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【短編・掌小説】○○菓子店は深夜に待っている

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深夜の菓子店を訪れる、ひとや、ひとみたいなもののお話。 更新は、深夜に、きまぐれに。
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#飴

セロファン菓子店3

セロファン菓子店3

 店には23時前に着いた。菓子店はシャッターが閉まったまま、街の灯りに埋もれるようにして、静かに息を潜めている。磨りガラスの窓に灯りはなく、白玉団子みたいな女は、まだ出勤してないようだった。
 店の路地を歩き、勝手口だと思われる扉を見つけた。
 店の外観と寸分違わず、くたびれた扉だ。金属製のドアノブは試しに回してみると、今にも取れそうな音を立てた。鍵は閉まっている。こんなぼろい扉でも、一応はその役

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セロファン菓子店(2)

セロファン菓子店(2)

 あの女、薬でも盛りやがったか。
 幻覚症状が抜けないまま、朝っぱらから外に出るのは危険なんだろうが、左腕以外は至って正常に思える。よし、ナメた真似してくれたあの女、シメに行こう。
 ショップカードに書かれていた場所は、たしかに女の言う通り繁華街から少し離れていた。新しく見えるビルの合間に、朽ちかけた商店が息も絶え絶えに生息する混沌。
 女の店は、閉店中なのも相まって、夏の明るさにそぐわない陰気さ

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セロファン菓子店 (1)

セロファン菓子店 (1)

 射殺す日差しを身に受けるこの街の人間が、等しく俺みたいになればいい。
 アスファルトからせり上がってくる熱気はこんなに暴力的なのに、朝の通勤のためスーツ姿や化粧で武装している中年男や女どもは、みな二足歩行で前を向いて歩いている。忌々しい。中途半端に生え散らかしているビルから垣間見える空は、晴天。ガキの頃図工で使ったセロファンみたいに透き通った青だ。偽物じみた爽快さ。反吐がでる。

 俺は閉店した

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