見出し画像

詩120/ 十一月の五月雨

十一月の雨は
世界から色を洗い落とすために
音を立て
冷たく
だらだらと降り続ける

イチョウの落葉達が
細かく砕けて
黒い土に戻る頃

雨はいつしか
みぞれ混じりになり
降る音すらも無くしていく

そして

曖昧な境目を越え
いつの間にか
冬が始まっている

雨の季節が
次にやって来るのは
青葉が水滴を弾きながら
命を謳歌する初夏の頃

月で言えば
五月の終わりごろか

まだまだ
だいぶ先過ぎて
その背中は見えないが

でも

生きていれば

季節は巡ってくることを
俺は知っている

これから始まる
彩りを禁じられた
モノクロームの季節に向けて

俺は
今しがたの十一月の雨を
黄色い筆洗に
こっそり溜め置き

パレットの上の絵の具が
固まらないように
その水を浸けた筆で
ぐるぐると混ぜ続ける

俯いているふりをして
密かに
体が冷えないように
色を奪われないように

ひたすらに
曖昧にやり過ごして
冬が終わるのを待ち

春さえも越え

ふくよかな葉が
再び生い茂る
命の季節まで
色を保ったまま生き延びるのだ




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?