マガジンのカバー画像

蟲魂

8
運営しているクリエイター

#連載小説

蟲魂2 -ガザミ(中編「座敷牢」)-

蟲魂2 -ガザミ(中編「座敷牢」)-

「まだ、屋敷から出て居らぬ筈じゃ。くまなく探せッ」
 殺気だった伊予守の家臣数人が、繁みに身を潜めるあたりと横嶋の方の前を駆け去っていった。
「やれやれ」
 あさり、呟き。
 肩の力を抜くとあさりは、背中にしがみつく横嶋の方を自分から引き剥がして言った。
「気持ちは解るけど、しがみつかないで」
 横嶋の方はガタガタ震えている。
 …厄介なことになっちゃったなぁ…

 半刻ほど前。
 伊織とはぐれて

もっとみる
蟲魂2 -ガザミ(後編)-

蟲魂2 -ガザミ(後編)-

             *
 備中国、川嶋の庄。
 その歳、備中国を旱魃が襲い町や村は大飢饉となった。

「大刀自様。この先の村は飢饉で村人が死に絶えたそうに御座います。間もなく日が沈む刻限となります。近頃、この辺りに野盗の輩も横行しております故、お一人での出立は見合わせれては如何で御座いましょう」
 旅籠の主は、草鞋の紐を結んでいる大刀自の出立を止めようと懸命に説得した。
 紐を結び終えた大刀

もっとみる
蟲魂2 -ガザミ(終編)-

蟲魂2 -ガザミ(終編)-

            *
 三方の壁面に据え付けられた棚の虫籠は、全て壊されていた。
 上座中央に座る御前の右掌の上には蛻吉が以前に売った蟲魂があった。
 彼の前に据えられた小机の上には血魍魎の蟲魂が置かれ、黒地に深紅の斑模様が妖しく輝いていた。
「蛻吉。久しいのう。この蟲魂を覚えておるかな?」
「さて?」
 惚けて答えた蛻吉に御前はニヤリと笑い、答えた。
「その方が持参した三つの蟲魂。共喰いさ

もっとみる