コロナストレスはいつまで続く? ーこれからのストレスとの付き合い方(3/3)
「慣れる」と「避ける」をどう使い分けるか
どうやったら「慣れる」と「避ける」をうまく使い分けられるんでしょうか?
それはトレーニングです。
私たちは幼少期から、避けるのは駄目なことだと教わってきたわけです。たしかに、子どものころは与えられた課題はあんまり避けちゃ駄目なんですよ。
社会に適応していく、独り立ちしていくという大きなトレーニング目標の中で、例えば好き嫌いで取捨選択していたら、その子の将来性を損なってしまったり、協調性もなくなるかもしれません。
その子のいろいろな才能を伸ばさないことになってしまうから、「我慢してやりなさい」と教えられるんですね。
でもそれは、中学校、高校、大学を通じて、だんだん「違うぞ」って気が付かないといけないわけです。つまり、我慢してやり通すだけではうまくいかないこともあるって。
それなのに、私たちの中では、「人はこうあるべきだ」という小学校までの感覚がずっと続いている。
「正しいことは外にある。自分はそれに従わなきゃ」と、自分に対する自信がないわけです。
そうして自分に対する自信がないから、避けたらいい状況なのに「さ、避けたら先生に怒られる。私もうこれから先、生きていけない」というような錯覚をしてしまうんだよね。
多くの皆さんが陥りがちなこの傾向は、生活しながらトレーニングで修正していかなければならないんです。
それが「大人になるトレーニング」。
「慣れる」べきところと「避ける」べきところを判断して、適切に対処できることを、僕は「大人の心」、「大人の心の強さ」と呼んでいるんです。
そういう意味では、今みんなが避ける力、大人になるためのトレーニングを積む時期だと捉えてもいいかもしれないですよね。
皆さん、松岡修造さんのように「あきらめるな。夢はかなう」と頑張って乗り越えることが好きなのですが、「違う方向に進んだ方がいい」と見切りをつけたほうがいいこともあるのです(笑)。
かなうことと、かなわないのを見極めるのも大事な大人の力(笑)。
そういう軽やかなスタンスがこれからは求められていくと思います。
例えば、コロナ禍で苦戦している飲食店などが多いと聞きますが、今までのプロセスがあるから「せっかくつくった店を」と続けたいと思うんですよね。
もちろん「何とか続けたい」と思う気持ちも大切ですが、別の視点から見てみると、「儲かる確率が低いところに、なぜそんなにこだわるのか?」という考え方もできるんですね。
今はコロナ禍が大きな問題になっていますが、これからの時代、気候変動やAIの台頭など、もっと大きな変化が起こってきます。
これまでの価値観が通用しない時代の中で「これまでこうだったから」だけで頑張り続けていては、時代に取り残されてしまいます。
コロナうつになりやすい、危ないタイミング
そういう先行きが見えない、変化が多い世の中だからこそ、「自分」を感じて、「疲れてるな」と思ったら休んで……というところがまず大事なのですね。
とにかく疲れていることは自覚しにくいんです。特にこういう時期は。
「不安」という感情は人間を行動させるための感情なので、不安を感じているときはあまり「疲れ」は感じないようにできています。不安がいったん収まったときに、グーっと疲れを感じる。
だから、ワクチンなどが接種できるようになって、メディアもコロナのことをあまり報じなくなった、感染者数もそれほど皆さんの関心を集めなくなったころに、うつや身体不調、あるいは悩みの増加といったものが出てくるのではないかと思います。
皆さんの中には、収束したらぱーっと遊びたいという人がいらっしゃる一方で、「みんな楽しんでいるのに、自分だけ疲れちゃって……」と感じる方もいるのではないかと思うのですが、どういうケアしていくのがいいのでしょうか?
まず「人それぞれなんだな」と気付くことが大事です。
ストレスの感じ方や程度は、人によってほんとうに千差万別です。
何をストレスに感じるか、どれぐらいストレスに感じるかという、外的なストレス量も大きな違いがあります。
さらにもう1つ大切なのは、そのストレスに対応できる、自分の疲労度がどの程度なのかということです。
もうすでに消耗している、疲労の3段階だと、3倍強くストレスを感じてしまうわけです。
あまり疲れていない人は1倍。ちょっと疲れた、つまり2段階で2倍。
だから同じ人物でも、ある刺激に対して2倍強くストレスを受けるときと、3倍強く受けるときがあるんですね。
そしてそれぞれの疲労の段階に応じて、ストレスへの対処は変わってきます。
たとえば、1倍の人は気晴らしがいいんです。
旅行でも何でもして気晴らしするといい。
でも2倍以上になったらまずは休んだ方がいいわけです。
「自分の状態がわからない」ときは
そうは言っても、今自分が2倍になのか1倍なのかわからない人もいると思います。
そういう人はまず、気晴らしをやってみるんです。
気晴らししてあまり効果がないとか、逆に疲れてしまったというときは、「あ、自分は2倍なんだな」と思って、ちょっと休憩する時間を長くする。
そうやって、自分を感じながら変えていくんです。
やってみて修正する、やってみて修正するというやり方でやるといいと思います。
「今の私はこうしなきゃいけない」「こうあるべきだ」と思っていると、自分の状態にあっていない対処法を続けてしまいますが、どんどん変えていいんです。
他人には今のあなたのストレス状態なんてわからないんだから。
だから一概に「これはいい」「これは駄目」という判断基準だけでは難しいですよね。
誰しも2つの気持ちがあるわけです。
はしゃぎたいという気持ちと、休みたいという気持ちがある。
そういうときは実際にやってみることです。
2020年のストレスを癒す年末年始を
年末年始にこの本を読む方も多いと思うのですが、この年末年始はどう過ごすのがいいのでしょうか?
この年末年始は、ちょうど「ステイホーム」とも言われているので、タイミングに合わせて「休めって言われているんだな」と思っていただくといいのではないでしょうか。
「制約された」と思うと余計ストレスがかかりますから、「これはいいタイミングだ」と。「骨休めの年なんだ」と。そう思っていただくと一番いいと思います。
この1年間、ほんとうにいろいろなことがあって、疲れていない人はいないと言っても過言ではないと思います。
仕事のやり方が変わったこともそうですが、そもそも変化というのはストレスですから。
だからこの年末年始は、今年の疲れを少しでも解消していただきたいなと思いますし、これからのコロナストレスにうまく対処していくヒントとして『ストレスとうまく付き合うための100の法則』を少しでもお役に立てていただけたらうれしく思います。
下園 壮太(しもぞの そうた)
陸上自衛隊初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。
その後、自衛隊の衛生科隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルヘルス、 カウンセリング、コンバットストレス(惨事ストレス)対策を教育。
本邦初の試みである「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして、約 300 件以上の自殺や事故にかかわる。平成 27 年 8 月退職。
現在は NPO 法人メンタルレスキュー協会でクライシスカウンセリングを広めつつ、産業カウンセラー協会、県や市、企業、大学院などで、メンタ ルヘルス、カウンセリング、感情のケアプログラム(ストレスコントロール)などについての講演・講義・トレーニングを提供。
著書 30 冊以上(『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)等)。海上保安庁パワハラ予防委員。
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