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短編小説

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小説まとめました ほとんど超短編小説 思いついたときに書くので不定期です
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#小説

小説 縁 封印

母に栞ちゃんが事件に巻き込まれるかもしれないと慌てて相談した。泣きそうになってると母は「無の時間を」と言い私の頭をなでた。 しばらく無になった。母は「私は未来は見えないけど、止めることはできる」と言い、どこかに出かけて行った。 その後、事件の話は聞かなかった。栞ちゃんに何も起きなかったのだろう。母は「まだ力を使うのは大変かもね。大学出るまで封印しましょう」と私の頭をなでた。 朝、無の時間を過ごすこととなった。それで封印されるという。高校のあの朝礼はそういうことだったのか

小説 縁 開眼

大学は無返済の奨学金が貰えることになった。高校の成績がよく入試の成績がかなりよかったからだ。寄宿舎生活の個室で勉強に集中できたからだろう。 母も喜んでいた。SNSで知り合ってオリエンテーションで友達も出来た。ただ一つ問題なのは、近くの人の未来がなんとなく見えてしまうことだ。 母にそのことを言うと、気軽に人に話してはダメよと注意された。 寄宿舎生活していた時に、なんとなくこの子、ケガするよねって思ったら体育の授業で転んで骨折して驚いたことがある。黙っていたがそれ一回の事な

小説 縁 高校生活

高校は寄宿舎生活だった。山の中にあって個室が与えられ自由に過ごせる。 私は最高点で入った特待生。授業料も生活費も無料だ。必死に勉強してよかった。母の負担もほとんどない。 朝、精神統一の時間があって、みんな校庭に並んで無の時間を過ごすように言われる。 いろんなことを考えてしまう私を見抜き、指導の先生が「無の時間を」と注意する。どうもうまくいかない。 新入生はみんなそんな感じで指導の先生の「無の時間を」という声が何度も聞こえる。 そんな朝を過ごしてから、普通に高校生活が

小説 縁 フリースクール

フリースクールに来てみた。みんな黙々と好きなことをしている感じだ。勉強にはあまり力を入れてない感じもする。 勉強がしたいのだがそんな感じではなさそうだ。勉強がしたいというと、別の部屋に通され個人指導の塾があった。 ここも母の知り合いが経営しているとか。誰かに聞かれたらフリースクールと言いなさいと言われた。昼間、塾をしているのは秘密らしい。 好きなように勉強していたら一年で中学で学ぶことは終わっていた。 先生が中学に戻ったらと勧めてきた。なんとなく戻れる気がした。 中

小説 縁 中学で

中学生になった。中学受験はしなかった。先生に勧められたが、そんなお金はうちにはない。 中学に上がるといろんな人がいるのを感じた。笑い声があちらこちらで聞こえる。みんな楽しそうだ。友達も出来た。栞ちゃんだ。透き通るような肌と長い黒髪。アニメからでてきたような感じだ。 入学式に栞ちゃんが話しかけてきて、すぐ友達になった。 気がつくとどうでもいいことを話しかけてくる裕という男子がいた。スポーツが好きなよくいる男子だ。私と話すより栞ちゃんとよく話していた。どうやら栞ちゃん目当て

小説 縁 序章

私は縁。縁と書いてゆかりと読む。でも周りはみどりちゃんと呼ぶ。 初めて会う人は名前を見て「みどりちゃんだね」と声をかけて来ることが本当に多い。「みどりじゃないからゆかりだから」と何度も言ってきたが、訂正するのもは面倒になってきて今は「みどり」ということにしている。 たまに「これ「えん」だよね。ひょっとして「ゆかり」じゃないの」と気づく人もいるが周りが混乱するので「みどり」って呼んでって言っている。 自分で言うのもなんだが結構かわいい。小さなころから大人の男が話しかけるこ

