見出し画像

コロナストレスはいつまで続く? ーこれからのストレスとの付き合い方(1/3)

2020年もいよいよ締めくくりになりましたが、今年はまさに変化とストレスの1年でした。この年末年始も、例年とは違った過ごし方をされている方も多いのではないでしょうか。
コロナ禍のストレスはいつまで続くのか、私たちはそれにどのように対処していけばよいのか……。
自衛隊初の心理幹部として多くの隊員にカウンセリングやコンバットストレス対策を教育し、現在は感情のケアプログラム(ストレスコントロール)などの講演・トレーニングを提供している下園壮太さんに伺いました。

ストレスを「見積もる」

今回、下園さんの著書『ストレスとうまく付き合う100の法則』が出版されましたが、今の私たちの生活とストレスは切り離せないものだと思います。
特に今年は、新型コロナウイルスの影響で多くの人が強いストレスを感じた一年だったと思いますが、そのストレスといかにうまく付き合っていくか、ぜひアドバイスをいただければと思います。

まず、僕がこれまでどういう仕事をしてきたかというと、自衛隊初の心理幹部・教官という仕事を確立し、さまざまな経験を重ねてきました。

自殺やうつ病、悲惨な出来事も数多く目の当たりにしてきましたが、自衛隊員をはじめ、多くの人々と接する中で、人の悩みが深くなるときのポイントや、ストレスを病的に深めないためのコツなどを考察してきました。

いわゆるデータやエビデンスに基づく研究としてご紹介できるものではありませんが、数多くの現場経験や訓練・支援をとおして、悩みを抱えながら生活している人たちの支えとなるような「考え方」や「スキル」を開発してきたのです。

その心理幹部の仕事の中で、弱っている人をカウンセリングする、あるいは弱らないように教育やトレーニングをして差し上げるということももちろん重要なのですが、もっとも重要だったのは「ストレスを見積もる」ということです。

「今後こういうストレスが起こって、それが将来どうなっていきますよ」という予測を立てる

そうした観点から見て、僕はもう2月の時点で「夏ごろからうつ状態が悪化しますよ」と予測していました。

医学というのはデータがないと、いわゆるエビデンスがないと動きにくい。
しかし私の場合は予測ですから、自分自身の勘や経験値などでぱっと予測できるんですが、医学はデータがないといけません。

だからあの時点で、深刻に「こういうことが起こるよ」と公に言っていたのは僕ぐらいだったと思いますが、実際、7月以降自殺やコロナうつという言葉がとても多くなりました。

ストレスがあることが一番の問題ではない

コロナウイルスが原因といっても、皆さんが感じているストレスにはさまざまなバリエーションがあると思います。

感染リスクだけでなく、人間関係や経済の話、あるいは健康の話。自由の束縛やストレス解消の制限…要するに、もう運動さえも自由にできないわけです。

スポーツ選手や芸能人であれば、「自分の仕事って何なんだろう?」という生きがいの話であったりだとか、さまざまなところにまで波及しています。

私自身これまでにいろいろな人を見てきましたので、そうしたバリエーションがありながら、今後のストレス対策のなかで、何が一番のポイントになるかというのは、経験的にわかるんです。

それは、大きな問題になっているのは、表面上のストレスではなくて疲労であるということです。

人間はストレスがあることによって悩みます。
感情が動かされ、体は緊張状態になる。これらはエネルギーを使うのです。

そうした状況が起こることは、その瞬間、瞬間は大したことはないのですが、それが持続するというのが怖いことなんですね。

「感情が大きく動かされ続ける」怖さ

ストレスの見積もりとして、苦しみが悪化しやすいポイントが2つあります。

1つは実際の身体的な危険の存在・持続。そしてもうひとつは、感情が大きく動き続けることによる消耗の影響が遅れてやってくるという怖さです。

コロナ禍も、1~2か月間の短期間だったら「ああ、今年こんなことがあったね」という程度で終わりだったと思います。

もし新型コロナウイルスの感染拡大が武漢だけで終わったとか、あるいは日本に来ても、そんなに広がらなかったなら、まさに年末の流行語大賞のときに「ああ、そういうのがあったよね」って思い出すようなものだったんです。

実際、SARSやMARSといった感染症がそうでした。
当時は自衛隊が航空基地に行ったり、空港に自衛隊の医官が張り付いて、検疫をしたりするようなこともあったんですが、影響は短期間、一部に留まったため、私たちが大きなストレスを感じることはなかった。

しかし、今回は様相が違っています。

また、今回の新型コロナウイルスがほかの感染症と大きく異なっているのは、「わかることによる不安」です。
これは「人間が作り出した不安」と言ってもいいと僕は思っています。

