『海辺の映画館―キネマの玉手箱』

4日10日に肺がんで亡くなってしまった大林宣彦。新型コロナウイルス蔓延のため、在名中での公開はかなわなかったが約3時間に及ぶ本作がようやく公開。これがよもやデビュー作『HOUSE』から尾道三部作、戦争三部作をも網羅した大林作品の集大成的な作品に仕上がっており、全編に大林宣彦の映画を作る喜びに満ち溢れた作品となっていた!!

 

大林宣彦生誕にして数々の作品を生み出した尾道市にある映画館を舞台に『ラストショー』や台湾映画『楽日』のようにその映画館の最後の興行を見に来た若者3人が映画の中に入り込み、映画の中の幕末の戊辰戦争から太平洋戦争までを謎の少女・希子と共に駆け抜ける。長尺で戦争を取り扱っている辺りから、ここ数年の『この空の花』、『野のなななのか』、『花筐/HANAGATAMI』の戦争三部作のような作品かと思いきや、のっけからラフなCGアニメと実写を合成した予想外の(いい意味で)ふざけたシーンに驚かされた。以降も尾道の海辺にある映画館を起点に幕末から昭和の戦中までの時代に右往左往しながら展開。希子により導かれるこの展開はまさしく『時をかける少女』そのものだが、そこには時代劇ミュージカルから幕末ドラマ、日中戦争のドラマ、さらには『HOUSE』を彷彿させるホラーまであり、179分もありながら全く飽きない。

 

その中にマリオ・ヴァーバとの出会いや幼少期の『マヌケ先生』の作成など大林の映画の原点を入れたり、武田鉄矢による坂本龍馬や南原清隆による能の舞いなど、大林監督のやりたい放題が炸裂。放題が炸裂。しかしながら、戊辰戦争、日中戦争からの太平洋戦争を見せることで反戦へのメッセージはくっきりしている。尚且つ、生誕の地て自らの作品てもゆかりが深い広島県尾道市の夕べや夜の美しい海辺のシーンを随所に散りばめ、映画を彩っている。

 

 

戦争を扱う点などで戦争三部作の延長的な作品でありながら、大林宣彦の全てをぶち込んだ集大成的な作品。遺作にしてルイス・ブニュエルやフェリーニにも通じえる大傑作を生み出してしまった! 筆者も恥ずかしながら大林監督の作品にはさほど馴染みが薄かったが、だからこそ大林宣彦の凄さを思い知らされた。大林宣彦のファンは当然必見、あまり大林作品を見たことがない人にこそ、是非、大林宣彦を体感して頂きたい。

 

評価:★★★★★

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