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暮しの手帖10号 - 国語の辞書をテストする

いつもお世話になっているAyumiさんの記事で取り上げられていた「暮しの手帖」の記事。気になったので地元の市立図書館で探してみたら、なんと貸出可能!早速予約して入手しました。

『暮しの手帖 1971年2月号』

辞書の話をしているのだろうに、何故『暮しの手帖』が? この「1971年 2月号」には「国語辞典をテストする」という特集があった。この特集については聞いたことがあったのだが、それがどこでだったか。以来、是非読んでみたいと思いつつも果たせないわけで。半世紀以上も前の、しかも雑誌である。リンク先を貼れなかったのもそのためであって、どうやったら読めるのか思案中である。

Ayumiさんの記事から引用

「暮しの手帖」について

子供の頃に母親が購読していました。
辛辣な商品テストの特集と、ベニア板を使って家具を作るDIY記事が面白かったのでいつも楽しみにしていました。
現在も発行されている、ロングセラーの生活雑誌です。


国語の辞書をテストする

この雑誌の商品テストの槍玉に上がったのが、国語辞書というわけです。

私自身、辞書といえば説明の深さについて不満を感じることがなきにしもあらずとはいえ、その正確性について疑問を持ったことがなかったのですが(認識違いがあっても、自分が間違っていると安易に思い込んでしまう)、実は必ずしもそうでもなかったようです。


検証対象となったのは、

家庭で常備しやすいサイズということで、次の8冊。

第何版を参照したのか記載なし。

比較対象として、収録語数がさらに大きい以下の辞書も検証。

こちらも第何版を参照したのか記載なし。


記事の小見出しを拾ってみた

・入っている言葉の数が多くてもいい辞書とはいえない
・新聞記事に出ている言葉はろくすっぽ入ってはいない
・まいにちの暮らしに関係ある言葉もずいぶん落ちている
・いらない言葉は多すぎるし ほしい言葉は落ちているし
・どうして何冊もある辞書がおなじ言葉でまちがうのか
・百語に一語は全然まちがい 二十語に一語は説明足らず
・国語は私たちみんなのもの みんなでもっとよい辞書を

さらに、収録語数の水増しについての指摘もある。

痺れた。

とにかく、並いる著名な国語辞典の誤りや不備をバッサバッサと切り捨てるところが凄まじい。

できれば全文を引用したいところだが、記事が発表されてまだ53年しか経っておらず、団体名義の著作物の場合は、「その著作物の公表後70年を経過するまで」(著作権法第53条)著作権が有効なので、できません。
お近くの図書館に問い合わせていただくのがよろしいかと思います。
ひょっとしたら、おばあちゃんの本棚にあるかもしれませんよ!


今はどうなっているのだろう?

私が所有している国語辞典は以下の4種類。
53年前の雑誌記事で指摘された誤謬や不備がどうなっているか確かめてみました。

私の手持ち範囲ですので、必ずしも最新版ではありません。


入っている言葉の数が多くてもいい辞書とはいえない

「山高きが故に貴からず」は、それ自体で完結しておらず、「樹あるを以て貴しとなす」が続くものであるけれども、そのことを説明しているのはテスト対象とした8冊+(広辞苑、三省堂新国語辞典、新潮国語辞典)の国語辞書のうち、研究社のものだけだったという指摘。


私の4冊の辞書で調べてみました。

①広辞苑第6版、、、記事で指摘された不備は見事に解決済み
②明鏡国語辞典、、、「山高きが故に貴からず」に続く言葉がきちんと説明されている。
③大きな活字の、、、記載なし
④広辞林第6版、、、記事の指摘内容がそのままで、改善していない。

④は、「暮しの手帖」の記事が発表されて13年後に改訂されているが、頑なに変える気はなかったようです。



新聞記事に出ている言葉はろくすっぽ入ってはいない

朝日新聞社説1/4朝刊、毎日新聞連載記事1/4夕刊、読売新聞よみうり寸評1/5夕刊から65の言葉を選んで、テスト対象とした8冊に掲載されているかどうかを調べたところ、8冊ともに入っていなかった言葉が計14語あったという指摘でした。さらに65語を和語/漢語/外来語/固有名詞で分類し、8冊については漢語が弱いという判断でした。

うーん、学術的な判断は私にはできないけれども、指摘された14語をみる限り、掲載されていないことが問題だと感じるものはあまりありませんでした。
確かに、「通し天井」や「御堂関白」という言葉は知らなかったし、「客寄せ」は載っていて欲しかったと思うけれども、「舗装道路」「王侯貴族」が前後2語づつ(「舗装」「道路」「王侯」「貴族」)でしか載っていないことを問題とするのはどうなんだろうと思う。

このテストに関しては納得感がないので、私の辞書での検証はスキップします。



まいにちの暮らしに関係ある言葉もずいぶん落ちている

まいにちの暮らしに関わりのある言葉を衣食住の3分野から50語づつ選び、テスト対象とした8冊に掲載されているかどうかを調べたもの。22語がどの辞書にも載っていなかったという指摘。

国語辞書に載っているべきにも関わらず載っていなかったとされた22語のうち、私の4冊の辞書のいずれにも載っていなかったのは下記の4語。現在までにずいぶんと収録語数が増えて改善したということかもしれない。

  • 輪にする、、、編み物の手法と思われる動詞?

