まめのすけ

VRC関連で書いたものとか、過去作置き場

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  • 解釈小説対決

    • 2本

    見た作品の解釈を小説にして撃ち合う企画です。

記事一覧

いずれ月のように

「こんばんは。こんな時間に女の子の一人歩きは感心しないわね」  僅かな月明りの夜、蛙の鳴き声が響く田舎道。  人に会うこともないと思っていた私は、突然声を掛けられ…

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ハナサカステップ解釈小説:『夏に咲く花』

 本作は、企画「『ハナサカステップ』解釈小説対決」のために書かれたものです。これは、ぼっちぼろまるさんの曲「ハナサカステップ」をVRChatのフレンドさんたちと聴き、…

まめのすけ
1か月前
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睡眠不足

不可思議な出来事っていうのは、世間が思っている以上にありふれている。 ただ気付かないだけ。気付いていないだけ。 そして、気付いた時には、それはすっかり日常に溶け込…

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明日はきっと、降水確率100%?

突然だが、俺は雨が好きだ。 梅雨時の今は、俺にとっては最高の季節といっても過言ではない。 このことを言うと、大概の人は変な顔をする。 濡れる。冷たい。風邪を引く。…

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狐の嫁入り

ある日のことだ。 縁側で庭を眺めていると、雨が降ってきた。 陽は高く上り、青々とした空が広がっている。雲はそれほど多くない。 にもかかわらず、雨がぱらり、ぱらりと…

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赤い唐傘

こういう事があった。 ある梅雨の日の事だ。 私は大樹の下、止まぬ雨を眺め、天を仰いだ。 ぽつりと、頬に雨粒が落ちるのを感じる。 周囲は、雨音で満ちていた。大粒では…

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きっとあなたの140字

桜 目覚めると病室だった。 また運び込まれたようだ。もう何度目か分からない。 開け放しの窓から桜の花びらが舞い込んできた。 ベッドの脇で眠る彼の頭に、ひらりと落…

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いずれ月のように

いずれ月のように

「こんばんは。こんな時間に女の子の一人歩きは感心しないわね」
 僅かな月明りの夜、蛙の鳴き声が響く田舎道。
 人に会うこともないと思っていた私は、突然声を掛けられて驚いた。
 すらりと線の細い女性がそこにいた。
 長い黒髪。人形のように整った顔立ち。目元に目立つ大きな泣きぼくろ。それさえもチャームポイントに見えてくる綺麗な人だった。
「誰、ですか?」
 その女性は私の質問には答えず、私の前まで来る

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ハナサカステップ解釈小説:『夏に咲く花』

 本作は、企画「『ハナサカステップ』解釈小説対決」のために書かれたものです。これは、ぼっちぼろまるさんの曲「ハナサカステップ」をVRChatのフレンドさんたちと聴き、歌詞への解釈の違いを小説で表現し合う企画です。

ソーサツ・チエカさんの作品はこちら。

原曲MV(映像は解釈の対象としない):

夏に咲く花

 雨の匂いにはもううんざりだ。
 今日も一日、朝から雨が降りそうな曇り空が続いている。

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睡眠不足

不可思議な出来事っていうのは、世間が思っている以上にありふれている。
ただ気付かないだけ。気付いていないだけ。
そして、気付いた時には、それはすっかり日常に溶け込んでしまっているのだ。

引越し初日。
大量の段ボール箱を片付けた私は、ぐるりと部屋の中を見渡した。
八畳のワンルーム。真新しい家具の数々が所狭しと並び、きらきらと輝いて見える。
実家から遠く離れた大学に合格した私は、ついに一人暮らしをす

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明日はきっと、降水確率100%?

突然だが、俺は雨が好きだ。

梅雨時の今は、俺にとっては最高の季節といっても過言ではない。
このことを言うと、大概の人は変な顔をする。
濡れる。冷たい。風邪を引く。雨なんかのどこがいい?
彼らは、揃いも揃って同じようなことしか言わない。
何故彼らには、雨の尊さがわからないのだろう。
ぱらぱら降る小雨は、肌にしっとりと染み込んで、冷たくて気持ちがいい。
滝のような豪雨も、思い切って浴びてみると、心ま

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狐の嫁入り

ある日のことだ。
縁側で庭を眺めていると、雨が降ってきた。
陽は高く上り、青々とした空が広がっている。雲はそれほど多くない。
にもかかわらず、雨がぱらり、ぱらりと降ってきた。
天気雨だ。
雨は次第に本降りになり、庭の草木を濡らしていく。
草木に付いた水玉が陽の光に照らされて、輝く様はまるで真珠のようだ。
私は着物の袖に落ちた雨粒をそっと払いのけ、空を見上げた。
「天気雨とは、珍しいこともあるものだ

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赤い唐傘

こういう事があった。

ある梅雨の日の事だ。
私は大樹の下、止まぬ雨を眺め、天を仰いだ。
ぽつりと、頬に雨粒が落ちるのを感じる。
周囲は、雨音で満ちていた。大粒ではないが、細く柔らかな雨がひっきりなしに降り注いでいる。
既に着物は湿り気を帯び、ひどく着心地が悪い。下駄にも泥がこびり付き、少々重い。
しかし、私はこの不快感もそれほど嫌いではなかった。
かれこれ一刻ほどはこうして止むのを待っている。こ

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きっとあなたの140字

きっとあなたの140字



目覚めると病室だった。
また運び込まれたようだ。もう何度目か分からない。
開け放しの窓から桜の花びらが舞い込んできた。
ベッドの脇で眠る彼の頭に、ひらりと落ちる。
目を覚ますと彼は必ず傍にいてくれた。
桜が散る頃には、きっと私は――

花びらを彼の掌に置き、そっと包む。
ずっと傍にいるよ。

乾杯

「いらっしゃい」
月光の降り注ぐ庭。
小さなテーブルで一人、少年が微笑む。

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