「男の子?女の子?」生まれてくる子どもの性別について
「男の子なの?女の子なの?」
妊娠中期を過ぎ、お腹が目立つようになってからもっともよく聞かれる質問だ。
「(一応、生物学的には)女の子みたいです。」
と答えると、二言目には
「(性別が分かったから)ベビーグッズ買いに行けるね!」
と他意もなく言われる。
このやり取りのたびに心にチクッとした違和感が生じる。
この世界に降り立つ前からもう、男として、女として歩むべき道が決まってしまっているかのような認識。
身体の性=心の性であることを前提とした認識。
性別がどうなるかなんて、まだ分からないのに。
大学生のとき、ある身近な相手からトランスジェンダーであることをカミングアウトされた。
そのときは「男だろうが女だろうが関係ない。」と思ったし、相手にもそのような態度で接した。
実際、ボーイッシュな、または中性的な女の子だと思っていたので、それまでと関わり方が大きく変わることはなかったのだ。
だが、その後、その彼と何年も一緒に過ごし、一緒に旅行や買い物やコンサートに出かけたり、話をしたりするなかで彼が成長期から現在までにどんな悩みや葛藤を抱えてきたかを知り、どうやら「男だろうが女だろうが関係ない」といった簡単な問題ではないらしい、ということを理解するようになった。
公衆トイレ、温泉、海水浴場などの施設を利用するときの行き場のなさ。
戸籍や身分証などに載る名前や性別。
就職や結婚など、人生の選択に関わる決断をするとき。
戸籍上の性別を変えるためには性別適合手術をしなければならないということ。結婚したい相手がいた場合、リスクも身体的負担も経済的負担も大きい手術を必ずしなければならないということ。
シスジェンダー/異性愛者であるマジョリティの自分には見えていなかった、社会のなかにある壁の多さに初めて気づかされた。
そして何より、冒頭にも書いたようにマジョリティ以外の存在を頭のなかから自然と排除している「世間」の人々の認識、差別的な言葉の数々。
わたしにカミングアウトしてくれた彼は、小学校入学時に「みんなと違う」ことで仲間外れにされるのを恐れ、本当は嫌なのに自分から赤いランドセルを選んだと言っていた。そして、「赤いランドセルを選んだのだからもう大丈夫だ。」と思ったとも。
しかし、その後思春期とともに身体が変化し、男女の差はより一層大きくなる。中学、高校では制服があり、修学旅行があり、就職活動では性別を記入する欄がある。自分は男か女かということをわざわざ表明しなければならない場面は、どこまでいっても数限りなく出現してくる。
赤いランドセルを選んだときのように女として世間に溶け込むことは、本当の自分を常に否定しながら生き続けることになる。それがどれほど息苦しく、辛いことか。マジョリティのわたしには想像することしかできない。
その後、彼とのつながりからか、自分のアンテナに変化が生じたからか、トランスジェンダー男性との出会いが少しずつ増えた。一人一人当然状況も考え方も異なるが、講演会など社会的に活動しているような方でさえも「家族へのカミングアウトが難しい」という現実も知るようになった。セクシュアリティ以外の問題にも言えることだが、社会の壁と同等かそれ以上に、身内の壁は厚い。
大きなお腹を見て、
「男の子なの?女の子なの?性別は?」
と聞かれるたびにいつも考えるのは、自分の子どもがセクシャルマイノリティである可能性だ。
今後生まれる子どもの性自認がどうなっていくのかなんてまだ分からないのだから、生まれる前から男の子らしさ、女の子らしさを押しつけることだけは親として、絶対にしたくない。
生まれる前からすでに二種類の性別以外の存在を自然に排除することの残酷さ。もちろん、質問してくる人たちに悪気がないことは分かっているのだが、その悪気のなさがより強い圧力に感じて恐ろしくなる。
このような自分の考えや気持ちを、質問してきた相手に直接伝えたことはまだない。
相手は天気の話をするくらいの調子で聞いてくることがほとんどだし、祝福の気持ちに水を差すようではっきりと指摘する勇気がでないでいる。
その結果が、
「(一応、生物学的には)女の子みたいです。」
というモヤッとした情けない返答となってしまっている。結局、自分も同調圧力に負けているのだなぁと思う。
あと1週間で正期産に入る。
いつ、どの発達段階で子どもが自分の身体の性に違和感をもったとしても、また、どんな性的指向であったとしても、親として、できる限り我が子が自分を圧し殺さずにいられる選択肢を残しておきたい。
そのことを考えながらベビー用品を選んだり、名前を考えたりしている(ピンクのものを避けることが「女の子らしさを避ける」ことになっている時点で何だかもう固定観念に「負けている」気もするのだけど。多様性って難しい)。
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