旅0 南の島(昭和46年2月)

2015.9.6.

   南の島に
           旅にでた
      初めての
   一人旅
   鹿児島を
   出てから
   四日目の
   夜だった

   南の島に着いた
   途中の島々で
   集団就職の
   中学生達の
   別れのシーンを
   目の当たりにした
   みんな泣いていた
   都会の人間には
   わからない
   光景だった
   
   まだ、そんな
   時代だった
   鹿児島を
   出る時は
   冬だったが
   南の島は
   もう、春だった
  
    しかし、
    そこには
    迷い込んだ者
    流れ着いた者
    疲れ果てたもの
    戦いに敗れた者
    友を失った者
    恋に敗れた者
    沢山の若者がいた
        
        自分が
        何を無くしたのか
        又、何かを
        無くした事にも
        気がつかない
        若者達が
        彷徨っていた
        流れ着いていた
     目が死んでいる者
     目は輝いているが
     焦点の定まらない者
     唯、虚空を
     見つめる者
     世捨て人か
     魂の抜け殻か
    さすらい人か
    生ける屍か
         疲れ切った
         気怠そうな
         力ない姿
         唯、死を
         待っているのか
         元気だが
   空回りしてる様な
   矛先を
   何処に向ければ
   良いのか
   判らない者
         自分の居場所を
    探しているのか
          首をうなだれ
    肩を落とし
    足を引き摺り
    宿を探す

           たどり着いたら
        人の情けに触れて
        すがりつき
        傷を癒す
        自分探しの旅の
        始まりだったのか
   退廃的な空気と
   行き場の無い
   エネルギーが
   交錯する部屋で
   若者達の涙が
   笑いが
   怒りが
   溜め息が
   慰め、対立、共感、
   同情、友情
    
           新しい巡り逢いが
   仲間意識が
   生まれた
   一時の慰めから
   脱する事が出来ず
   ズルズルと
   留まってしまう者
            後ろ髪を
    引かれながらも
            なんとか振りきり
    別れて行く者
    探し物が
    見つかったのか
    新たに旅立つ者
    島歌が耳に
    入って来る

ヨロンの島で
心に沁みた
人の情けが
人の情けが
嬉しくて

ヨロンの島で
心に沁みた
人の情けが
人の情けが
悲しくて

ヨロンの島で
心に沁みた
アンマー
アンニャー は
機織りかー
♪                
    旅の終わりが
    近付いた時
    目の前に見える
    沖縄へ
    渡ろうとした
    若者がいた
    
    その当時
    沖縄は外国だった
    ヘリコプターが
    珊瑚礁の上を舞う
    若者は捕まった
    日本でありながら
    日本でなかった
    そんな時代だった
     
    ある日
    ある映画監督が
    焼き肉を
    ご馳走してくれた
    名前を
    名乗るでも無く
    さりげなく
    近付き、
    輪に入って来た
    眼光鋭く
    顔色はピンク色
    油が乗切っている
    食事をしながら
    あるCM撮影
    の話をした
    税務署から
    逃れている
    とも言っていたが
    定かではない
    その後、その監督が
    沖縄を舞台に
    若者・反戦を
    テーマにした
    映画で
    話題になった、と
    聞いた
    若者の生態を
    観察していた
    のかも知れない
    
    海の色は
    透明な青
    白い砂浜
    日本に、こんな
    綺麗な海が
    有ったんだ
    海の底が見える
    三十メートルも
    有るのに
    
    珊瑚礁
    遥か彼方の
    幻は
    君が姿か
    春の囁き

    夜になると
    満天の星
    海岸一面の
    夜光虫
    自然のイルミネーション
    誰かの
    歌ではないが
    何時か
    好きな人が
    出来たら
    一緒に
    訪れたい、と
    思った

    ある日
    シマンチュウ(島人)の
    サトウキビ刈りを
    手伝った
    タビンチュウ(旅人)が
    飛び入り(手伝い)する
    のは、この島では
    珍しい
    ことではない
    月明りの
    畑で
    夕食を共にする
    何を頂いたのか
    判らない

    ハイビスカスと
    サトウキビと
    星砂と
    島歌との
    別れの
    日が来た

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