炎上のメカニズム 〜実はかつて、大炎上を経験しました〜 完結編
かつて、あるクリエイティブのコミュニティ界隈で炎上したときの話。いよいよ大詰め、クライマックス。炎上はどう展開し、どう収束したのか... 貴重な学びがあったのでここに共有する。
A氏(チームXの事務局補助)がB氏(コミュニティ界隈の古参クリエイター)に不用意なアプローチをしてしまったことにより、B氏、そしてその取り巻きを中心に我々のチームに対する糾弾キャンペーンが始まる。そしてそれが、ツイッターを中心とするネットでの炎上案件と発展する。よくある話だが、それはふりかえってみれば「意図的な炎上」もしくは「組織的な炎上」と言えるものだった。そんなことは知る由もなく、チームXは炎上の標的になっていく...
A氏のシークレットで身勝手な動きにはまったく気付いてなかった自分やチームXのメンバーは、みんなで次の新しい目標に突き進んでいた。複数の制作プロジェクトは極めて順調に展開していて、エキサイティングで楽しい日々が続いていた。しかし異変に気付いたのは、何の変哲もないある日曜日のことだった。
その日、浅草で、我々のチームXに興味を持ってくれている全国紙の新聞記者(彼自身も個人的にツイッターで活動していた)と会食していた。話題はもっぱらチームXの今後の展開で、タイミングを見計らって、海外にも進出したいんです、などという前向きな話。そうなれば、ウチの新聞でも大々的に取り上げたいな... そういうありがたい話が先方からもあり、とても盛り上がっていたその時。
記者氏が、モバイルでツイッターを見ながら「ん? 松本さん、何かすごいバズってますよ?」と教えてくれた。おかしいな。ここ数日、バズる要素があるツイートなんか全くやってないけど... もちろん、当時この活動のために運用していた匿名アカウントのことだ(実名の本アカウントはこの時全く動かしてなかった)。
見ると、何やら自分の匿名アカウントにメンションが付けられたツイートがものすごくバズってる。いわく「かの『組織』の陰謀を暴くべく、我々は立ち上がる!リーダーの○○(松本の別アカ名)の暴走を許してはいけない...云々」。古参クリエイターのB氏のツイートだった。
いや、まてまて。「組織」ってなんだ、「組織」って? ウチのチームのことか。すごいネーミングだな。まるで悪の組織に対する呼称じゃないか。マンガか。あと、陰謀っていったい何のこと?
その、リツイートされまくっている告発ツイートにはずらっと連投リプが続いていて、読んでみると以下のように書かれていた。「かの組織が正体を現した。このコミュニティを食い物にして、企業と手を組んで利益追及のための動きを突き進めている。自分に対し、とても無礼な提案があり、それで悪事が露見した。他は騙されても、オレの目は騙されない。みんな、こんなやつらをのさばらせておくと、この界隈がメチャクチャにされてしまうぞ...!」
ちょっと何を言ってるのかよく分からない。しかし、そのツイートへのリツイート数はどんどん増え、その勢いに反応したツイートも次々に出てくる。いかん、よく分からないがとにかくこれはまずい。記者氏には詫び、早々と席を立って店を出た。まずは状況を把握しないと。チームXのメンバー何人かにDMを打って確認してみると、おぼろげながら背景が見えてきた。そうか、あいつか、チーム事務局のA氏か... やばい奴だと思ってたけど本当にやらかしてしまったのか。
コミュニティ運営の難しさをここで痛感した。遅かったけど。というのは、A氏のある種の「いやらしさ」はずっと気になっていて、何とか改善せねばとは思っていた。しかし、このチームは会社組織じゃない。リーダーは一応自分ではあるけれど、できるだけ「平等」主義でやっていたし、こちらから何か指示するとか、そういう関係ではなかった。
もしこれが会社なら、A氏なんて絶対に採用してない類の人材だ。多少頭は回るけど、誠実さ、人間性としては全く水準に満たない。正直かなりダメなやつ。でもこれがコミュニティ。自発的に手を挙げる人を最大限に尊重し、やりたいというもんだから、事務局員としての仕事をある程度任せていた。それが裏目に出て、自己利益のために、うまく我々を利用されてしまったということ。たとえ判断を誤っていたとしても、今となっては後の祭り。
しかしまずはとにもかくにも、状況を収束せねばならない。そしてその後の一週間、自分にとっては人生の中でも最も焦燥に満ちた、ものすごく大変な一週間となった。
まず、チーム内で対策会議だ。A氏はみんなに責められ、全員に対して平謝りに謝ってはいたが、問題解決能力はゼロ。「リーダーになんとかしてもらいたい」だと。こんなもんである。平時は「平等主義」ということでいろいろ権利も主張してくるけど、何かあったら責任者が何とかしてくれ、と。
この「責任者」に対する考え方は、コミュニティの界隈全体についても同じことが言えた。実際のところは自律的に集まった集団で、チーム内には指揮命令系統などないとしても、そんな事情は知る由もなく、問題を起こしたのならとにかく責任者出てこいということになる。炎上の対象になってる過失への非難は、A氏ではなく、自然と一応の「リーダー」である自分に向かうようになってきた。
こういう時、コミュニティの界隈全体が敵意を持ってこちらに向かってるように感じる。普段、仲良く交流していた人々も含め。チームXのことを非難するツイートも多く目にするようになってきた。自分だけが世の中で孤立してしまったように感じ(今考えると大げさだけど、当時は本当にそう感じていた)、一週間、ほとんど外に出ずにずっとPCに向かって「火消し」に追われた。
その過程で、多くのミスも犯した。初めてだったからしょうがない、というか、炎上なんてほとんどの人間にとっては初めてだよね。
まず、チームXとして公式の声明文、というかお詫びの文を出したんだけど、これがマズかった。経緯をできるだけ誠実に書き、お詫びと再発防止策もきちんと記載した文書。しかしコミュニティ界隈からの反応は、「心がこもってない!」「経緯が本当だと証明するものはあるのか、ソースを出せ!」などという散々なもの。炎上に火を注ぐ結果となった。ああ... テレビの謝罪会見とかでも見るけど、こういう時はこうやっちゃダメだったのか...
