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『爆烈刑事 鋼鉄の相棒編』第2話

人物表(第2話)

高木健吾(27)麻薬課の熱血刑事。昔気質のアナログ人間。
ロイ(製造5年)麻薬課に試験的に配属になったアンドロイド刑事。高木の新しい相棒。有能だが堅物。
パンチ(10)麻薬課のチンパンジー刑事。高木の元相棒。人として育てられた天才チンパンジー。人間の女好き。
ドクター中村(67)天才遺伝子学者。新型麻薬HGを開発した。多趣味。          


本文

〇車道B
覆面パトカーが走っている。
 
〇車内
高木が運転し、助手席にはロイが乗っている。
高木「どんなヤマかわかってるのか?」
ロイ「任務の最終目的は、麻薬組織〈ブラックファントム〉の壊滅です」
ロイ「〈ブラックファントム〉はHGの製造と密売で、いまや日本最大の麻薬組織とみなされています。ボスはたった五年で組織を巨大にしたカリスマ的人物ですが、〝タナカ〟という呼び名以外は一切データがありません。アジト及びHGの製造工場の場所も一切不明です」
高木「(苦々しそうに)文字通り幽霊みたいな組織だ。まったく尻尾がつかめない」
 
〇日本中央大学・正面門
 
〇同・守衛所
正面門を入ってすぐの所にある。
高木とロイ、守衛と話している。
高木、警察バッジを見せて、
高木「中村博士に会いたいんですが」
守衛、ロイの奇妙な顔をいぶかしんで、
守衛「あの、そちらの方は・・?」
高木「怪しい物じゃない。警察の備品だ」
ロイも警察バッジを見せる。
守衛「中村博士なら、4号館三階の研究室にいると思います」
 
〇同・4号館三階の廊下
高木とロイ、歩いている。
〈研究室 中村博士〉の名札の付いたドアを見つける。
高木「ここか」
ドアを開ける。
 
〇同・研究室・中
高木とロイ、中に入ってくる。
中村博士(67)は、4、5人の学生たちにむかって自慢げに、
中村「細かい講釈は後でいい。君たち、まずはこれを見たまえ」
中村はボサボサの灰色髪と髭をたくわえ、シミだらけの白衣を身につけたマッドサイエンティスト風だ。
高木とロイ、学生たちにまぎれるが中村は気づいていない。
中村「特別な遺伝子操作でわしが造った兎豚だ」
大きな柵があり、そこに兎の耳を生やした奇妙な豚がいて、エサの残飯をむさぼり食っている。
中村「この通り、エサは安価な人間の食べ残しで十分。病気にもなりにくく飼育の費用もわずかですむ」
兎豚の親が交尾している。すでに小さな子兎豚が山ほどいる。
中村「見たまえ、そしてこの繁殖力を」
中村と学生たち、奥へ歩き進む。高木とロイもついていく。
中村「これが調理済みのものだ」
化学実験用のテーブルに、大皿に乗った兎豚の腹を裂いた丸焼きがおいてある。
中村「さあ、試食したまえ」
全員に皿とフォークが渡される。学生たちと高木とロイ、丸焼きの肉を切り取って食べる。
高木「旨い!」
学生たちも舌鼓を打っている。
ロイも肉を口にして、
ロイ「最高級の豚肉の味ですね」
高木「わかるのか?」
ロイ「味覚センサーを搭載してますから。摂取したものをバイオエネルギーに変換する機能もあります」
内臓も丸焼きにして、部位ごとに皿に盛っている。
中村「内臓もいきたまえ。心臓、肝臓、胃、大腸、小腸、脳ミソ。すべて可食部だ」
高木、肝臓を口にして、
高木「こりゃ、最高級のフォアグラの味だぜ!」
学生A「心臓はまるでキャビアだ!」
学生B「膵臓はトリュフね!」
学生C「この大腸はからすみ!」
学生D「脳ミソはまるでデザートのプリンよ!」
中村「フォアグラやキャビアやプリンの遺伝子も入れてある。わしは食通を自認しておるが、こいつは一匹で最高級のフルコースだ。これで将来の食糧危機問題は解決する」
学生が二人、あいついで泡を吹いて倒れ、女子学生の悲鳴が上がる。
中村「うーむ、そこそこの確率で毒が発生してしまうのが難点か・・」
高木、あわてて胸を押さえて自分の体調を確かめる。大丈夫のようである。
中村博士に近づいて警察バッジを見せ、
高木「警察だ。中村博士、あんたに話が──」
中村、血相を変えて逃げ出す。
高木「あのジジイ、やっぱりクロか!」
高木とロイ、追いかける。
 
〇同・4号館三階の廊下
高木とロイ、中村を追いかけている。
高木「ジジイの足で逃げられるわけないだろ」
 
〇同・広場
中村、校舎から駆け出てくる。外見からは想像できない俊足である。
そのまま正面門から外へ飛び出していく。
遅れて高木とロイが走り出てくる。 
高木「くそ、待てー!」
  
