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深夜特急をやっと読み終えた

いつだかの記事で僕がエッセイを好んで読んでいるうちに紀行文の存在を知り、ググった結果、誰もが口を揃えて名作だという深夜特急を読み始めたということを書いた。
読み始めたのは確か今年の初めぐらいだっただろうか。深夜特急は1巻〜6巻で構成されている大作であり、結局読み終えるまでに半年もかかってしまった。週末の時間がある時に近所のベローチェへ行き、好きな音楽をかけて、本を読むのが至福の時間であり、そんなチンタラとした読み方なので、やたら時間がかかってしまった。
深夜特急の中で、彼は1年と2ヶ月かけてユーラシア大陸を横断したが、僕は7ヶ月かけて読み進めたのだ。どうでもいいか。

しかし、評判に偽りなく面白かったなぁ。ネットも携帯もない80年代にバスを使って中国からイギリスはロンドンまで旅をするなんて考えられない。沢木さんは頭が良いので、なんとかなったのだと思うけれど、僕だったらインドあたりでころっと騙されて一文無しになっていそうだ。

僕はすぐに影響を受けるのでこの本を読んで、海外旅行をしたくなった。一度も海外旅行なんて行ったことがないし、英語もろくにできないけれど、この本を読むと旅をしたくなる。その魔法に多くの人がかかっているのだ。何もチョロいのは僕だけじゃない。

沢木さんの良いところは、いい意味でサバサバしており、どこか上品なところである。
せっかく海外を訪れているのに世界遺産のような観光スポットには訪れない。基本的に現地の生活が根ざしているような場所を散歩しては人間観察を行なっていた。またよく海外に行った人がよく口にする「人生観が180度変わった」等と大それた事を言うわけでもない。ただ疲弊していくばかりなのだ。どこが良いんだろうと思いつつも、明日どうなるのかも分からないし、危険な事もがあるとも限らないという一種のスリルと思い切りは魅力的なのだ。右も左も分からない土地で味わう障害を乗り越えた時に、人間的な成長が必ずある。それを説教くさく言う訳でも、感傷的に言うわけでもなく、淡々と心情の変化を書いているところに気品を感じるのかもしれない。女性とのロマンスもあるようで一切無かったのも大きいのかもしれない。最終巻の巻末の井上陽水さんとの対談では、セクシュアルさがないと表現していたが、まさにそうだと思った。

僕がこの本を読んで感じたことは、今の時代ただ単に海外旅行に行っても人生が劇的に大きく変わるなんて事はないだろうという事だ。もちろん中には運命の出会いを果たす人も、実際に人生がガラッと変わった人もいるだろう。でもそれは無条件にそうなるわけじゃない。宝くじのような確率で無意識にそうなる事もあるだろうけど、大抵は旅行にいく前から自分を変えたい人がそうなるのだと思う。

「恐れないで、でも気をつけて」とは沢木さんが最後の後書きに残したこれから旅をしようとする読者へのメッセージである。自分が暮らしてきた環境から離れて、全く知らない土地を1人で旅をするのは恐怖だ。でもそこでしか得られないものはあるのだろうな。少なくとも今、その何かが欲しいとは思わない消極的な考えしか浮かばない。この大作を読んでなお、ただ海外旅行に行って、普段口にすることのない現地の美味しい料理を食べて、そこでしか見れない綺麗な景色が見れればいいなとしか思えないあまりに頭お花畑な自分を変えたい今日この頃である。海外旅行行ったらそれも変わるかななんて。

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