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【第五回】 関本郁夫・茶の間の闇 緊急インタビュー 自伝「映画監督放浪記」に寄せて

第一回 第二回 第三回 第四回

取材・文/やまだおうむ

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「台本を直さなかった」唯一の回――「瞳の中の殺人者」(承前)

――初期の「影の軍団」シリーズは、大胆な濡れ場が呼び物になっていましたが、裸を出せばいいという単純な発想ではなく、関本監督としてはある種の折衷案だったんですね。

関本 裸のシーンって撮ってて面白くないんですよ。役者の芝居が大体何をやるか最初から判るから。でも、それが視聴者に受けたんです。もちろん、夜10時台ということで刺激が求められたというのもありましたが。

――先ず日活ロマンポルノの大スタア田中真理出演でインパクトのある「瞳の中の殺人者」(第18話)が放送され、スタアは出ない代わりに女優の裸身が画面を彩る「吸血!女の館」が続いて放送されるわけですが・・・・・・。

関本 田中真理は、一度組んでみたいと思っていたら、奈村(協)さんが呼んでくれたんだ。

――田中真理は、日活では、「夜汽車の女」(1972・田中登)をはじめ、現代劇で強烈な印象を残した女優ですが、「瞳の中の殺人者」を観ると、見事な時代劇女優ぶりですね。

関本 うん。巧いんだよ。田中ということで、芝居を付ける時間をたっぷり取りました。

――目の不自由な娘と一緒に旅をする琉球三線弾きを、田中真理が演じた回でした。影の軍団を抹殺しようと企む忍者集団の中に、田中の行方知れずになっていた旦那がいて、自分の娘をそれと知らず誘拐してしまう。その時、娘は盲目になっていて、父親は名乗れずに接しているのですが、娘が父との思い出を語るのを聞きながら涙を流す。シリーズ中でも珍しい直球の人情劇でした。

関本 芦沢(俊郎)さんの書いたホンが素晴らしかった。いつもホンを直しに直す俺も、この回だけは直していません。

映画批評家・高橋聰による、同時代唯一のある程度まとまった「影の軍団」関本担当回評(『映画人烈伝』青心社刊・所収)はやや辛口ながら、「瞳の中の殺人者」を「記憶に残る佳作」としている。

広島の先鋭的カルチャー誌で激賞

――そうはいっても、監督に見せて頂いた台本のほとんどのページに、書き直された台詞が薄い和紙に印刷されて上から貼られています。

関本 それは、「号外」や。撮影当日に直したところが貼り付けられる。それでも、直してないほうですよ。

――監督が担当した他の回の台本を見ると、「号外」があまり貼っていないものもありますが・・・・・・。

関本 それは、台本が刷られる前に俺がほとんど直してるから。

――なるほど。「瞳の中の殺人者」は、台詞以外は直していないということですね。

関本 そういうこと。この回は、旦那役が亀石征一郞で、花火職人なんだよな。

――盲目の少女と、彼女を見詰める父との心象風景が、遠い日の打ち上げ花火のイメージとなって溶け合っていく。あの場面は切ないですね。ラストも、毎回お馴染みの半蔵とおりんのコントで締めくくられていません。

関本 そうなんだよ。この回は、半蔵ではなく、西郷輝彦演じる京之介が主役で、おりん(樹木希林)もあんまり出てこないんだよね。

――後に「必殺」シリーズでも存在感を見せる名子役・井沢明子が乗りに乗って演っていますね。

関本 当時、広島に住むファンが、地元誌の月刊ぴーぷるに、泣けるところがいいという評が載ったことを知らせてくれたけど、泣けますかね。

――道中出会った母娘が、西郷に助けられたことで、事件に巻き込まれていくのですが、悲痛な展開の中にも心温まるものがありました。

関本 凄くいい芝居をする子だった。「東雲楼女の乱」(1994)の時、最初、斉藤慶子の子供時代を彼女に演じて貰えたら、という思いが過ぎったほどでした。もっともその時は、もう大人になっていたので叶いませんでしたが。

――井沢明子は90年代初めまで活躍していたようですが、ウィキペディアを見ると現在は連絡が付かないみたいですね。

関本 まあ、どこかで元気にやってるんじゃないですか。連絡が付かないというのは、俳優にはよくある話ですから。

――この作品は、以前関本監督から、ご自身のフィルモグラフィーの中でも大変愛着があるとお聞きしたことがありました。

関本 ラピュタ阿佐ヶ谷で行われた特集上映(2023年11月)では、本当は、「瞳の中の殺人者」と浅野温子の2時間ドラマ「季節を踊る女たち」(1986)を入れたかった。結局、上映したい作品が多すぎて掛けられなかったんだけど。


【Special Thanks】
高橋聰 & おおさかシネマフェスティバル実行委員会 伊藤彰彦

(第六回に続く)
次回は5月18日の掲載予定です

《無断転載厳禁》

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<著者プロフィール>
やまだおうむ
1971年生まれ。「わくわく北朝鮮ツアー」「命を脅かす!激安メニューの恐怖」(共著・メイン執筆)「ブランド・ムック・プッチンプリン」「高校生の美術・教授資料シリーズ」(共著・メイン執筆)といった著書があり、稀にコピー・ライターとして広告文案も書く。実話ナックルズでは、食品問題、都市伝説ほか数々の特集記事を担当してきた。また、映画評やインタビューなど、映画に関する記事を毎号欠かさず執筆。

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