  • しんしん寸法、、、芯々寸法のことと思われる。

  • ステイン、、、着色汚れ?塗料?外来語をすべて国語辞典に載せるべきか

  • 2段ベッド、、、これは果たして固有名詞なのか?

「輪にする」「しんしん寸法」が掲載されていれば良かったかなとは思いますが、それ以外はうーん。いまいち同意できない。



いらない言葉は多すぎるし ほしい言葉は落ちているし

いらない言葉、ほしい言葉の定義は、その当時の時代を反映したものか。
さらに、「煮切る」の意味が誤っているという指摘。

私も知らなかった。「煮切る」とは汁気がなくなるまで煮詰めることかと思っていましたがそうではなく、味醂のアルコール分を燃やして飛ばすことなのだそうです。私の広辞苑では正しく表記されていました。記事にも広辞苑のことは書かれていなかったので、その当時から正しかったのかもしれません。



どうして何冊もある辞書がおなじ言葉でまちがうのか

「まつる」という動詞の定義が、サンプルした国語辞典のうち11冊において(!)「かがる」という言葉と勘違いしているが、最初にリリースされた定義が他の辞書に使いまわされているのではないかという指摘。

ははーん。このときは広辞苑も誤った記載をしていたようです。

×「布が外縁からほつれ出さないよう、糸を内側から外側に回しながら縫う」
○「布の端を折って、内側から外側に糸を回しながら縫い付ける」(広辞苑第6版)

「暮しの手帖」の指摘に対応したのかどうかは不明ですが、直っているみたい。


ちなみに、明鏡国語辞典での定義は以下の通り。細かい!

◎「布の端を裏へ折り込み、表側の針目は小さく、裏側の針目は大きくなるように縫い付ける。端のほつれを防ぐために行う。」



百語に一語は全然まちがい 二十語に一語は説明足らず

説明足らずの例として、以下が指摘されていました。

  • 「まちがい」の定義が「まちがうこと」

  • 「一例」が「ひとつの例」

  • 「取り消す」が「とりけしをする」

  • 「白髪」が「白い髪」

  • 「習性」が「習慣と性質」

うーん、いけてませんでしたね。


さて私の4冊の辞書はどうだろう?


「まちがい」、、、

  • まちがうこと。あやまり。(広辞苑第6版)

  • ちがっていること。あやまり。(大きな字の)

  • まちがうこと。(広辞林)


「取り消す」、、、

  • あとから打ち消す(大きな字の)


「白髪」、、、

  • しらが(大きな字の)

  • しらが(広辞林)


「習性」、、、

  • 「習慣と性質」(広辞林)


やっちゃってますね、、、。


4つの辞書の中で、優秀だと思ったのは明鏡国語辞典。
まちがい」、、、事実と違うこと。正しくないこと。誤り。
取り消す」、、、いったん決定したことや述べたことなどを、あとでなかっとことにする。うちけす。撤回する。
白髪」、、、白くなった頭髪。しらが。
習性」、、、長い間の習慣によって身についた性質。習癖。



国語は私たちみんなのもの みんなでもっとよい辞書を

「暮しの手帖」による8冊の国語辞書のテスト結果は、次のようにまとめられていました。(要約)
1 大いに不満である。
2 言葉の選び方が適当でない。
3 説明するその文章がりっぱな美しい日本語でないことが多い。
4 文章が短すぎて、何のことかよくわからなくなっているものも多い。
5 やたらに、あれを見よ、これを見よは不親切である。
6 その言葉を引いたら、いちばんよく使われる意味を、はじめに出してほしい。
7 用例、引例は、、、古文漢文などをのせるのは、意味がない。
8 文法上のいろんな約束や符号がやたらについているのは煩わしい。


なかなか強烈ですな。
2については多少疑問はあるものの、3−8についてはいまでも賛成できるところがあります。



(欄外囲み記事)収録語数の水増し

8冊の国語辞典のそれぞれの公称収録語数と実際に収録されている語数を比較したところ、3冊において水増しされていたという指摘。(しかし、よく数えましたね、、、)

うーん、収録語数の多さは、辞典の宣伝文句によく出てくるけど、それを水増しするのは「正確さを重んじるべき辞書」としてはどうなんだろう。コンプライアンスなんて概念が一般的でなかった昭和の時代の遺物だと信じたい。

これについては、私には手に負えないので検証しませんが、、、


自分なりのまとめ

私の4冊の国語辞書の定義を並べて比較するということを初めてやってみました。
語彙数では広辞苑が圧倒的ですが、丁寧さでは明鏡国語辞典が好みだと分かりました。また、語彙数は少ないけれども用例の豊かさとか似た単語の比較といった工夫がなされているという意味で「大きな字の」は使い勝手が良いことがわかりました。

何かと攻めの姿勢で話題になる「新明解」が記事のテスト対象から抜けているのが残念でした。「暮しの手帖」の記事の感じから言えば、酷評か大絶賛の両極端に分かれそうな気がします。


国語辞典というものは日本語の言葉の定義という大役を務めるわけだから、研究者がそれぞれに私企業から発行するというのはどうなんだろうと思ったりします。いや、ときの権力者が恣意的に言葉の定義を設定するのも危険だな。とにかく、一定以上の正確性のレベルは保ってほしいと願うのみ。



、、、というわけで、「暮しの手帖」の記事が面白かったという話でした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



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