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『ジョニーぶらり旅』沖縄編①

 2022年夏、私は人生で初めて飛行機に乗り、沖縄に行った。

 高校の修学旅行が沖縄の予定だったのだが、コロナにより中止に。それまで一回も飛行機に乗ったことがない私は、絶好の機会を逃すことに。
 そして、沖縄という未知の島に行く機会も逃してしまった。

 大学生になり、お金にも時間にも融通が利くようになり、逃していたチャンスをもう一回掴もうとしていた。
 そう、フィリピンに行くこと。
 「え、沖縄じゃないのかよ」
 その疑問は至極当たり前だ。全く沖縄なんて行く気がなかったのだ。人生初海外を一人で完遂させることが、私の夢でもあった。だから、興味のあったフィリピン、マニラに行く計画を立てた。
 実際、死ぬほど緊張していた。一人で航空券とホテルを予約した。
 親からはとても煙たがられた。なんたって、コロナ禍真っ只中の2022年。
 今考えれば、コロナ禍のいろいろな制限に対する、一種の反抗でもあったのだろう。

 自体が急変したのは渡航一週間前。日本とフィリピン両国で感染者数が増え始めた。そして、テレビでは海外旅行に行き、現地で感染して帰国できなくなった人達の存在がニュースになっていた。
 死ぬほど行きたいけど、死ぬほど怖い。
 親と話し合いをした結果、キャンセルすることに。
 泣く泣くキャンセルをしたが、航空券の代金は一円も帰ってこなかった。キャンセル手続きすら取らせてもらえなかった。しっかりと英語でメールを送ったのだが、返信すら来なかった。

 しかし、溜まった貯金と一人旅をするという気概は無駄にしたくなかった。
 「そうだ、飛行機で高校の時いけなかった沖縄に行こう」
 私の頭の中に突然出てきた。
 国内ならば、親も許してくれた。

 航空券だけ取って、寝袋を持って、二日後に出発した。ホテルなんかに泊まる気はなかった。すべて野宿と徒歩で済ませる予定だった。  飛行機に乗ると、途端に閉じ込められるような感覚に襲われた。これから三日間、一人ですべてをこなさなければならない。自分の布団は無いし、親もいない。距離も遠い。この恐怖は耐え難い。
 だけど、自分の不安神経症は思考の癖のようなものだ。怖いからと行動範囲を縮めていては、人生がつまらないものになってしまう。だからこうやってチャレンジをする。

 飛行機が飛び立つと、『ウルトラマン』の科特隊が出発する時のBGMが頭の中で流れた。
 空を飛んでいることに、とても興奮した。ウルトラマンのBGMと共に、頭の中では、『アベンジャーズ:エンドゲーム』の冒頭でキャプテンアメリカが仲間と共に、初めて宇宙に行くシーンが再生されていた。
 初めての飛行機は、なかなか心地い良いものだった。特に離陸時の加速が、興奮する。

那覇空港に降り立ち、まず最初に沖縄そばを食べた。なんだかとろみのある癖になる味だったが、正直うどんと醤油ラーメンの方が好みだった。

 外に出ると、タクシーが待ち構えているが、それを素通りしていく。だって、旅がしたかったから。
 なぜかこの時は、公共交通機関を使ったらただの観光旅行になると思っていた。寝袋を持って徒歩で移動するから、旅なのだ。

 しかし、最初に行こうと思っていた海軍司令部豪の行き先が分からない。
 タクシーの運転手に道を聞くと、「お兄ちゃんなら走って20分くらいでつくよ」と教えてくれた。
 なんだ、やっぱり沖縄は小さな島なんだな。徒歩で回れるじゃないか。

 目的地である海軍司令部豪まで歩き始めた。歩いても歩いてもつかない。あたりは段々と暗くなっていく。
 「あれ、遠いぞ。」
暑さの影響もあり、とても長い時間歩くことになってしまった。
 着いた頃には閉園しており、ただただ公園のベンチで寝ることしかできなかった。
 沖縄は想像以上にデカい…。江の島より少し大きいくらいにしか考えていなかったのが悪かった。全く調べずに、全て行き当たりばったりなのが、一人旅の流儀。

 公園への階段を上っていると、脇道に石が立ててあった。なんだかお墓のようにみえるけど、まさか、と思って無視した。

 完璧な野営スポットを見つけ、寝袋を広げて準備をする。
 しばらくゆっくりしていると、暗闇の中から歩いてくる人影が見えた。私の目の前に立ち止まり、じっと僕の方を見ている。
 「こんばんは」
 怖いので、思い切って自分のほうから声をかけてみた。すると、相手は信じられないくらい驚いてしまった。どうやら、暗すぎて僕がいるのが見えていなかったらしい。
 「初めて沖縄に来たので、野宿しているんです」と伝えると、「君やばいね、始めてきて野宿はやばいよ」とひかれた。
 話題を変えなければと思い、階段の途中で見つけた墓のような物について尋ねた。


 「あ、あれ?お墓だよ」

 お墓だった。
 こうやって、人生初一人旅が本格的に幕を開けたのである。

 つづく。


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