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【「革命的」になりませんか?】小峰ひずみ

本記事は、株式会社金風舎が9月30日に発刊する「妄想」をテーマにしたオムニバス単行本『妄想講義』の著者紹介記事です。

臨床哲学運動と社会運動を橋渡しする“活動家エッセイスト ”

小峰さんは、SEALDsの活動を総括し、鷲田清一、谷川雁らを引いて話題を読んだ「平成転向論 鷲田清一をめぐって」が2021年第65回群像新人評論賞優秀作に選ばれた、新進気鋭の批評家です。そこでは「エッセイスト」という、新たな活動家のあり方を定義し、その視座からSEALDsを捉えることからはじめて平成の「転向」を大胆に論じました。自身も大学時代から哲学カフェのファシリテーターや、シェアハウスの運営、カウンター活動やデモの主催など様々な運動を実践してきた活動家エッセイストといえるでしょう。

そんな小峰さんが今回「妄想講義」に寄稿してくださったのは『賃労働に怒る』というタイトルの原稿。ほとんどの人が一度は従事したことがあるであろう、給料を貰ってその分だけ働く営み「賃労働」。そこに、怒る。小峰さんらしい原稿です。

目次


人間を信じる活動家の「誘う」文章

小峰さんは「誘う」ための文章を書くことが多いと感じます。主著である『平成転向論』もそうでしたし、今月発売の新刊『悪口論』もおそらくそうでしょう。今回書いていただいた『賃労働に怒る』もまたそのはずです。誘うための文章、すなわちアジテーションの文章です。読者に対して常に「私はこう思います。そしてこのように行動しています。あなたはどうですか?一緒にやりませんか?」と語りかけています。「いやいや、活動家の文章というのはそういうものじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、小峰さん自身が実践する運動を魅力的な筆致で綴り、自分もやってみようかな?と思わせるその文体および内容は、既存の活動家が書く射程の短い閉じたものとは一線を画しています。

これは、慣れない言葉を避けて優しく噛み砕いて書いている、ということとは異なります。実際、小峰さんの書くものは時に文脈を承知していない読者からすれば「?」となることもあるでしょう。しかし、それが文章を読む上で邪魔にはならない。「よくわからなくても、なんか流れるように読めてしまう」というのが小峰さんの書くものにはあるのです。それはやはり、小峰さんが優れたアジテーターだからでしょう。通りすがりの人が立ち止まって耳を傾けてしまう言葉。惹きつける魅力を持った疾走感ある言葉。それが小峰さんの語りを構成しています。

かつて、私は小峰さんが登壇したトークイベントで「人間のことを信じすぎているのではないか」と質問したことがあります。客席で小峰さんの語りを聞いていた私は、それを面白いと感じ勉強になるなと思いながらも「この人はあまりに他者の可能性を高く見積りすぎているのではないか。多くの人々は、小峰さんが期待するようには動かないのではないか」という疑念を抱かずにはいられなかったのです。そんな私に小峰さんは「確かに僕は人間を信じすぎているかもしれない。けれど、運動や言葉の力を信じるということと、人間を信じるというのは同じことだと思うんです」と返してくれました。

小峰さんの文章を読んでいると、たびたびその言葉を思い出します。「いや、人々に期待しすぎじゃないか」「そんなこと普通はできないんじゃないか」と感じる私に「いや、でも僕は信じているんです。そうでなきゃこんな活動はできないしものも書けないんです」と小峰さんが反駁してくるのです。

「妄想」によって革命的であることのすすめ

この構図はまさしく、今回のテーマであるところの「妄想」というものをめぐる在り方そのものではないでしょうか。人々は「妄想」を語る人に対して「いや、そんなことはありえないだろう」と、現実的(だと自認する)視点でツッコミを入れてきます。しかし「妄想」に惹かれてやまない人々は「そうかもしれないが、自分はこれを信じているんだ」と返さざるを得ない。そこに、信じるに足るなにかがあるからです。そして、その一見不合理に見えるような「妄想」には力がある。ちょうど私が、小峰さんの語りに疑念を抱きながらも惹かれ、確かな可能性を感じているように。

そして、「妄想」によって「革命的」であることができるのだと小峰さんは言います。革命家というものはいない、しかし妄想家はいるのだと。それでは、どのように「妄想」を通じて人は革命的であることが可能なのか?そして、小峰さんの語る「妄想」とは何なのか?ぜひ、本編を読んで確かめてみてください。

著者プロフィール

小峰ひずみ(こみね・ひずみ)
大阪府生。大阪大学文学部卒。
第65回群像新人評論賞で「平成転向論 鷲田清一をめぐって」が優秀作に選出される。著書に『悪口論 脅しと嘲笑に対抗する技術』(百万年書房)、『平成転向論 SEALDs 鷲田清一 谷川雁』(講談社)。論考に「大阪(弁)の反逆 お笑いとポピュリズム」(『群像』2023年3月号)、「人民武装論 RHYMESTERを中心に」(『ことばと vol.6』)、「平成世代が描く左翼像」(『中央公論』2022年10月号)、「議会戦術論――安倍晋三の答弁を論ず」(『群像』2024年7月号)、座談会に「戦術談義 運動の技術/現場の工夫」(『情況』2024年春号)。

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