「New Jeans」デビュー！人気の理由を研究者が社会文化史的に考察してみた⑤：洋楽志向の意味

「New Jeans」の人気の秘密をK-pop研究者であるJohoが社会文化史的に考察していく連載の5回目です。
そもそも「New Jeansって？」という方は連載の第1回をご覧ください。

前回は「90年代」と「Y2K」をキーワードとして、New Jeansと90年代J-popのSPEEDに共通する「厳しい事前トレーニングによる完成形でのデビュー」の背景には歴史的因縁があることを明らかにしました。

今回も引き続きNew JeansとSPEEDの共通点をヒントとしてNew Jeansの人気の理由に迫っていきます。
今回は、「従来型のアイドルとは差別化された洋楽志向」というNew JeansとSPEEDの共通点を通して、New Jeansの人気の理由を考えてみたいと思います。

「洋楽のような音楽」に対するJ-pop /K-popの欲望

日本や韓国の大衆音楽はその始まりから欧米から導入された音楽の体系を現地化・土着化させる努力によって形成されてきました。
つまり、「洋楽のような」音楽を作りたいというのは日韓の大衆音楽界において常に欲望されてきました。
そして、それは日本でJ-pop、韓国でK-popが確立した90年代においても同様です。
その中で、90年代後半の日本で「洋楽のようなガールズグループ」を目指したのがSPEEDでした。

「日本のTLC」と「韓国のTLC」

SPEEDがデビューした90年代半ばにおいて、当時の洋楽界を圧巻していたTLCのような、従来型のアイドルとは差別化されたガールズグループを目指していました。
SPEEDは「日本のTLC」として90年代後半のJ-pop界において洋楽ガールズグループに最も近いパフォーマンスを目指したグループであったわけです。
同じ頃、韓国にも「韓国のTLC」と呼ばれたグループがいました。
K-pop第1世代を代表するガールズグループのS.E.S.（エスイーエス）です。
90年代末には「韓国のSPEED」というキャッチコピーで日本に進出し、音楽番組にも出演していました。
最近のK-popしか知らないKポペンも、aespa（エスパ）がカバーしたこの曲 ’Dreams Come True’ （1998年）は知っているのではないでしょうか？

90年代後半にはJ-popでもK-popでも洋楽をモデルとしたガールズグループが活躍していました。
このように「日本の〇〇」「韓国の〇〇」という方式の洋楽アーティストの模倣を全面に出したフレーズは、1960年代のエルビス・プレスリー以来みられる日韓両国の大衆音楽における「伝統」でした。

「韓国の〇〇」でないNew Jeans

では、SPEEDと同様に「従来型のアイドルとは差別化された洋楽志向」がみられるNew Jeansの場合はどうでしょうか？
New Jeansには90年代のSPEEDやS.E.S.のように、洋楽アーティストの名前をあげて「韓国の〇〇」との名乗りはみられません。
これにはこの間のK-popの国際的な地位の向上が影響していることは想像に難くありません。
New JeansがNew Jeansとして国内外の音楽市場に乗り出していくことができるようになったのは、何よりK-popがグローバルな音楽として成長した証だといえるでしょう。
では、K-popが完全に洋楽から自由になったのか、といえばそうではありません。
特定のアーティストをそのまま模倣するようなことは無くなりましたが、やはり、モデルとしての洋楽のもつ意味は依然として存在しています。

New Jeansが志向する洋楽とは？

2010年代の終わり頃から洋楽にはY2Kの傾向がみられるようになりました。
例えば、Bruno Marsです。

さらに、Y2K期洋楽に加えてChillな音楽も取り入れられていきます。
アメリカ西海岸を中心に活動するEmotional Orangesは、そのような音楽性をもつグループです。
こちらの曲’West Coast Love’はNew Jeansの曲作りやMVのコンセプトにおいて参照されたように感じられます。

曲調を下のNew Jeansの’Attention’と聴き比べてみてください。
つまり、音楽性においてY2K的な／Chillな2010年代末の洋楽を参照しつつ曲作りやMVのコンセプト作りが行われているわけです。

New Jeansは「新しい」か？

というと、結局は洋楽の模倣で「新しさ」などないのでは？という思いを抱く読者もいるのではないかと思います。
しかしながら、それは結論を急ぎすぎです。
New Jeansの音楽は「洋楽っぽい」としても洋楽それ自体ではなく、あくまでK-popです。
K-popであるがゆえに、New Jeansの音楽は「新しい」のです。
では、何が「新しい」のか？
次回はSPEEDの「洋楽っぽさ」との比較をさらに進めつつ、ついにNew Jeansの「新しさ」の核心に迫っていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。
「スキ」ならびに「フォロー」をしていただけると励みになります。