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従業員NPS(eNPS)の「覚悟」

EX(従業員体験)を向上させる取り組みが盛んです。

社内外の評判が全部見える化してしまうSNS&スマホ時代、企業が利益・売上を上げるためには「このブランドがすごく大好き!」と公言してくれるファン顧客を増やす経営をすべき、ということは誰もが知ってます。

ところがファン顧客を増やす前に「この会社が大好きなんです」と表明するような従業員を増やさなければ、そんなことそもそも無理なんじゃない? と気付く経営者は限られているように思えます。気付いて行動する経営者はごく一部です。

「まず従業員の現状を確認しよう」
「顧客にNPSを聞くのなら、従業員にもNPSを聞いたほうがいい?」

ということで開発されたのが従業員Net Promoter Score=employee NPS = eNPSです。従業員ロイヤルティ指数とか、従業員エンゲージメント指数などと言われることもあります。一般的には年に1〜2回程度、従業員に対してアンケートを実施して計測します。

正しいeNPS設問、使ってますか?

【究極の質問】(職場)
「あなたの親しい知人や友人・親戚から、あなたの職場で働きたいと言われたとき、推奨する度合いはどれくらいでしょうか。0〜10点で答えて下さい」

上記の設問がeNPSでの「究極の質問」とされています。顧客向けの「究極の質問」をベースに改造された質問です。

しかしeNPSで先行する米国での事例研究によるとこの設問の回答とその後の従業員行動─業績への貢献や離職など─との相関はそれほど(顧客ロイヤルティにおけるNPSほど)高くなかったとされています。それが理由で従業員ロイヤルティ計測にeNPSを利用しないという企業も多かったそうです。

ただし、ここにもう1問、設問を増やすと相関性が好転するそうです。

【究極の質問】(提供価値)
「親しい知人や友人・親戚があなたの職場が提供する商品やサービスを使ってみたいと言ってきたとき、推奨する度合いはどれくらいでしょうか。0〜10点で答えて下さい」

そこで、これらふたつの設問の点数の平均値を算出して3つのセグメントに分類し(7点未満を批判者、7点以上9点未満を中立者、9点以上を推奨者)、その構成比からeNPSを算出すると精度が高まります。

ちなみにこの2設問の平均を使ったeNPSについては自社でも検証し、これまで多くのクライアント企業に提供してきましたが、それぞれ1問だけでの分類よりも事後の業績貢献や離職との相関が高いことを確認しています。

平均値が9点以上の人: 推奨者
仕事に対する高いモチベーションを持ち、よりよい職場環境づくりや従業員間のコミュニケーション、すばらしい顧客体験の創造・提供に献身的に参加する従業員。顧客へのよりより価値提供に関して、他の従業員をリードするようなポジティブな影響力を持つ。離職する可能性は低い。
平均値が7点以上9点未満の人: 中立者
仕事へのモチベーションも、職場への愛着や自社製品やサービスに対する誇りも人並み以上に持っている優良な従業員。より良い職場環境づくりにも参加し、よりよい顧客体験の創造・提供にも献身的である。しかしながら会社に対してなにかしら引っかかりを感じており、離職の可能性は低いと言えない。
平均値が7点未満の人: 批判者
仕事への取り組み姿勢は比較的受け身または消極的で、よりよい職場環境づくりへの貢献は限定的。すばらしい顧客体験提供の可能性は低い。また離職可能性が比較的高い。スコアが3点より低い場合、組織に対してかなりネガティブな感情を持っており、放置したままにしておくと顧客に対して質の悪い体験提供をしたり、組織の愚痴や批判的な口コミを社内外で発生させる可能性が高い。
eNPS = 推奨者の率% - 批判者率%

スコアの平均は業種や業界によって±20程度の差があるので、業種・業界を超えての単純な点数比較はあまり意味をなさなしません。これは顧客に対するNPS計測でも同じことが言えますが、eNPSにおいても「前回の計測時からどれだけ改善したか」を見るために活用するのが正しい使い方です。

平均的なeNPSは0を下回る

ざっくり言えば、日本国内の企業におけるeNPSの平均的な点数は-40〜-20程度です。「平均値がマイナスとはどういうことか?」という質問も多く聞かれますが(気持ちはわかる)、「eNPSが0」の状態とは、つまり、推奨者(2問の平均が9点以上になる人)の割合と批判者(2問の平均が7点未満の人)の割合が同率ということ。上記の質問と評価の点数を考えれば、相当に難しそうだ、ということはすぐ想像できますね。

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これまたざっくりとした基準ですが、2設問平均によるeNPSのスコアによってこんな組織内の様子が想像できるというチャートも作ってみました。お客様の体験をぐいぐい上げるようなウルトラチームは+20 〜 +40超えのスコアを持っています。が、いきなりそこを目指すのではなく、まずは±0を目指しましょう。

