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藍 宇江魚
2021年7月31日 22:14
根津。 夏の午後。 虫籠売りの蛻吉(ぜいきち)は、蟲魂商いの上客の一人である御前の屋敷を尋ねた。「虫籠売りの蛻吉でございます。御門番様。御前様にお取次ぎをお願い致します」 裏木戸を数度叩いたが、反応がない。「御門番様。蛻吉にございます」 裏木戸の門番は居眠りをしていることが多い。そんな時でも、木戸を数度叩くと表に出て来るのが普通だが、その日に限って何の音沙汰も無かった。 …こいつは
2021年8月7日 00:30
蛻吉たちは、根津の御前屋敷の表玄関の前に立っていた。「随分すんなりと入れたわねぇ…」 あさり、ちょっと拍子抜けの表情。「入れたより、入れてくれたって言う方が近いと思うぜ」 蛻吉、ニヤニヤ。「とんでもないお化けが、入って来る人間を待ち構えてるということでしょうか?」 伊織、にこやかに笑っているが腰が引け気味。 ガザミ、蛻吉の懐の中で遊ぶ。「まぁ兎も角、中へ入らない事には始らないぜ」