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夜と自由、公園と自由

2024年6月12日  水曜日
神戸三宮の海側にある緑豊かな美しい公園「東遊園地(ひがしゆうえんち)」で開催されたNIGHT PICNICに「夜の本屋さん」として出店してきました。
場所は、東遊園地内の建物・「URBAN PICNIC LOUNGE」を広々と使わせていただいて。時間は、16時から21時まで、たっぷりと。
今回も、文学を愛する学生さん・芦田翔太くんが手伝ってくれました。いつも本当にありがとう。

東遊園地の中にある開放的なラウンジで

先日3周年を迎え4年目に突入した自由港書店、旧居留地・浪花町筋(冬の「FARMERS MARKET」)までは出店経験がありますが、神戸三宮・東遊園地での出店ははじめてでした。神戸の中心市街地・三宮の、そのまた中心部に広がる美しい公園、東遊園地。神戸のセントラル・パークです。ちょうど一年前、2023年春にリニューアルされ、いままでよりもずっと開放的に、草花や樹々に満ちた明るい公園となりました。そんな東遊園地の中にあるラウンジをまるごと使わせていただける、とのお話を1か月前に頂戴し、1か月間、はりきって準備をしました。東京から神戸に移住してきた私にとって、都市のまんなかにある憩いの場である東遊園地は、誰しもを懐深く受け容れてくれる、人にやさしい港町・神戸の象徴のような場所でした。そんな、三宮の東遊園地でお店をやれるなんて、感無量です。

東遊園地に輝く自由港書店の看板

今回参加させていただいた「NIGHT PICNIC」という催しは、定期的に開催されているもので、「どうしたら、夜の公園で皆が安心して心地よく過ごすことができるだろう?」ということをみんなで模索していく取り組みです。一部の人達だけが楽しめるような、そして、その瞬間に消費されておしまい、というような「イベント」ではなくて、誰しもが(パブリックに!)居心地よく過ごせるような時空間を、みんなが自分達で(パブリックに!)育み定着させていく「きっかけ」を創り出していく「体験の場」、なのです。

では、自由港書店、何をしようか。本屋さんとして、何ができるだろうか。考えました。考えたコンセプトは、「夜と自由、公園と自由」というもの。皆でいっしょに、本を通じて、夜について、公園について、自由に思いを膨らませることができるような時空間を創りだせたら。ただ「本を売る」だけではなく、本をセレクトしてディスプレイすることで、美術展を楽しむように、何かを感じながら、本を探してもらえたら。そして、言葉になる前の言葉としての詩、そして、絵や石、陶芸作品にも触れて頂いて、言葉が生まれる瞬間を感じてほしい。そして、もしも、来てくださった方々が、何かを感じて、その人の中に言葉が生まれたなら。それを書いてもらって、それをみんなで本の形にできたらいい。そう思って、企画しました。会場内に7つのテーブルを「港の突堤のように」配置し、各テーブルにステートメントを記したパネルを設置し、美術館の特別展のように、本を楽しんでいただけるような構成としました。

本を通じて「感じ、考える」体験を

眠れない夜、明けない夜があります。そんな夜だからこそ感じられることもあります。「TABLE1」には「眠れない夜、明けない夜」をテーマに本を並べました。(キーブック:春夜眠『明けない夜がありますように Endless night to you』)

TABLE1:眠れない夜、明けない夜

見あげてみよう、夜の空を。なにがみえますか。夜だからこそ、きっと見えるものがあるはずです。星がみえる日も、みえない日も。「TABLE2」には「星がみえる夜/星がみえない夜」をテーマに本を並べました。(キーブック:ゴンサロ・モウレ・作/マリア・ヒロン・絵/星野由美・訳『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』)

TABLE2:星がみえる夜/星がみえない夜

詩の言葉は自由だ。詩のことばは、この世界を自由に読み替えていく。「夜」が意味することを、「公園」が意味することを、変えていく。だから、詩は難しい、と思われる方もいるかもしれない。詩を読んで何の意味があるの? と思われる方もいるかもしれない。だけれど。詩の言葉は、言葉の可能性を広げてくれるもの。詩が豊かな世界は、きっと、豊かな世界。みんなで、言葉を耕していけたらいい。もっと自由に。「TABEL3」には「ことばのちからで夜をひらく」をテーマに、詩歌の本を並べました。(キーブック:七月堂『AM4:07』)

TABEL3:ことばのちからで夜をひらく

詩を作るように、言葉にならない概念を、石や、陶芸を通じて表現されている作家さんがいます。「TABEL4」には「言葉を超えていくもの/あふれるもの」をテーマに、作家さんの作品を並べました。
 
今回、自由港書店として、はじめて、本ではない形の作品を作っておられる作家さんの展示を行わせていただきました。作家の遊魔さんによる、陶芸の作品です。海のちかくで、海をモチーフとした作品を、海から得た材料をもとに作り続けておられる遊魔さんの作品には、会場で、多くのかたが非常に強く反応しておられました。私も、はじめて作品を拝見したときは、驚きました。
 
