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スタッフ一人一人と向き合うこと

看護コーチは、看護とコーチングを実践する中で、患者・その家族・チームメンバー・他職種のスタッフ・地域の人々・その他関わる全ての人々がその人らしく輝いて生きるための支援をしています。
看護コーチトレーニングを卒業し、その後「認定看護コーチ」となった看護師の皆さんの日々の輝きを紹介することで、やっぱり看護っていいな、看護コーチングっていいなと思う瞬間をインタビューを通してたくさん見つけていきたいと思います。


依田久美子さん(以下くみさん)は都内の病院勤務で、乳腺・皮膚科の病棟主任さんです。感染爆発の都内、混沌とした医療現場で働いているにもかかわらず、とても穏やかな笑顔が印象的な看護コーチです。


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依田久美子さん
秋田出身の2児の母
20代後半で看護を志し、
看護師歴20年
現在病棟主任を務める


【それまでは何も続かなかった】

(奈津美)くみさんは 20代後半で看護師になったということでしたが、どんなきっかけがあったんですか?

(くみさん)何だろうね、みんなには婚期を逃したから自分にチャレンジ!みたいな感じって言ってるんだけどね(笑) 本当は、自分の仕事ってどんな価値があるんだろうって悩んだことがあって。伝票整理とかお茶くみとか事務の仕事をしてたんですけど、その中で、誰かに自分がやったことを「ありがとう」って認められたいって思いが強くなっちゃって。そんな中、「准看護師の資格が無くなる」みたいな新聞記事を見たときに、「これはやばい!わたしが看護師になる道が狭まっちゃう!!」と思って(笑) そこで急いで准看護師の看護学校に行って、そのあと正看護師をとったんです。それまでも看護の仕事に興味はあったんですけど、なかなか踏み込めないでいたんですよ。ボランティアとかやりながら、筋ジス*のひとと遠出したりとかしてて。そこで、人にありがとうって言われるのってすごい自分のパワーになるなっていうのを感じて、思い切って看護師の世界に入りました。

*筋ジス(筋ジストロフィー)
筋ジストロフィーとは骨格筋の 壊死 ・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称。筋萎縮や脂肪・ 線維化 が生じ、筋力が低下し運動機能など各機能障害をもたらす。【引用:難病情報センターホームページ】


(奈津美)素敵な理由ですね~!婚期を逃したってごまかしちゃだめですよ!!(笑)

(くみさん)なんかそれまでは何をやっても続かない自分だったんですよね。仕事も結構転々としてたし、目的もなく、何をやっても続かなくて、「あーつまんないなー、つまんないなー」って思って生きてたんですけど、看護師という仕事を見つけてからは楽しくて楽しくて。なんだかんだ20年になりますね。
ただ、今は、こう看護をしている楽しみだけじゃなくて、チームを作っていこうっていうところまでステップアップできていて、自分でもわたしってすごいなって思ったり(笑)

(奈津美)全身に鳥肌が立ちましたよ!いいですね~ステップアップ! そんな中で看護コーチングに出会ったきっかけは何だったのですか?

【コーチングとの出会い】

(くみさん)うーん、実は子育てがすごく大変だったときに、「子供の心のコーチング」っていう本を見かけて、コーチングを知ったんです。結局子育ては今も大変なんですけど(笑)、コーチングっていうのをせっかく知ったから、仕事で、看護でコーチングを極めようって思ったのが一つきっかけでした。あとちょうどその時、主任になる試験を受けるチャレンジの年だったんですけども、自分に強みがないなって思ったんですよね。自分に何か強みをつけるのに、コーチングっていうスキルを身に着けたくて看護コーチ協会に行ったっていうのがあります。

(奈津美)そうだったんですねー!

(くみさん)この世界って、管理職の人たちはコーチングができるっていうのが当たり前って思われてるんです。ある程度管理の仕事をしていくうえで、コーチングっていうのをみんな学んできてるんですよね。でも実際はできてない人もいっぱいいるじゃないですか。上司の中に威圧感があったり、人の話を聴かなかったり、個性的な人も何人かいて、ちょっと辛いことを言われたことがあって、わたし主任になって今年5年目なんですけど、正直コーチングを勉強しているということを表に出さずにやってきた4年間くらいだったんです。で、今年から初めてスタッフにも「私コーチング勉強してます」「何かあればいつでもお話し聴きますよ」ってアピールすることにしたんです。

(奈津美)コーチングを学んでいることをスタッフに話すようになって変化したことはどんなことですか?