〇道路
高木とロイ、中村を追いかけている。まったく差は縮められない。
高木「クソ、なんだあのジジイの走りは!」
ロイ「データによると、学生時代から陸上競技で活躍し、現在でもマスタークラス入賞の常連らしいです」
高木「おい、おまえはマシンだろ。もっと速く走れないのか!」
ロイ「持久力はありますが、走る速さはこれが限界です」
オープンカーに乗ったチャラい男が、停車して若い女性をナンパしている。
高木「警察だ、借りるぞ!」
オープンカーに飛び乗り、驚いているチャラい男を外に捨てて運転席に座ると、すぐに発進する。
ロイ「この行為は職権濫用にあたる可能性があります」
と言いつつ、ロイも助手席に乗っている。
高木「始末書の印刷機能は付いてないのか?」
すぐにオープンカーは中村に追いつく。 
中村、それに気づいて焦りの顔。
前方に信号待ちしているバイクを見つけるとすぐに駆け寄り、またがっている男を引き倒して奪い、発進する。
高木「あの野郎!」
中村が運転するバイクはスピードを上げ、他の自動車や立て看板などの障害物を交わし、上り坂の頂上で大ジャンプする。
高木「なんだ、あの運転テクニックは!」
ロイ「データによりますと、中村博士はオフロードバイクの大会でも入賞の常連らしいです」
高木「なんで趣味が充実してんだ。見た目通り研究に没頭してろよ」
 
〇路地
バイクは狭い路地に入る。
遅れてオープンカーも入る。
高木「くそ、道が狭い! 車は不利だ」
だが角を曲がると、突き当りは高い塀になっている。
高木「しめた、行き止まりだ! 墓穴を掘ったな!」
オープンカーを停車する。
中村、あわててバイクから降り、あたりをキョロキョロと見回す。
高木「観念しろ! もう逃げ道はない!」
中村、垂直の塀を駆け登ったかと思うと、ジャンプして家屋の屋根の上に飛び移り、そのまま軽快な身のこなしで逃げていく。
高木「なんだありゃ? 鼠小僧かよ?」
ロイ「データによりますと、中村博士の最近のマイブームはパルクールのようです」
高木「このままじゃ、逃げられちまうぞ!」
ロイ「仕方ありません」
ロイの右腕がカチャカチャと変形して銃のような形になり、20メートル程先の屋根の上にいる中村に狙いを定める。
高木「おい、殺すなよ」
ロイ「これは最新のショックガンです。射程距離は30メートル」
高木「そんなものがあるならさっさと使えよ!」
ロイ「65歳以上の被疑者には医学的理由で使用制限がありますので。この場では上司代理であるあなたの許可が必要です」
高木「やれ! 許可する」
ショックガンなので無音で光も出ないが、中村はその場に崩れ落ちる。
 
〇屋根の上
中村はまだへたり込んでいる。
そこへ高木とロイが来る。
高木「てこずらせやがって。さあ、立て」
中村の腕を引っ張って無理やり立たせる。
中村「わしは何も知らん」
高木「とぼけるな! おまえが〈ブラックファントム〉のメンバーであることはわかってるんだ」
中村「ちがう、わしは仲間じゃない。頼まれてHGを開発しただけだ」
高木「アジトはどこにある!」
中村「そ、それを言うとわしは消されてしまう」
高木「まあいい、くわしい話は署で聞く。さあ、歩け」
中村はまだ足元がふらついているが、高馬は無理やり歩かせようと腕を引く。屋根と屋根の距離は密接しているが、それでも1メートルくらいの隙間はある。
ロイ「高木刑事」
高木「なんだ?」
ロイ「ショックガンの身体的影響の回復には三十分ほどかかりますから──」
中村、足をもつらせて屋根と屋根の隙間からすっぽりと落下する。

〇警察病院・外観
大きな総合病院である。
 
〇同・中村の個室(4F)・中
意識のない中村、酸素マスクと点滴を付けられてベッドに横たわっている。外傷が酷くてギプスや包帯もしている。
高木とロイ、医者と話している。
高木「どんな具合です?」
医者「まだ意識は戻りませんが、命に別状はありません」
高木「こいつ、気がついたら必ず吐かせてやる!」
拷問具の〈苦悩の梨〉を手にしている。
 
○マンション・高木の部屋・中(夜)
高木、ちゃぶ台でビールを飲みながらテレビを見ている。
高木「今日も一日、よく働いたなあ」
 *
番組は報道バラエティである。
女子アナ「次は、最近大人気のチンパンジーの話題です」
画面が、スタジオから動物園の正面門の映像に切り替わる。
『兵庫県 はりま動物園』というテロップが出ている。
 *
高木「たしかここは・・」
 *
チンパンジーの檻の前に客が大勢集まっていて、歓声を上げている。
檻の中にいる全裸のパンチ、岩の上に立ち、タコ踊りのようなダンスをノリノリで披露している。
テレビのN「お客さんの前で見事なダンスを披露するパンチ君。飼育員によりますと、誰に教えられたわけでもないのに自ら踊りはじめたそうです。ひょうきん者のパンチ君見たさに、連日お客さんが押し寄せています」
 *
高木「元気そうで良かったな」
ちゃぶ台においてあるスマホの着信音。手にして画面を確認する。
高木「メールか。パンチからだ! 動画が付いてるのか。再生はどうやるんだ? えーと、これか」
    * 
動画が再生される。
パンチが嘆きの鳴き声を上げながら、手話で話している。テレビに映っていた動物園の檻の中だ。
高木、手話を読み取りながら、
高木「〝これは飼育員からスリ取ったスマホだ。園長に命令されて、客寄せのためにバカな芸をやらされてる。逆らったら殺処分だと脅されて。自分が見世物になったみたいで惨めだ〟」
    *
高木「(同情して)そうだったのか」
    *
パンチの動画はさらに続いて、
高木「〝だがほんとうに耐えられないのは、野蛮で不潔な獣どもと一緒なことだ。特にやっかいなメスが一匹いて・・毛深い女は苦手だ。早く助け──〟」
背後から一匹の(やっかいなメスの)チンパンジーがパンチに飛びついてきて、そこで動画が途切れる。
    *
高木「我慢しろ。おまえの居場所はここにしかない」 



  

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