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マスコミの「取材力」-週刊文春の黒川検事長すっぱ抜きから-



ここ数か月、茶番劇の渦中の人だった黒川検事長が、賭けマージャンですっぱ抜かれて辞任するというコント漫才。黒川氏自身については、思ったよりアホだったなという以外には、特にない。

すごいと思ったのは、週刊文春のスクープ力だ。よきにつけ悪きにつけ、最近の耳目をさらったスクープで、週刊文春以外の名前を聞かない。この国にはもっと規模の大きいマスコミがいっぱいあるはずなんだが、他はほとんど聞かない。なんでそんなことになるんだろう??

確かに文春はゴシップ紙だし、人の弱みを突く、みたいなところは長年のノウハウはあるかもしれない。しかし、せいぜい規模もしれている週刊誌でしかない文春が、なぜこうも話題をかっさらうのか。というか他の巨大マスコミは何してるんだろう?ましてや今回は、朝日新聞や産経新聞記者も賭けマージャンに参加して、あわせて週刊文春にすっぱ抜かれている。

…よくわかんない。なんのコントなんだろう?スクープを欲するマスコミ同士の相互扶助なんだろうか??人身御供的な。

なんて思ってたら、お昼休みにワイドショーを見て、その答えが少しわかった気がする。黒川騒動の話題について、記者経験があるらしい人物が登場し、政治記者や社会部記者の仕事の大変さについて語っている。彼曰く、

「まず何をもっても偉い人と仲良くならなければならない。でもこれが難しいんだ。。仲良くなりすぎてもダメだ、懐柔されてスクープ書けなくなるから。でも距離を置きすぎてもいけない。情報をもらえなくなるから。だからバランス感覚がとても難しい。でもこれがすごく大事な仕事なんだ。だって非常に大事な情報源なんだから」

※(補足)つまり、今回賭けマージャンに参加していた記者たちは、黒川氏という「偉い人」から重要な情報を入手するために長年にわたり個人的な関係を構築していた人たちで、その取材過程における違法行為を逆に文春にスクープされた(笑)ということ。

みたいなことを繰り返し語っていた。結局、偉い人との個人的なつながりをどう構築できるかが、記者の取材力に直結するらしいのだ。

…何か違和感がある。偉い人からの情報は、確かに大事なものだろう。でもその優先順位は、2番手以下のはずだ。権力にかかわっている偉い人たちの不正や犯罪を、その妨害や隠ぺいを打ち破って突き止めるのは、ジャーナリストの重要な仕事のはずだ。そんな重要な情報が、偉い人との個人的な人間関係から出てくると本当に思っているんだろうか?

出てくるかもしれないが、それはほどよくフィルターをかけられた情報、つまり外に出しても致命傷にはならない程度に修正が施された情報のハズだ。もしくは、リークによって引き起こされる騒動において、痛み以上に見返りが期待できる場合だろうか。さらにもしくは、自分の醜聞を隠ぺいしてもらうために、他者のより大きなスクープを提供する場合とか。何はともあれ、どこのどいつが自分にとって致命傷になるだけの情報を嬉々として記者に話すんだろう?

偉い人が語る話はあくまで補助で、取材というのは、噂やかすかな痕跡といったさまざまな種から始まり、周囲の人々への聞き込みや過去の記録の調査、さらには金の移動の追跡などなど、内容に応じて極めて多様な手段を駆使し、泥臭く地べたをはい回り、断片的な情報を思考力を駆使してつなぎ合わせ、真相を突き止めていくというものであるはずだ。事案によって展開は様々だろうが、非常に多分野に渡る情報収集力と思考力が求められるはずのものである。

なのに、50も超えてそうないい年したおっさんが、記者は偉い人と仲良くなるのが重要だ、それこそが取材力だと熱弁をふるっている。若年性の認知症で間違いないだろう。認知症で悪ければ、どんな薬使っても死ぬまで治らない例の病の人だ。

それは取材力ではなく奴隷力、もしくはせいぜいパシリ力だ。カルロス・ゴーン逮捕の時といいい、検察がリークした以外にないような一方的な情報だけがバンバン報道される理由がわかった。マスコミで働く記者さんたちが磨いているのは、取材力じゃなくパシリ力なんだからしょうがない。彼らは、いかに素晴らしい権力者たちの飼い犬になれるかを、その職業冥利としているらしい。アホだ。

週刊文春の編集者がどこかの記事で語っていたが、週刊文春では40人程度の優秀なスクープ班が常にスクープを狙っているらしい。他のマスコミからスクープが出てこない原因について、彼は「リスクが高く、費用のかかるスクープ取材から、各社撤退している」と語っていた。

そりゃ優秀かもしれないが、たかだか40人のスクープ班にすら追い付けず、追い付こうともがくどころか、必死になってパシリ力を磨いている人たちは、少なくともジャーナリストとは呼ばない。私が何かの真相を知りたいと願ったとき、この国では週刊文春に頼る以外の答えはないみたいだ。

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