見た作品の解釈を小説にして撃ち合う企画です。
「こんばんは。こんな時間に女の子の一人歩きは感心しないわね」 僅かな月明りの夜、蛙の鳴き声が響く田舎道。 人に会うこともないと思っていた私は、突然声を掛けられて驚いた。 すらりと線の細い女性がそこにいた。 長い黒髪。人形のように整った顔立ち。目元に目立つ大きな泣きぼくろ。それさえもチャームポイントに見えてくる綺麗な人だった。 「誰、ですか?」 その女性は私の質問には答えず、私の前まで来るとしげしげと私を眺めた。 その眼つきに絡めとられて、私は身じろぎ一つできない。
本作は、企画「『ハナサカステップ』解釈小説対決」のために書かれたものです。これは、ぼっちぼろまるさんの曲「ハナサカステップ」をVRChatのフレンドさんたちと聴き、歌詞への解釈の違いを小説で表現し合う企画です。 ソーサツ・チエカさんの作品はこちら。 原曲MV(映像は解釈の対象としない): 夏に咲く花 雨の匂いにはもううんざりだ。 今日も一日、朝から雨が降りそうな曇り空が続いている。 じっとり湿った空気。 毎年毎年しつこい奴らだ。ひっきりなしに降り続く雨を窓越
不可思議な出来事っていうのは、世間が思っている以上にありふれている。 ただ気付かないだけ。気付いていないだけ。 そして、気付いた時には、それはすっかり日常に溶け込んでしまっているのだ。 引越し初日。 大量の段ボール箱を片付けた私は、ぐるりと部屋の中を見渡した。 八畳のワンルーム。真新しい家具の数々が所狭しと並び、きらきらと輝いて見える。 実家から遠く離れた大学に合格した私は、ついに一人暮らしをすることになった。 女性の一人暮らしは危ない。寮とかもあるんじゃないか。 そう言う
突然だが、俺は雨が好きだ。 梅雨時の今は、俺にとっては最高の季節といっても過言ではない。 このことを言うと、大概の人は変な顔をする。 濡れる。冷たい。風邪を引く。雨なんかのどこがいい? 彼らは、揃いも揃って同じようなことしか言わない。 何故彼らには、雨の尊さがわからないのだろう。 ぱらぱら降る小雨は、肌にしっとりと染み込んで、冷たくて気持ちがいい。 滝のような豪雨も、思い切って浴びてみると、心まで洗われるような不思議な気持ちになれる。 雨が止んだ後の、全て洗い流されて浄化さ
ある日のことだ。 縁側で庭を眺めていると、雨が降ってきた。 陽は高く上り、青々とした空が広がっている。雲はそれほど多くない。 にもかかわらず、雨がぱらり、ぱらりと降ってきた。 天気雨だ。 雨は次第に本降りになり、庭の草木を濡らしていく。 草木に付いた水玉が陽の光に照らされて、輝く様はまるで真珠のようだ。 私は着物の袖に落ちた雨粒をそっと払いのけ、空を見上げた。 「天気雨とは、珍しいこともあるものだ」 一人呟く。 それから不意に、先日出会った女のことを思い出した。 その女は、
こういう事があった。 ある梅雨の日の事だ。 私は大樹の下、止まぬ雨を眺め、天を仰いだ。 ぽつりと、頬に雨粒が落ちるのを感じる。 周囲は、雨音で満ちていた。大粒ではないが、細く柔らかな雨がひっきりなしに降り注いでいる。 既に着物は湿り気を帯び、ひどく着心地が悪い。下駄にも泥がこびり付き、少々重い。 しかし、私はこの不快感もそれほど嫌いではなかった。 かれこれ一刻ほどはこうして止むのを待っている。こうして雨を肌で感じ、雨音に耳を傾けていると、なぜか心が安らぐのだ。 我が家に戻れ
祭り 縁日の賑わいを尻目に花火が上がる。楽しい祭りも終わりの時間が近い。 「これでお別れなの?」 隣で花火を見上げる狐目の青年は、こくりと頷いた。 狐は人を騙すという。でも。 「また会える?」 私の問いに彼は答えず、小指を差出す。 指切りして笑い合う。 胸に響く花火の音。 今はそれだけでいい。 ピアノ ピアノは嫌いだ。 音を聴くと泣いてしまうから。 そう言った彼は、今日もピアノを弾く。 彼の音色は優しく繊細で、悲哀に満ちていた。 何が君にそうさ