小室圭の異動と日本製鉄のアドバイザーになるとの憶測について考えること

最近、小室圭が入所2年目にして違う部署に異動し、USスチールの買収を発表した日本製鉄のアドバイザーになるのではないかとまで憶測されている

小室圭がいる世界にいたことがあり、彼が所属していたローウェンスタイン・サンドラー法律事務所(Lowenstein Sandler)から内定を貰っていた者として、僕なりの考えを述べてみたい。


異動は任意

米国の企業では、日本のような「辞令」の概念がない。異動も転勤も、自分から申し入れるか、会社から打診されて受け入れるかのどちらかであって、(会社全般に影響を及ぼす組織再編でもない限り)自分の意思に反する部署に異動させられるということはまずない。

実際、僕の経験がそうだった。僕は大手法律事務所のニューヨーク本社に入ったが、入所した1年半後、突然東京の偉い人から連絡があり日本に来ないかと誘われた。「いずれは行きたいけど、やっと波に乗ってきたのでもうちょっとニューヨークにいたい」と伝えたら、彼は「分かった」と言い、僕の代わりを外から採用した。

その1年後、今度は僕から日本に行きたいと申し出た。たった1ヶ月前に「まだ行く気ないです」と言ったばかりだったにもかかわらず、「事情が変わるということはたまにある。すぐには無理だけど、分かった」と応じてもらえた。

ここまでの身勝手にどの事務所も付き合ってくれるとは思わないが、小室圭の場合、彼の意思に反した異動が強制されたということはまずないであろう。

“案件チーム”から“専門チーム”への異動は稀

小室圭が「企業(Corporate)」から「国際貿易と国家安全保障(Global Trade & National Security)」と呼ばれる部署に異動したと知った時の僕の率直な感想は、「珍しい異動だな」だった。

「国際貿易と国家安全保障」とは、主に輸出入に関する規制についてアドバイスする部署である。アメリカはロシア、キューバ、イランといった制裁対象国への輸出を禁じるだけでなく、(たとえ米国内に所在していても)外国籍の人物に特定の技術へのアクセスを与えることを規制している。また、外国籍の企業が米国企業を買収する場合、国家安全保障の観点から審査を行う対米外国投資委員会(CIFIUS)の承認が必要となる。「国際貿易と国家安全保障」チームは、こういった法規制や承認プロセスについてアドバイスする。

この部署は専門性が高いことから、「税務(Tax)」や「従業員給付と役員報酬(Employee Benefits & Executive Compensation)」部署と似ているところがある一方で、以前小室圭が所属していた「企業」部署は、資金調達(Capital Markets)や企業買収(M&A)といった一般案件を全般的にこなしていくことが主な仕事となる。

なんとなくではあるが、”専門チーム”には「コツコツ業務をこなす職人」のイメージがあり、”案件チーム”には「派手な仕事をして注目される」印象がある。

脚光を浴びたくなった専門家が案件を回せれば仕事になる案件チームに異動することはあっても、案件を回す経験しかない弁護士が専門性が求められる専門チームに異動するのは難しい。そもそも、職人色が強い日本の弁護士と違って、米国の弁護士は派手なことを好む傾向があるから、案件チームから専門チームへの異動を希望する人は少ないだろう。

さらに、専門チームにいる弁護士は稼ぎにくいと言われる。専門家は自ら案件を開拓していくのが難しく、どうしても案件チームが開拓してきた案件を裏方として支援することが多くなってしまう。実際、税務チームに所属してた同期が、「専門家は他人をサポートする構図ができ上がっちゃってるから、食い扶持を探すのが大変なんだよ」とぼやいていたことがある。

僕は1面の見出しを飾る案件に携われることにやりがいを感じており、そもそも何の専門性も持ってなかったので、専門チームに異動したいと思ったことは一度もなかった。

日本製鉄がわざわざローウェンスタインを起用するメリットは見当たらず

日本製鉄によるUSスチールの買収を機に小室圭が日本製鉄の国際貿易のアドバイザーになるのではないかと憶測されているが、僕としては「そんな簡単に行くだろうか」と思ってしまう。そもそも、日本製鉄ともあろう大企業には既に米国系法律事務所がついているはずで、既存の関係を引き離すのは大変である。

USスチールの買収において日本製鉄側を代理した法律事務所はRopes & Gray。Ropesは1,500人以上の弁護士を抱える大手事務所で、東京にも拠点がある。僕はこの事務所の面接を受けたことがあるが、1次面接さえ通過できないほど惨憺たる結果だった。僕の面接の結果だけを見ても、Ropesの方がローウェンスタインより格が高いことを示している。

ローウェンスタインは350人の弁護士が所属している中堅法律事務所であり、日本との接点は乏しい。規模や国際性からして、日本製鉄がRopesに頼れるなら、わざわざLowensteinを起用するメリットは見当たらない。

本当にローウェンスタインが小室圭を筆頭に日本製鉄のアドバイザーになることを試みているのだとしたら、小室圭にとってはまさに「腕の見せ所」と言えるだろう。

正直、今まで僕は、小室圭がローウェンスタインに勤めることのメリットは理解できても、ローウェンスタインが2回も司法試験を落ちた小室圭を採用し続けていることのメリットが理解できなかった。ローウェンスタインとして日本企業のビジネスを開拓したいのであれば、ほやほやの弁護士が成長するのを待つより、既に日本企業とパイプがあるベテラン弁護士を勧誘したほうがずっと手っ取り早いのである。

もし小室圭が日本製鉄のようなクライアントを引っ張り込むことに成功できれば、それは弁護士というよりビジネスマンとして相当な手腕を持っていることを示しており、早々とパートナーに昇進し、東京事務所の立ち上げを手がけることもできる大物になるだろう。

ただ、決してそれは簡単なことではないと思う。ローウェンスタインにはあまりに日本企業をサポートする力がなさすぎる。ブランド力はニューヨーク本社の大手事務所ほどではないし、そもそも日本の文化を理解し日本語で手厚くクライアントをサポートできるような人材がいない

今でも僕は、小室圭は数年以内に転職するだろうと読んでいる。ローウェンスタインは、彼が存在感を示せる事務所ではないのだ。

[注:この記事は2024年1月に自分のブログに載せた投稿に微修正加えた上で再掲したものです]


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