見出し画像

指名手配犯ポスター「お前ウエチだろ!!」論

2023 1/6(金)
 
指名手配犯のポスターの文章は不謹慎かもしれないが、面白い。
「おい、小池!」などの名コピーは、一体誰が作成しているのだろうか。
俺は交番の前を通る時は、ついついそれを見てしまう。
最近では、重要指名手配、上地恵栄のポスターが秀逸だった。
東映ヤクザ映画のような犯人の顔写真。いかにも悪そうである。
オーディションに行ったら、間違いなく合格だろう。
報奨金上限額300万円、と書かれた文字が、まるでこの俳優のギャラにも見えてしまう。
ふざけている場合ではない、この男は俳優ではない、犯人である。
罪名はポスターの上にはっきりと書かれている。
「東京都三鷹市発生殺人事件」
平成17(2005)年11月発生。
写真の横には、2003年撮影(当時47歳)とあるから、20年も前になる。
60代後半を迎え、体型も人相も変わって来ているに違いない。
年々、捕まえにくくなってきているのは明らかだ。
そして、ポスター中央には赤文字で大きく書かれたキャッチコピーが、一発で目に飛び込んで来る。
「お前ウエチだろ!!」
なんというストレートなキャッチコピーであろうか。
一瞬、「おい、小池!」の二番煎じのようにも見えるが、「お前ウエチだろ!!」の方が確信を突いた呼び方をしている。
「おい、小池!」だと、犯人以外の小池さんも反射的に振り返ってしまいそうだが、「お前ウエチだろ!!」は、名字の珍しさを抜きにしても、
「お前」と「だろ!!」が、個人的に呼びかけれた気がするではないか。
指名手配ポスターに、アカデミー賞があるなら、これは最優秀賞といってもいい。
ただし、まだ、ウエチは捕まってないので、本当の名キャッチコピーか否かは分からない。見つけるのは非常に難しいだろう。
そういえば、俺のいる芸人の楽屋にも、こんな顔の先輩を十人位は知っている。芸人には人相の悪いのが多い。
あの中の一人が、ウエチだったとしても気付かないだろう。
「はいどうも~ウエチです!」
まさか本名では舞台に出まいが、
「逃亡あるある~」
など、お得意の逃亡漫談はウケそうだ。
今度、楽屋でいきなり言ってみようかな。
「お前ウエチだろ!!」
本当に誰か振り返ったら、ゾ~っとする。
でも、300万円ギャラ貰えるからいいか。
そんな顔以外に、ウエチに何か大きな特徴があればと思ってポスターを見ていたら、ちゃんとプロフィールが書いてあった。
<上地恵栄(うえち けいえい) >
<沖縄県出身(66歳)>
<あばた顔 麻雀好き 腰痛持ち>
あばた顔は写真を見てもなんとなく分かるが、麻雀好きと腰痛持ちは、いい情報だ。
ウエチの弱点は、腰!
きっと腰痛の原因は、麻雀のやりすぎに違いない。
そうなると、雀荘を張り込むのが得策だろう。
あばた顔の男は、雀荘にいる。
逃亡犯にもかかわらず、20年近くの逃亡にウエチは気を緩めたのか、大好きな麻雀がやりたくなった。
国内では見つかってしまう為、一時は海外にも逃亡していたウエチだったが、どうしても日本に帰って来たかった。
それは、大好きな麻雀をする為である。
一度、香港に逃げた時にカジノの近くで麻雀をやったが、言葉が分からず香港マフィアからのイカサマにあい全財産をすった夜が昨日のことのようだ。
ウエチは、そのあと中国各地を転々とし、日本に戻るタイミングを見計らっていた。
そんなある日のこと、原因不明の感染症が発生した。ウエチがいたのは、武漢だった。
命の危険を感じたウエチは、今がタイミングだと日本へ向かった。
捜査網が張り巡らされた都会を避けたウエチは、故郷である沖縄へ数十年ぶりに帰って来た。
かつての仲間たちは、そんなウエチに自首をすすめるが、根っからの賭博好き精神がそうさせるのか、捕まるか捕まらないかは五分五分だ、60代後半を迎え、ふるさと沖縄で好きに生きることにした。
数日後、仲間の一人に誘われたウエチは、かつての馴染みだった雀荘に顔を出す。
暫く沖縄を離れている間に、雀荘は盛況していた。
コロナ禍なのになぜだろうと思いながら、アルコール消毒を済ませたウエチは椅子に座ると、久しぶりに麻雀牌を握った。
全身をアドレナリンがかけ巡った。
だが、仲間の様子がおかしい。
「おい、どうしたさ~(たぶん、沖縄方言で言っている)」
「なぁ、恵栄~(ウエチの下の名前)罪を償わないといけないさ~」
仲間の表情が突然変わったかと思った次の瞬間、雀荘にいる客全員が一斉にこう言った。
「お前ウエチだろ!!」
それは、張り込み中の刑事たちだった。
かつての仲間たちは、ウエチが沖縄に帰って来たその夜に、警察に連絡をしていたのだ。
仲間だからこそ、ウエチに罪を償って欲しかった。
雀荘にいたウエチは、四方を刑事たちに囲まれた。
「お前ウエチだろ!!」
もう一度、今度はもっと大きな声で呼びかけられた。
「ウエチだろ!!マスクを取れ!!」
マスクを取ったら完全にバレてしまう。
あのぅ~すいません、実は僕コロナ陽性なんです~
と嘘をつきたい所だったが、そんな余裕はない。
絶体絶命である。
もう逃げることは出来ないと悟ったウエチは、マスクを外した。
本人であることを認めると、今度は刑事たちから、
「ウエチ!!マスクをつけろ!!」
と言われた。
ガシャリとかけられた手錠の重さを感じる中、連行されて行くウエチは、雀荘の入り口で立ち止まりかけた。
振り返って、仲間に別れを告げたかった。
だが、出来なかった。
「どうした、ウエチ?」
「・・・いえ、アルコール消毒をしようと思いまして」
2023年、某月某日、上地恵栄は逮捕された。
俺は、指名手配のポスターを見ながら、そんな妄想をしていた。
一日でも早く、事件が解決して欲しい。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?