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オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第60回 カーボンファーミング実践編 ~化学農法から有機農法への転換~

今回はオーストラリアで実施されているカーボンファーミングの一例を紹介します。従来の化学農法から有機農法への転換は、土壌の健康状態を改善し含有炭素量を増加させ、温室効果ガスの排出削減を目指すために実施されています。

まず有機農法に転換できた事例(ニューサウスウェールズ州)の事例をベースに、土壌の炭素量を測定してみましょう。

ステップ1から3の情報を基に、農場面積1ha(10,000㎡)と仮定して土壌有機炭素の計算方法を説明します。

①土壌の体積を求める(土壌サンプルの深さ:0.1m):1ha×深さ0.1m=1,000m³

②土壌の質量を求める(バルク密度:1.3g/cm³):1,000m³×1.3g/cm³=1,300,000kg

※1m³は1,000,000cm³なので、質量=1,000m³×1,300kg/m³

③有機炭素の量を求める(有機炭素の割合:1.2%):1,300,000kg×1.2%=15,600kg(15.6t)

④結論:1haの土地には、15.6tの有機炭素が含まれていることになります。

※1単位のカーボンクレジットは、1tのカーボン削減に対応

農場主は、この15.6tの有機炭素をカーボンクレジットとして取引所や市場に登録し、購入者との取引が可能になる形です。ただ今回のカーボンの削減方法については、あくまでも一例です。カーボンクレジットの発行には、削減量の認証と検証が必要です。これは、第三者機関や認定機関によって行われ、計算方法やデータの正確性を確認することは必須条件です。

期待される効果

化学農法から有機農法へ転換する事業の取り組みでは、以下の効果が期待されます。
※有機農法への展開によるプラスの側面が多い反面、有機肥料の過剰な施肥による地下水汚染や人件費などのリスクも考慮することが重要。

化学肥料の使用を控え、堆肥や緑肥などの有機肥料を使用
化学肥料は土壌を劣化させ、二酸化炭素の排出量を増やす可能性がある。一方、有機肥料は土壌の肥沃度を高め、土壌微生物の活動を活発化させ、土壌炭素の貯留量を増加させる。また水質汚染改善にも効果がある。

土壌侵食を防ぐための管理
土壌侵食は土壌炭素の消失につながる。不耕起栽培、マルチング栽培(植物を植えた土の表面をビニールなどのマルチング材で覆うこと)などの土壌管理を実施することで、土壌侵食を防ぎ、土壌炭素の貯留量を維持することができる。

生物多様性を促進するためのカバークロップ(被覆作物)の栽培
カバークロップは、土壌表面を覆い、土壌侵食を防ぎ、土壌微生物の活動を活発化させ、土壌炭素の貯留量を増やす効果がある。また、カバークロップによって花粉や蜜を供給することで、昆虫や鳥類などの生物多様性を促進する効果もある。

❹精密農業技術を用いた効率的な水管理
土壌水分量をモニタリングし、必要に応じて潅水を行う。これにより、水資源の節約と土壌炭素の貯留量の増加を両立することができる。

まとめ(日本の農業者の皆様へ)

カーボンファーミングは、オーストラリアにおいて持続可能な農業を実現するための重要な手法となりつつあります。化学農法から有機農法への転換を通じて、土壌の健康状態を改善し、温室効果ガスの排出を削減することができます(※化学農法から有機農法への転換は、困難を極める場合が多く、長い年月を要するため、地域の農業者と協力をしながら、試験的に始めてみる)。さらに、カーボンクレジットを活用することで、経済的な利益も得られます。

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