ちなみにこの時から何年も経って、日大アメフト部の件、吉本の闇営業の件とかの謝罪会見で「心がこもってない!」とかいう種類の批判を浴びまくっていたけど、実は自分は、彼らの取った手法や心情も少しは分かる気がしていた。当事者としては、「とにかくミスなく説明しなければ」と思うし、そうなるとどうしても表現は固くなる。しかも焦っている状況で、人間味を出した謝罪や会見なんてメチャクチャ難しいんだよね...。経験者あるある、的な感じで見ていた。
話を戻す。炎上への対応で、こちらの方針が揺れてしまったことも、とても大きなミスだった。チームメンバーからは両方の意見があって、「炎上には真っ向から対応すべし」という方針と、「完全にスルーすべし」との、全く別のアプローチ。今となっても、どちらが正しかったのかは分からない。本当に完全にスルーしてれば、案外早く収まった可能性もある。そういう炎上の対応のやり方があることも、遅まきながら後で知った。
いま一つだけ分かるのは、どちらかの対応で統一すべきだった、ということだ。自分は、焦りのあまり、その時々に応じて対応の方針をコロコロ変えてしまった。謝ってみたり、その後すぐに反論してみたり。アカウントに一時、鍵もかけてしまった。冷静に考えれば、どう見ても悪手であることは分かる。鍵をかけたことをまた盛大にdisられ、卑怯者呼ばわりされた。
こんな感じで、やることなすこと、全部裏目に出るという感じだった。なかもう、自分は完全に悪役扱いだ。悪の組織の首領、みたいな感じ。ショッカーか。いや、単に楽しく前向きにやりたいだけだったんですが。もうどうすんだこれ... という感じで、厭戦気分もピークに達し、一週間が経過しようとしていた。
突然、潮目が変わったのを感じた。真っ赤に燃えてた世界から、急に攻撃的なツイートが消えたのだ。何が起こった? チームメンバーからの情報によると「どうやら、向こうが仲間割れしたらしいです」とのこと。仲間割れ?なんでそんなことがこの炎上の鎮静と関係ある? と、しばらくは分からなかったけど、時間が経つにつれ、少し事情が見えてきた。
重要な本題。今回の炎上は、「少数の人間が演出していた、極めて組織的なもの」だったということ。舞台となったクリエイティブコミュニティ界隈は、全体ではだいたい計1000人くらいの、プロ・アマの各種クリエイターとオーディエンスが集まる規模だった。炎上中は、その1000人の多くが燃えているように(我々チームXの当事者からは)感じられていた。
しかし実際は、そのうち炎上に加担していたのは、後から判明したところだと古参クリエイターのB氏の取り巻きを中心とするたったの10人くらい。そのたった10名で、アカウントを多数乱造し、さも多くの人間が批判しているようにツイートし、煽りまくっていたのだ。
B氏取り巻きグループの中でも、「さすがにやりすぎでは」と、B氏のリーダーシップを疑う声が出て、それが元で言い争いになり、とうとう空中分解してしまったらしい。何のことはない、あちらはあちらで、コミュニティのマネジメントの難しさを抱えていたのだ。
終わってしまえば本当にあっけなかった。翌週から、コミュニティ界隈は完全に平穏を取り戻した。そして、いざ争いが終わると、これまで沈黙を守っていた、コミュニティ内の他の人間が「いやあ、実は心配してたんだよ...」とか、「実は信じてたよ!」とか言ってきたこと。
いや、それはその時に言ってくれ!と思ったけど、これもまたコミュニティの本質かもしれない。誰しもやっかいごとに巻き込まれるのは面倒だし、自分がリスクを取って、非難される側の味方をしなければいけないという義務もない。
その後、コミュニティ運営の難しさ、というか、クリエイターという人々と相対する時の自分の力不足も感じ、一旦チームは解散することになった。正直、このままの体制だとリスクを抱えたままだし、自分としては、また違う形でいずれ再チャレンジしてみたいと思ったからだ。別の仕事(インドネシア・マレーシアでの教育NGO立ち上げ)が忙しくなってきたという事情もあった。
なので、件の匿名アカウントも、閉じることにした。なので、今はもうない。勉強になった思い出だけが残っている。良くも悪くも。
それから7年間、2019年までツイッターからは完全に遠ざかっていた。しかし、昔いろいろあったけど、もう一度、ちゃんと実名でツイッターを運用としようと思ったのが2019年の夏。そんな経験もあったので、今回はちゃんとやれてる気がする。今のところ。
そして、あらためて今、理想のコミュニティ運営を目指してがんばってみたいと思っている。
こういう過去の多くの事例は、ネットでトラブルを起こさないためにもとても参考になるなあと。
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