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🎬椿三十郎(2007) 感想

黒澤明の代表作のリメイク。

本作公開当時は黒澤明の原作権があちこちで買われ黒澤リメイクブームが続いたのだが、映画、ドラマともどの作品も惨憺たる出来栄えで見るに耐えなかった。
本作も公開当時観て、あまりのひどさに開いた口がふさがらなかったのだが、時間を置いて久々に黒澤オリジナルを忘れるようにし再評価すべく恐る恐る鑑賞。

脚本が黒澤作品なのでストーリーが面白くないわけはない。
攻守逆転が繰り返されるスピーディな展開はやはりリメイクでも面白い。

しかし主演の織田裕二の三十郎に、どうしても三船敏郎の影がチラついて邪魔してくる。
あえて黒澤明の脚本を尊重するあまり現代風に書き変えなかった副作用として、軽いノリの織田裕二が無理矢理三船がしゃべった言葉を三船の口調に寄せて喋っているのは見ていて痛々しくなる。
劇中のセリフでも「抜き身」と評される三船=三十郎の、コミカルだが言葉では簡単に言い表せない殺気と狂気をはらんだ演技に織田裕二が寄せるのは格が違い過ぎる。
戦争体験のある三船とトレンディドラマ畑育ちの織田裕二の殺気は雲泥の差で、『踊る大捜査線』のヒットがあったとしても、そのコミカルさだけで織田裕二をキャスティングした製作サイドの失敗だし、キャスティングされた織田裕二にとっても迷惑な結果となってしまった。
だからと言って本作の製作当時、誰を三十郎にキャスティングすればよかったか?という問いにまともな答えなど見当たらないのも事実なのだが。

また、最後の一閃がなかったことも本作を批判する上で取り沙汰されることなのだが、オリジナルがあの最後の瞬間にコメディタッチから残酷な人間の業のドラマに豹変する恐怖感と驚きを考えると力不足は否めない。
あの一閃を封印して何かできたのか?と問われると、これも何もできなかっただろうというのが本音。

しかし、脇を固める俳優陣の奮闘はさすが。
所作から見事な豊川悦司の室戸半兵衛を筆頭に、若々しい松山ケンイチ、押入侍でトボけた演技を披露する佐々木蔵之介、終始のんびりした中村玉緒など今の主役級が黒澤オリジナルを意識させない名演技を見せている。

黒澤作品は敷居が高いと思っている人がオリジナルを知らずに観れば十分楽しめるクオリティなので、時代劇エンタメの入門編となる娯楽作品と言えると思う。

ただオリジナルを観てしまった人間としては、どうしても看過できない出来となってしまっているのは間違いない事実。
作品のきびしい評価の責任を主演の織田裕二のミスキャストとラストの殺陣にすべて負わせてしまうのは主演にも森田監督にも酷な気がする。
今も海外でもリメイクが作られている黒澤作品なのだが、個人的な意見としては、黒澤明の映画をリメイクする行為自体が"無謀"としか言いようがない気がしている。

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