今回は、はじめての試みでしたので「展示のみ(販売なし)」とさせていただきましたが、今夏以降、ひょっとしたら、自由港書店で、遊魔さんの作品の販売をさせていただけることになるかもしれません。どうぞお楽しみに。(TABLE4の写真、左下、黒い紙の上に展示させていただいた4点の作品が遊魔さんの作品です。左の2点は「概念としての夜の海」と呼ばれる作品群。右の2点は「概念としての獏」と呼ばれる作品群です。)

TABEL4:言葉を超えていくもの/あふれるもの

今回、自由港書店として、もうひとつ新しい挑戦をしました。それは、「本作り」です。
 
「本や石、陶芸作品に触れていただいて、何かが感じられたなら。ぜひ、夜の東遊園地を歩いてみてください。夜を、公園を、自由に感じてみてください。そこでもしも言葉が生まれたら、短冊に書きとめて、銀色の箱に投函してください。集まった言葉をもとに、自由港書店店主が、編集をして、小さな本(冊子)を制作します」。
 
そうしたステートメントを掲げて、「TABLE5」には、「夜の公園で生まれた言葉をつなぎあわせて本をつくる」ための道具として「小さな紙」「ペン」そして「小さな紙をいれるための銀色の箱」を並べました。

蓋を開けてみれば、なんと、25人のかたが書いてくださり、25枚もの紙があつまりました。言葉を書いてくださったかたがたに加え、予想していませんでしたけれども、意外にも「絵」を描いてくださったかたがたくさんおられました。じっくり読ませていただきましたが、ひとつひとつの絵や言葉が、響きあっているように感じられました。これから、じっくり、本(小冊子)のかたちにしていきたいと思います。できあがりましたら、また、自由港書店のSNSでお知らせいたしますね。

夜の公園で「本屋さん」を開けば、こんなにも多くのかたがお越しくださり、こんなにも熱心に、言葉に触れ、言葉を紡いでくださるのだ。本は、本屋は、まちに必要とされているんだ。あらためて、そんなふうに、感じることができました。

TABLE5:夜の公園で生まれた言葉をつなぎあわせて本をつくる

気持ちを少しづつ、会場の外に広がる公園、そして、公園を包み込む夜そのものに向けていってほしいと思いました。

「さあ、夜を、ゆっくりと観察してみましょう。空が橙色に染まる「ゆうぐれどき」。ピンクや紫色が徐々に黒へと変わっていく「トワイライトタイム」。暗く黒い「よる」。真っ暗闇の「ふかいよる」。そして、徐々に空が青く緑に染まっていく「よあけ」。夜にはグラデーションがあります。その、繊細な移り変わりを、じっくり見つめてみませんか」。
 
こうしたステートメントを掲げて、「TABLE6」には「夜はいろいろ」をテーマに本を並べました。(キーブック:『ギデオン・ステラ―/
マリアキアラ・ディ・ジョルジョ『まよなかのゆうえんち』)

TABLE6:夜はいろいろ(夜へ)
TABLE6:夜はいろいろ(夜に)

さあ、本とともに、夜の公園に飛び出しましょう。 

「公園は、夜をじっくり味わうのにぴったりな場所だと思いませんか。公園は、誰しもに開かれた場所です。みなで決めたルールの中で、何をしても自由です。そう、公園は、誰しもがじぶんらしくあるがままに生きられる場所。そんな「優しい場所」を、この地球上に、どうしたら、増やしていくことができるだろう」。
 
最後、「TABLE7」には、「公園そして「やさしい場所」について」をテーマに本を並べました(キーブック:池田彩乃・中村菜月『百年の散歩 01 この星にあってほしいものについて』)。「誰しもが、安心して、じぶんらしく、悠々と生きていけますように。そして、世界中に、そんな場所が、広がっていきますように」。そうした願いをこめて。

公式写真(撮影:オフィシャルカメラマン・山下和希さん)

 会場となった、夜の東遊園地は、自由で平和な雰囲気に満ち満ちていました。皆が思い思いに自由に過ごしていて。適切な距離感が保たれながらも、ところどころで、新しい出会いやドラマも生まれていて。新しい日常の可能性につながっていく、美しい時間でした。NIGHT PICNICに参加させていただくことができて、とてもよかったな、と思います。運営のみなさまにも、感謝です。

公式写真(撮影:オフィシャルカメラマン・山下和希さん)

 自由港書店、これからしばらくは、イベントの予定はありません。夏場、しっかりと店を営み、8月の終わりごろ、またひとつ、たのしい催しをしたいなあ、と思っています。6月7月8月、引き続き、自由港書店は自由港書店として、須磨海浜公園のお店をしっかりと営んでいきます。6月1日に新しい水族館「神戸須磨シーワールド」が開業し、店前の通りは非常に賑やかになりましたが、自由港書店店内は、大混雑、ということはありません。営業時間も伸ばして、日々、混雑緩和に努めています。店内、今年から冷房も入れておりますので、心と体を安めに、どうぞお気軽にお立ち寄りください。本屋は公園です。自由の港です。皆さまのご来店を、引き続き、心よりお待ちしております。

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