『無頼』

『黄金を抱いて飛べ』以来8年ぶりの新作になる井筒和幸監督の『無頼』。第二次世界大戦後の昭和30年代から平成にかけて、激動の時代を駆け抜けた一人の博徒の半生記を見事に描いている。

 

前半の1956年から1972年ぐらいまでの少年期、青年期はとてつもない早さで一気に展開。そこに『パッチギ!』2部作で見られた時代描写を随所に散りばめながら、主人公・井藤の生き様というかラッシュフィルムを見るような感覚。

 

そこから16、7年に渡る井藤組・組長としてのストーリーはやや早さが落ち着くも、殴り込み・奇襲・逮捕・収監・出所がまるでルーティンかのように繰り広げられる。車やトラック、特殊車両を使ったアクションシーンは大胆かつ派手で、井筒和幸監督らしいし、往年の東映の実録路線をみてるかのようで、『日本の首領』シリーズ辺りが好きな方なら楽しめる。

 

問題は平成になってからのシーンでここから一気に落ち着き、トーンダウン。「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」、いわゆる暴対法により、それまでエネルギッシュだった漢達のドラマが一気に気が抜けてしまった。しかしながら、それが平成以降の時代であり、これを忠実に描いたからリアリティがあることは確かである。

 

映画としての面白さは欠けたが、まるでこれこそが問題であると言わんことはなんとなく伝わる。奇しくも『ヒーローショー』とは真逆の映画という表現手段に対するSOSと考えると味わいが深い。

 

評価:★★★★

 

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