」
山田「彼は電機メーカーの名門、サンライズ社の最新モデルのアンドロイドだ」
高木「はあ? ロボット?」
ロイ「はい、私は人間ではありません。人工的に造られたAI搭載のマシンです」
高木、大笑いする。
高木「ドッキリか。一瞬本気にした。こんな人間そっくりのロボットいるわけないもんな」
ロイの肩にポンと手をおいて、
高木「おまえも課長の下手な冗談に付き合わされて大変だな。交通課あたりの新人か?」
山田、呆れ顔。
山田「ロイ君、見せてあげてくれ」
ロイ「わかりました」
高木「?」
ロイ、背広とシャツの前を開けて、人間と変わらない肌を見せる。それから胸部の蓋が開き、内部の稼働中の精巧な機械がガラス越しに露わになる。
高木「(仰天して)機械だ──っ!!」
山田のほうをむいて、
高木「階段をのぼるロボットをテレビで見たことあるけど、いつの間にこんなに進化を?」
山田「おまえは常日頃から科学に関心がないアナログ人間だから、時代に取り残されるんだ」
高木「(自信なげに)そんなことないです。スマホの使い方も覚えたし」
山田「サンライズ製のロボットといえば軍用や介護用が有名だが、このほど警察業界にも進出することになったんだ。彼はその試作品でね、数ある警察署の中から、わが署でテストすることが決まった。実に名誉なことだ。(自慢げに)実は私はサンライズのヘビーユーザーでね。オンラインで社長と話したこともあるんだ」
高木「それにしたってロボットが相棒なんてありえない。非常識ですよ」
山田「おまえが言うか」
 
〇同・麻薬捜査課・刑事部屋
高木、ドアを開けて課長室から出てくる。 
デスクにいる川さん(53)に声をかけられる。
川さん「おい、高木」
高木「なんです、川さん?」
川さん「鈴木が吐いた〝ドクター中村〟ていう名前を調べてみたんだがな」
高木「ん?(思い出して)あ、ああ・・」
川さん「日本中央大学の高名な遺伝子生物学者、中村博士のことかもしれん」
高木「そうなんですか?」
川さん「科学班の連中によると、HGには何らかの遺伝子改造が施されてるらしい。そうすると、HG開発にこの博士が関わってるセンはあるぞ」
中村博士の資料を手にして、
川さん「しかもヤッコさん、お偉い博士のわりにギャンブル趣味があって、いつも借金取りに追い立てられてたらしい。それが、五年くらい前から急に金回りが良くなったみたいだな」
高木「五年前というと、HGが出回るようになった頃だ。よし、しょっぴこう」
 
〇車道A
覆面パトカーが走っている。
 
〇車内
高木が運転し、助手席にはロイが乗っている。
高木「なんでお前まで来るんだ」
ロイ「あなたのパートナーを務めるよう指示されていますので」
高木「ロボットなんかに務まるはずがない」
ロイ「前任者はチンパンジーの方だったらしいですが」
高木「奴は天才チンパンジーだ。人と同じ動物だ。おまえはコンピューターかなんか知らんが、しょせんは作りものの機械だろ」
ロイ「機械としての利点も少なくありません」
高木「たしかに、排泄の世話をしなくていいし、病気になったりもしないからな」
ロイ「それはペットロボットの話です」
高木「生身の女と付き合うの面倒くさいし、金ないのに子供が出来たりしたら・・」
ロイ「それは18禁のラブドールです。私は人型の実用ロボットです」
高木「パンチは十人力の怪力だった。おまえは何万馬力なんだ? 空は飛べるか? 尻から機関銃は?」
ロイ「それはフィクションの存在である鉄腕アトムです。わたしのボディパワーは最大で平均的な人間の約二倍にすぎません。空は飛べませんし、殺傷力のある武器は装備していません。ですが警官としての知識と倫理観は備えています」
高木「倫理観? ロボコップ気どりか?」
ロイ「あれはタイトルに反して、ロボットでなくサイボーグです。次の角は左です。この先で工事をしていますので」
高木「なんでわかる?」
ロイ「常にネットにアクセスして最新情報を得ていますので」
高木、スマホを取り出し、
高木「そんなもの、スマホで調べればわかる」
ロイ「わたしが近くにいるときは、〝sunrise‐roy982〟でネットを利用することをお勧めします」
高木、スマホを操作して、
高木「ワイファイに繋がった! おまえ、フリーワイファイになるのか、こりゃいいや」
だがハッと思い直して、
高木「いや、こんなことくらいでおまえを相棒とは認めないぞ!」


 



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