EX測定でとても重要なこと

1)リアクションを必ずする
eNPSを利用する・しないにかかわらず、EX(従業員体験)の測定ではCX以上に注意が必要です。従業員がアンケートに回答するとき、おのずと彼らは経営(を含む調査実施組織)に「改善を前提に計測しているはずだ」という期待を抱いているのです。しかし「とりあえず点数を知りたくて計測してみた」という経営者・経営チームは少なくありません。

「年に1回だけの計測なんだから健康診断みたいなものじゃないか」と軽く考えてノーリアクションが2回、3回と続くと、着実にスコアは悪化してゆきます。

「改善するつもりがないくせに、毎年同じこと聞いてどうする気?」
「従業員なんだから協力するのが当たり前って思ってるわけ?」

従業員に期待を持たせておきながら、期待を裏切っているというわけです。言い方を変えれば「ノーリアクション前提のEX調査」という、悪い従業員体験を毎年提供しているとも言えます。リアクションはする気がない、というのでしたら、調査はしないほうがましです。

2)究極の質問だけで調査しない
もうひとつ、顧客向け調査での「NPS運用のチェックリスト」記事でも同様のことを書いてますが、究極の質問だけでなく、そのほかの従業員体験評価設問を(従業員ジャーニーマップなどを活用して)設置して、分析に利用しましょう。

究極の質問2問とその理由回答を含めると、どんなに絞り込んでも15問程度にはなると思います。いろいろ聞くと100問近くになこともあります。それでもきちんと行動するための調査にはそれ相当の設問が必要です。

EX調査へのリアクションの定石

では、どんなリアクションをすれば従業員が納得してくれるのでしょうか。小さなことをしておくだけで、ずいぶんと認識は変わります。

まずはアンケート協力に対する御礼。
「従業員のみなさん、忙しい中にもかかわらず、アンケート回答をいただき、ありがとうございます。いただいたお声を真摯に受け止めて今後の活動に活かしてゆきます。心待ちにしていてください」

といった御礼メッセージはアンケートを締め切ってすぐに出したいところ。
きちんと受け止めましたよ、というメッセージです。当たり前のように、意外としていないケースが多いです。
回答結果のフィードバック
回答分析した後に、共有可能なことはできるだけ早めに共有します。

「今回、従業員エンゲージメント指標は○点でした」
「前回と比較するとこれぐらい変化しました」
「調査から、わたしたちのチームの強みはXXXにあるということがわかりました。みなさんが日々・・・している成果です」
「一方で、XXXといった部分に課題があるとわかりました。我々経営チームはこの改善に取り組みます。」

従業員調査で判明したポジティブな事柄は積極的にフィードバックしておきましょう。

ここで大切なのが「課題」の取り扱いです。

EX調査で出てきた「課題」を解決する主体は従業員ではありません。経営者(経営チーム)です。従業員がエンゲージできない点について、改善活動をするのは経営者や経営チームです。そうでなくては本音の回答をした意味がありません。

「この課題を解決するのは、従業員のみなさんだ!」

とやってしまうと、従業員は二度とEX調査に対して本音の回答をしなくなります(本来経営が取り組むべき仕事を押し付けられるくらいなら、次から「まったく問題なし」と回答するほうが楽です)。

また、現場マネージャーの責任を執拗に追及すると、次からマネージャーは調査回答で「よい点数をつけておいてほしい」と部下に指示するなどのチート(ずる)を強要するようになったりもするので、これも意味がありません。従業員エンゲージメントの改善活動に責任持って取り組めるのは経営者(経営チーム)しかないのです。

改善プロジェクトの実行
最高の従業員へのリアクションは「従業員体験の課題」となっている部分を改善する施策の実施です。

様々な課題が浮上しますが、多くの企業で頻出するのは「コミュニケーション機会の不足」「従業員が仕事のやりがいを感じられる場がない」「従業員の成長実感がない」「評価に不当性を感じる」といった事柄です。課題の根っこには様々な要因が複雑に絡んでいて、ちょっとしたテコ入れ程度ではビクとも動きません。だからこそ「課題」となってしまっているのです。わたしたちのようなコンサルタントがお手伝いすべきポイントです。

こうした頑固な課題の対策に、別角度から切り込むことがあることを最後にひとつお伝えしておきたいと思います。従業員体験(EX)の解決に顧客体験向上(CX)の取り組みを活用するという方法です。

顧客の声(お褒めの言葉)を使って従業員の承認欲求を満たし、また、お客様が感じる課題にどう対応するかを従業員同士が話す場をつくります。対話から新しい価値づくりをしながら顧客の声を聞く体験は「顧客への提供価値の向上」でありながら従業員が対話と自信を深める「従業員体験向上活動」でもあり、さらに売上や利益への貢献も期待できる一石三鳥の施策です。詳しく知りたい方はぜひお声がけください。


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