(くみさん)そうですね~、去年まで同じ部署にいたスタッフが、ちょっと話聞いてほしいって言ってきたりとか。あとは今、新人指導に関わってるんですけど、ちょうど直接かかわっているメンターの子たちが、困ったときに話聞いてほしいっていってきて、ちょっとみんなと関わるときに自分がコーチだっていう視点で話ができる機会が増えたかな。
そうすると、みんなゴールを求めてくるっていうか。解決したいんだけど、どうしたらいいかってことで話をしてきてくれますね。今までだと普通に雑談の中であたしだけが「今ちょっとコーチングしてるよ~」みたいに自分の中でだけコーチングしているようなことがあって、会話のゴールがないことが多かったんだけど、そうじゃなくて「こういうところで困ってる」って明確になったり、みんなが答えというかゴールを求めた対話ができるようになりました。そういう会話になると、よりコーチをしている感じが増します(笑)

(奈津美)話す相手と2人で対話をつくっているって感じがします。そういう対話になるとメリットがいっぱいありそうですね!例えばどんな対話があったんでしょうか?

(くみさん)最近あったのは、新人指導に関わっているスタッフが、どう新人さんとかかわっていけばいいかっていう悩みを話してきたり。その時はやっぱり新人がどう思ってるのかわからないと言っていて、自分の想像の中で新人と関わっているっていうスタッフがいたので、「そこは確認した?」「そこは事実なの?」っていうところを本人に問いかけながら、新人と確認しながら前に進んでいけば?っていうところに行きつきました。

(奈津美)くみさんコーチとしてかかわるだけじゃなくて、コーチとしての視点をスタッフに授けている感じがしますね!素敵な職場ができそうだなとワクワク感があります。

(くみさん)教えるだけじゃなくて、気づいてもらうようにっていうところをスタッフには伝えています。

【一人一人と向き合うこと】

(くみさん)ただ、ちょっとやっちまったなってこともあって…。前に、すごい悩んで どうしようもなく憂鬱だっていうスタッフがいて、そのスタッフと話したときに、「いまここにいることは、あなたの人生にとってどれだけ大切ですか?」っていう質問を投げかけたんですよ。すごい悩んで悩んで辛そうだったから。そしたらその数日後にそのスタッフがやめちゃったんです。何だろう、その時きっと気づいたんですよね、「ここにいることは自分にとって大切じゃない」って。あたしとの対話の中でも話してたんですけど。ちょっとやっちまったなっていう声掛けもありました。

(奈津美)そうなんですね~。ただ、その子の立場になって考えたら、その後の人生を考えたときにすごく響く声掛けとして人生を切り開く質問だったかもしれないですよね。

(くみさん)現場としてはちょっと大変だったけどね(笑) でも、その経験から、チームだけのために働くんじゃなくて、その人その人、それぞれのスタッフにとって今がどういう時期なのかとか、ここで過ごすことがどれだけ大切なのかとか、そういった部分を一人一人見てあげて、その人の状況によっては新しい道を考えていただくっていう感じで接してますね。

(奈津美)目の奥が熱くなってくる感じがしました。すごく素敵な主任さん…。引き留めるだけの上司が多いかもしれませんが、久美さんはそうではなくてその子の人生を考えて、引き留めないほうがいい場合もちゃんと話を聴いて声をかけてあげているんだなと想像できて、すごくあったかい気持ちがしてきます。

(くみさん)奈津美さんもそういう上司がいたんじゃないですか??最後背中を押してくれる人が居ることで、新しい自分になっていけるんですよね。

(奈津美)主任の鏡のようです…涙

(くみさん)いやいやそんなことないですって(笑) あとは看護コーチを発揮できない部署に去年おととしいたんですけど、そこは脳外科の病棟でほぼほぼ寝たきりの患者さんで、その環境で看護コーチを発揮するのがすごく大変だったなっていう2年間がありました。

(奈津美)大変だったっていうのは?

