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🎬カラオケ行こ! 感想

合唱部の中学生・聡実は突然の出会いでヤクザの狂児にカラオケを教えることに。

中学生の聡実は、部活のコンクールでの成績や人間関係、変声期に悩んでるいる本当にどこにでもいる普通の中学生です。
そんな聡実が狂児というヤクザにカラオケボックスで歌を教える…という唐突な物語の始まり方に、狂児の組のカラオケ大会での屈辱的な罰則があるという、一見ヘンな理由があるのですが、意外とすんなり入っていけました。

決して見た目もいかつくはない狂児ですが、態度の端々にはその業界の人であることを匂わせる独特のムードが漂っています。
そんな狂児に聡実がビビりながらも、歌に対しては終始上から目線でマウントを取り続けるアンバランスさがおもしろくて笑えました。

物語は、ほとんどが聡実目線で思春期の悩みだらけの青春物語と狂児とのカラオケボックスでのレッスンシーンのみで構成されているのですが、聡実が狂児に怖がらなくなり二人が仲よくなっていく様子はほのぼのとして楽しく観ることができました。

ヤクザの"っぽい"いかつい組員たちと聡実が交流するシーンもあるのですが、狂児を含めて組員はみんな聡実にはやさしく接していて、ヤクザを美化しているのでは?と言う人もいるかもしれませんが、ここはラストで聡実がすべてを夢だったのではないか?と思うファンタジックな結末への伏線と捉えれば目くじらを立てる必要はない描写だと思いました。
「湘南乃風」のRED RICEさんが組員役で出演しているのには「アレ?」と思いましたが、聡実にボロカス言われてしまうのには笑ってしまいました。

しかし、狂児が聡実に歌の先生として接触する理由、序盤ずーっと付きまとう理由は実ははっきりとは描かれていません。
ハイエナの兄貴が「たんぽぽ歌教室」に入ってしまった失意のときに、たまたま合唱コンクールの会場に入って見つけた聡実を狂児が一方的に「このへんで一番歌のうまいやっちゃ」と決めつけてしまったことが理由として説明されていますが、それだけではないように思えました。
いい加減な父親の気まぐれで「狂児」という名前を付けられてしまった狂児が、高校までは卒業していることは劇中語られていますが、これも『紅』の逸話に代表されるようにどこまでが本当のことかはわかりません。
ただ、なんとなくわかるのは、狂児の青春時代が「狂児」という名前ゆえから始まった"荒れた青春時代"だったのではないか、という想像です。
なんとなく強そうな名前ゆえにケンカなどに駆り出されたことから荒れた青春に突入したのではないか?普通の部活などに打ち込める青春時代を送ることはできなかったのではないか、と想像しました。
カラオケボックスで働いていたとはいえ、ヤクザにヘッドハンティングされるくらいですから、狂児がその頃からただならぬ凶暴性を持っていたことは察することができます。
そんな狂児にとって、たまたま見かけた合唱部の部活に打ち込む普通の中学生の聡実の姿は、とてもキラキラ輝いて見えたのではないか、と思えました。
そして、狂児がそんな聡実の普通の中学生の青春に伴走し、自分が経験できずどこかしら後悔のある普通の青春を少しだけ体験した気持ちになりたかったのではないか、と思いました。

狂児役の綾野剛さんが、特にヤクザらしい描写はないし、見た目も普通の人なのに、ところどころにやはりヤクザらしい胡散臭さや内面にある凶暴さを匂わせ続ける演技がよかった。
むしろ、いかついヤクザらしい俳優さんではなく、普通のどこにでもいそうな雰囲気の人であることのほうが今のヤクザとしてのリアリティを感じました。
どんなに物語がほのぼのしてもヤクザ臭さだけは終始匂わせ続けるのですが、しかし聡実の青春に憧れ人間関係を築いていくことでヤクザの顔の奥深くに聡実への友情と言っていい熱くてやさしい気持ちを感じさせる演技は、この映画全体をしっかりと締めているように思います。
ときどき見せる大げさではない妙に寂しそうな表情が、決してそんな場面ではないのに、どこか切なく悲しく見え、狂児という人物に不思議なほどの深みを与えているように思いました。

ところで、途中映画『三十四丁目の奇蹟』を観ていた聡実が「夢ないなー、どうせサンタなんかおらんけどな」と映画を批判したことに、友人が「もしオレがサンタを信じている人やったらどないすんねん」と答えるシーンがあり、意外と印象に残りました。
客観的に駄作と言われていたり、少なくとも自分にとってはつまらなかった映画でも、誰かにとっては、例えば「その人にとって大切な人と観た忘れられない映画」である可能性なども考えると、個人的な感想である程度映画を批判することを絶対ダメだとは言えませんが、やはりその映画が好きな人の人格まで否定するようなことは言ってはいけないことが、さりげなく匂わされているように思いました。
これも映画の作り手からの小さなメッセージのように思いました。

映画はクライマックスの『紅』など心を揺さぶられるシーンもあるのですが、決して安易に泣かせに走ることはないハードウォーミング・ストーリーとして爽やかに終わっているのも好感度が高かったです。
書いたように決して泣かせには走ってないのですが、観終わった後何だか不思議なくらい泣かせよりももっと心の奥の一歩踏み込んだ深いところで心地よい温かさを感じていました。

『紅』に込められた友情の深さゆえに、『紅』という楽曲のイメージがこの映画でガラッと変わってしまったのも、自分にとってはうれしい変化でした。

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