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詩137/ 揺れ

生まれる前は
子宮の中で
羊水のうねりに従って揺れ

生まれたら
揺り籠の中で
眠らされる為に揺れ

大きくなれば
電車や車に乗っては
ガタコトと揺れ

エレベーターや
エスカレーターで
上っては揺れ
下っては揺れ

殴られては
頭蓋骨と歯茎が揺れ

勢いだけで鳴らした
ギターアンプの爆音に
鼓膜の芯が揺れ

社会に出ては
人の言葉に揺れ

自分の振る舞いの
結果に揺れ

責任を背負い
進む道のぬかるみに揺れ

突然訪れる運命に揺れ

その運命を共にした
愛する人との別れに揺れ

やがて
自分の死に至っても
カンオケの中に入ってすら
火葬場の搬送装置の駆動に揺れ

墓場に入っても
毎日のように起きる地震に
骨壺を揺らされる

僕たちは
ずっと
ずうっと揺れている

揺れたら動く
揺れたらこぼれる
揺れたら崩れる

地球で生きていれば
そういうものだけれど

揺れることで
うまく嵌まることもあるし

揺れることで
瓶の水と粉薬が
溶けあうこともある

喜びも
悲しみも
幾星霜

ただ
いつだって
僕たちは揺れている

目を瞑り
黙しているときでさえ

その体と心を
血流とシナプスが微かに揺らしている

いつの日も
いつのときも

ただ
ひたすらに
僕は揺れている

揺れているから
この涙は
瞼の縁からこぼれたのだ

ただ
それだけの
ことなのだ






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