(くみさん)脳外の患者さんって結局寝たきりで反応がない人も多いので、そこで看護の楽しさっていうのを教えるのがすごく大変で。結局、「看護」というよりも看護師本位の「業務」になっちゃう。時間で体交して、経管栄養つないで、薬入れてって。なんかそこに面白さっていうのを感じてもらうのにどうしたらいいのかって思ってみんなにいろいろアピールして、ちょっと大変だった2年間でしたね。
ただ、その時に、働く意味って人それぞれ違うんだなっていうのを、すごく考えたんですよ。そこにいるスタッフって、すごくやっぱり看護をしたいって仕事に来てる人もいれば、生活のために仕事をしてる人もいて、限られた時間の中をきっちりやったら、もう時間外の時間は好きなように自分の別にスキルアップの時間に使っている人もいて、家庭のためにお金を稼ぐために一生懸命頑張ってる人もいたんです。その時に自分の看護観というか、患者さんのためにこうやって看護をしていこうよって押し付けちゃうと何をやってもみんなに響かないんだなって思ったんですよね。やっぱり人それぞれ、看護師をする意味や目的は違うので、そこを分かってあげて、みんなでなにかっていうんじゃなくて、一人一人のスタッフに向き合って、その人の働く意味を捉えながら、主任として関わっていかなきゃいけないんだなっていうのを感じた2年間でしたね。

(奈津美)「一人一人のスタッフ」「それぞれのスタッフ」っていうワードが久美さんから何度も出てきますね。

(くみさん)ねーそうですね~。看護師しているといろんな看護師さんに会わないですか?なんかほんとにナイチンゲールのように看護したいです~って思ってる人もいれば、シングルマザーなんです、お金のために頑張りますみたいな人もいて。もうほんとになんかもう、個性豊かな世界というか、そこを一つにまとめようって本当に難しいし、看護観とか倫理観とかそういうのもみんなに訴えかけるのも本当に難しかったかなって。

(奈津美)ちなみに久美さんの看護観をおききしてみたいのですが…!

(くみさん)改めて聞かれると考えちゃいますよね(笑) なんか看護観を通り過ぎちゃってるかもしれないんですけど、チームが楽しく仕事をするっていうのがあたしのモットーなんですよ。楽しく仕事をすることでチーム力が高まって看護の質が上がると思ってるんですよね。楽しく働けると、みんなでコミュニケーションをとって意見を出し合えて、新しい発見とか新しい看護のいろんなアイディアみたいなところも浮かんでくるので、やっぱりみんなで情報共有しながら一人の患者さんに対して最善の看護が何かっていうのを考えていくのが、看護観というか、モットー。目指すところですね。

(奈津美)大共感です!!!!看護師が楽しいと患者さんへの看護の質は確かに上がりますよね!

(くみさん)そうですよね。そこが絶対なんです私の中で。楽しくないと仕事に来るのも嫌になるし、仕事に来るのが嫌だとやっぱり患者さんへの看護の質も下がっちゃうし。

(奈津美)最後に、久美さんにとって看護コーチとは。

(くみさん)看護コーチとは…。さっき言った私の目指す看護を実践していくためにスタッフ一人一人と向き合っていく、で、その人の働く意味からとらえて、チームをうまくまとめていくっていうのが、私の看護コーチとしての在り方かなと思っています。

【インタビューを終えて】

くみさんが、主任として、看護コーチとしてスタッフと向き合う日々をお聴きすると心が温まる感じがしてきました。こんな主任さんが居たら、自分らしい看護人生を探求できるのではないでしょうか。病棟運営を考えながらも、スタッフ一人一人の人生まで考えて対話をしていくことはとても難しいことかもしれません。ただ、難しいことだとしても向き合っていけるのはコーチングを学んだからこそなのでしょう。看護師は患者さん一人一人の人生と向き合い、全人的に捉えることでその人に合った看護を提供していきますが、どうしてもスタッフ同士だと、”相手を全人的に捉える”という視点を持ちにくいものではないでしょうか。くみさんは患者さんの人生にもスタッフの人生にも向き合い、主任として、看護師として、悩んだり迷見ながらも、それでも「楽しく働く」ことをモットーに前に進んでいらっしゃいました。くみさんのお話しには何度も全身に鳥肌が立ちました。

次回もお楽しみに★

インタビュアー:奈津美
救命病棟24時にあこがれて看護師になるも、その責任の重さからメンタルを崩し、1年で看護師を挫折。その後「自分のような新人看護師をつくりたくない」と病棟看護師へ再チャレンジ。もがいているうちに日本看護コーチ協会と出会い、認定看護コーチを取得。看護コーチングを通して、看護の楽しさや やりがいに気づき、たくさんの看護師の笑顔と幸せのため、現在は看護コーチ協会スタッフを務めながら、ナースの幸せサポーターとして活動中

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