要するに、テクノロジーが発展すればするほど、わかることが多くなるわけです。
極論すれば、PCR検査がなければ、無症状の人が感染しているということはわからなかった。

だからテクノロジーがなければ、重症化した人だけが初めて「肺炎」と診断され、一部の人たちの中で「一般的な肺炎とは違うね」「今年肺炎が流行っているよね」という話題になった程度で、毎日の感染者数で私たちが一喜一憂することはなかったでしょう。

メディアが報道している感染者数というのは、無症状の人がいっぱい含まれているわけですから、そういう意味でも昔とは不安のあおられ方が違う。

情報化社会が発達したことによって、感情が大きく動き続けることの影響が、日本中に広がっているということなんです。
そしてそれが消耗として遅れてやってくる。

こうした状態というと、皆さん東日本大震災を思い浮かべるかもしれませんが、東日本大震災のときにバタバタしたのは東京以北です。

広島や九州では、混乱していたのは震災発生直後だけで、あとはすぐに収まっていた。

だけどコロナは非常に長い期間、日本中が関心を持ち続けています。
これがこれまでにないストレスなんですね。

だから私は、コロナ禍を甘く見ちゃいけないと言っているんです。

大きなダメージを受けたのは女性

そうした影響を非常に大きく受けたのが女性でした。

男性よりも女性が大きなダメージを受けているということです。女性の自殺率も上がっています。

東日本大震災の時もそうでしたが、昔から女性というのは、環境の変化や恐怖・不安に大きく反応してしまいます。

それはなぜかというと、自分の身も守らなければいけない、子どもの身も守らなければいけないという、要するに生の本能があるからです。

男性は多少の危険があっても、自分で行動してそれに対処する係です。
だからあまり危険を感じない方が、勇敢に行動ができる。

一方女性は子どもを守って動けないわけだから、アンテナをしっかり張って、みんなと情報交換しながら連携してやっていかなきゃいけない。

それなのに今その情報がマスコミが報じる怖い情報しか得られず、お互いが身を寄せ合って、
「あなたのところは、今あなたは大丈夫なのね」
「あなたの所には食料があるわね」
「いざとなったら助け合おうね」
とか、そういう身近な仲間どうしの交流ができないん状況に陥っている。

これがすごくやっぱり女性にとって大きいダメージなんですね。

メディアなどで言われているように、貧困もその原因でもありますが、僕のクライアントさんの中には金銭的に余裕がある人でもダメージを受けている女性はいます。

そうすると、やはり情報の影響は大きいと思います。
貧困も大きな問題であるのは事実ですが、それだけでは説明できません

ストレスコントロールの観点から見ると、病気によってわれわれが被るストレスやリスクもさることながら、それによって皆さんが過剰な恐怖感を抱いたり、過度に行動を制限し、人との交流を避けることのリスクのほうが、将来的には大きな影響を及ぼすのではないかと僕は危惧しています。

このストレスはいつまで続くのか?

さらに、以前であれば自殺率などのデータを得られるのは1年後でしたが、今は1か月後には発表されるようになってきました。

今では、コロナとともに「うつや自殺が問題ですよ」といわれていますが、そうしたことでさえ、昔はわからなかったのです。そう報道されることもなかったからストレスにもならなかった。

逆に言うと、うつや自殺を問題視しすぎることも、実は情報過多によるストレスを増やす要因になりかねないのです。

僕は当初から、新型コロナウイルスの発生から数か月後には、自殺やうつなどが報じられるようになるだろうと思っていましたが、人間は大きなストレスを抱えていても、大体2、3か月は耐えられるものなんです。

ですから、2020年2月ごろに私が見積もっていたのは、早ければ4月、遅くとも7月以降にうつなどが増えてくるということでした。

2月には第2波以降が予測できませんでしたから、「いったん事態が収まったとして、夏ころにはこの疲れが出てくるだろう」と予測していたわけです。

それなのに、感染拡大に歯止めがかからない。

だから現時点では、今後1年以上、2年くらいは皆さん疲れやすい時期が続くと見積もりを修正しています。

下園 壮太(しもぞの そうた)
陸上自衛隊初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。
その後、自衛隊の衛生科隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルヘルス、 カウンセリング、コンバットストレス(惨事ストレス)対策を教育。
本邦初の試みである「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして、約 300 件以上の自殺や事故にかかわる。平成 27 年 8 月退職。
現在は NPO 法人メンタルレスキュー協会でクライシスカウンセリングを広めつつ、産業カウンセラー協会、県や市、企業、大学院などで、メンタ ルヘルス、カウンセリング、感情のケアプログラム(ストレスコントロール)などについての講演・講義・トレーニングを提供。
著書 30 冊以上(『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)等)。海上保安庁パワハラ予防委員。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?