小説 となりのひきこもり1

ひきこもりはいろんな事情でひきこもっているのは知っている。広い意味では私もひきこもりだ。人のことは言えない。周りから見れば私は昼間家にいて適当に暮らしている人間なのだろう。規則正しく健康に気をつけて暮らしているなど周囲には言えない。お前なんかが長生きしてどうするんだということを言われそうである。かかりつけ医は血液検査で異常がないことを怪訝に思っているらしく健康診断の結果を言うときに物凄く不機嫌な顔になる。 私はマンション暮らしだ。隣に30代の息子がいるのは知っている。平日昼

小説 となりのひきこもり3

何台ものサイレンの音がしてしばらくしてガヤガヤと声が聞こえてきた。窓の曇りガラスからのシルエットを見るとどうやら警察官らしい。 えっと事件?朝なので頭がよく回らないのか認識するまで時間がかかる。コウちゃんが刺されたのか。ちょっとだけ戸を開けて様子を見ようとした。その瞬間、スーツの人が走って寄ってきた。 「すいません。警察です」 うわ、ドラマみたいな展開だ。何か聞かれるのだろうか。 「隣の家で何か気になることはありませんでしたか」 ちょっと怯んだ。正直、ほとんど交流はないの

小説 となりのひきこもり4

昼になった。トーストを食べながらぼーっとしていた。早朝からの騒動でちょっと疲れている。 ん?窓に何かを担いだ人のシルエットが見えた。アポなしピンポンが鳴る。アポなしは出ない。それが一人暮らしの防犯だ。何かあれば書面が新聞受けに入るだろう。 窓に人のシルエットが忙しく動いている。無視することアポなしピンポン5回目。さすがにしつこい。だが無視。今日は外に出ないほうがいい気がする。隣の事件の話を聞きにマスコミでも来ているのだろう。 なんとなくだが反対側の隣の奥さんの声と男の声

小説 となりのひきこもり5

アポなしピンポンは何度鳴ったかもうわからない。マスコミなんだろうけどトラウマ級の凄さだ。戸を開けたが最後、テレビに映ってしまうのかもしれない。それだけは避けたい。 悪いことはしていないが出たくない。インタビューなんてとんでもない。若い頃ならどんどんインタビューを受けテレビに出て友達に自慢しまくっただろう。ちょっとしたヒーローだ。そんな時代だった。 まてよ、私はインタビュー受けても何も答えられないじゃないか。 しかし、うるさすぎて何もできない。ドラマの録画みたかったのに。

小説 となりのひきこもり6

夕食の時間だ。買い物に行けなかったので冷蔵庫の冷凍しておいた総菜を探す。今日は料理などする気分ではない。焼き餃子があった。これにしよう。 冷凍ご飯と焼きギョーザを電子レンジで温め、電気ケトルで湯を沸かしインスタント味噌汁をつくり、カットサラダと作り置き煮物を出す。 一日の騒動でメンタルが疲れてるかもしれない。味噌汁をちょっとだけこぼしそうになった。 焼き餃子を酢醤油につけ一口食べる。味がしない。今日は食欲がないようだ。でも食べないと体に悪い。とりあえず詰め込む感じで食べ

小説 となりのひきこもり7

うちのマンションがテレビに映っている。テロップに「父親が息子を刺す」。アナウンサーが「今日未明、板川区で父親が息子を刺しました。詳しいことはまだ入っていません」というと次のニュースに入っていった。 ちょっとむせてお味噌汁を飲むと世界が元に戻るのを感じた。 え、これだけなの。あれだけマスコミが来てこれだけなの。凄い来てたよね。スピーカー奥さんの映像とコメントはないの。期待してたのに。 どういう事件だったんだろう。働けって言われて逆上して暴れたところを父親が刺したのだろうか

小説 となりのひきこもり8

何事もなかったようにいつもの生活に戻った。その後の報道はない。スピーカー奥さんの大声がたまに聞こえることがあるが大したことは言ってないのだろう。テレビのニュースになったというのに周りは平穏である。 何か月かして事件があった隣から凄い物音が聞こえてきたと思ったら引っ越しだった。何があったのか知ることもなく事件が消えていくらしい。その後を知ることもなく事件が終わっていくことが増えている気がする。 コウちゃんは生きているのだろうか。父親はどうなったのだろう。噂ではコウちゃんは亡