わたしの本棚 スパイラル推理の絆からみる問いかけ
『スパイラル〜推理の絆』という作品を知っていますか?
メディアものは歴々の哲学的な思想が織り込まれている作品も多々あります。が、
いまにつうじる哲学的な問いに挑んでひとつのメッセージを伝えようとしている作品もあったりします。
周りの人はもちろん、自分の身体・能力・心すら味方にならないとしたら、最後に拠り所になるものは何なのか。
そんなデカルト的な暗闇を手探る問いかけが本作には込められています。
作品の概要としては
城平京氏が原作、水野英多氏が作画。それぞれ『虚構推理』・『異世界ピクニック』が直近の代表作かと。
天才的な兄、鳴海清隆が「ブレードチルドレンを追う」と言葉を遺して失踪、2年後に弟である歩の通う学園で不可思議な事件が起こったことを機に、とある子供達と因縁と血を巡る物語に巻き込まれていく…ミステリ・サスペンス・アクション・SFと様々な転調で織りなされる重厚ストーリーとなっています。
哲学的な(倫理的な)問いに挑んでいるところはどこかといえば、終盤の13巻〜15巻になります。
※ここからネタバレが入りますので「まっさらな状態で読みたい!」という方は回れ右をお願いします💦
「ナルミアユムはきわめて人工的な存在なのかもしれない」
(14巻抜粋)
そうです、終章に入って、主人公・鳴海歩が実はカリスマ的兄・清隆が不測の事態で怪我や病に侵されたときのドナー(取替部品庫)として生み出されたことが判明します。
しかも部品として完ぺきに一致するようクローンとして。
だから特技も成績も、果ては好きな人まで否応なく兄とかさなったんですね…
完全にオリジナルとコピーの関係性。加えて絶望的なのは、未発達技術でつくられた身体に欠陥があり二十歳まで生きられない時限爆弾付き。
オリジナルを超えるための時間の猶予もないわけです。
それでも主人公は、余命を乗り越えて生き永らえることで、同じく血統に問題を抱えた、悪魔的天才であり殺人鬼、兄のライバルである男の血の呪いを植え付けられてしまったブレードチルドレン達へ
「自分のことは自分で救えるかもしれない」
と希望の光をみせようとします。
ただ、ここで終わらないのが兄清隆。
弟が命懸けで策に挑もうとする強い心の拠り所を奪うことで、彼を打ちのめして自分の策に乗らせんと止めをうちます。
それが
初めから献身的に付いてきてくれた存在が実はすべて虚像だった
という残酷な事実です。
第一話から常に隣に寄り添ってくれていた結崎ひよの、彼女は、その名前も年齢も何もかも清隆が"歩から心の拠り所を奪う"ために用意した幻であり最後の駒でした。
己が身も心も、果ては大切な人まで曖昧なものだった、どこにも支えるものが見あたらない中で、歩は言い放ちます。
「ここで投げたら どんな時も俺を信じてくれた奴”との全て”まで失うから」
相手がどんな人間だろうと、何を考えていようと宛にしない。
”自分のためにされた行動”ただそれだけに報いたい。
それだけが誰からも覆されない事実、心の拠り所。
歩はそれを糧にして、兄に打ち勝ち、自分の策に乗るよう説得します。
人のこともそうですが、意外とじぶんのことも我ながら宛にならなかったりするものですよね。じゃあどうやって頑張るか、「自分のためにだれかがやってくれた行為」だったりするんじゃないでしょうか。
スパイラルは、「誰しもが支えにできるものは何か」という問いかけに対して、ひとつのメッセージを残してくれている気がします。
少し前の作品で、絵柄も前半の巻は古く感じますが後半は今時に変わりますし、何より内容が読み応えのある作品ですので是非直接よんでみてください☺️
スパイラルのまた違う考察は下記にも載せているので目を通していただければ幸いです🙇
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