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「決める」

2019年は我ながら本を読めたのではないかと振り返っています。新刊本では「決める」ことを考えさせられる本が印象に残りました。アイツは決断力がないなんて人のことは簡単に言ってしまいますが、いざ自分自身が「決める」立場になったら、それは孤独でたいへんな作業だと思います。なおさら優柔不断な私の心に残った本を紹介しますので、よろしければお付き合いください。

「急に具合が悪くなる」 宮野真生子・磯野真穂

死を意識せざるを得ない病の中で、哲学者が「決める」ことの意味を見出していく様が、強烈に胸に迫りました。たぶんこの感情はずっと忘れないでしょう。

そもそも『決める』とはどういうことなのでしょう

私達は、決められないことを悪と感じたり、決めたことは自分の責任だと思ってしまう。しかし、その迷い自体を真摯に問うていきます!

選ぶとは、『それはあなたが決めたことだから』ではなく、「選び、決めたこと』の先で『自分』という存在が産まれてくる、そんな行為だと言えるでしょう
偶然を受け止めるなかでこそ自己と呼ぶに値する存在が可能になるのだと。

「決めた」先の不確実性や偶然を受け入れた先に自己実現がある。哲学の底力を感じるとともに、魂を費やした思索の結論に、私は震えました。未読の方は是非文脈の中で感じてもらいたいです。

私のレビューでは心許ないので、著者のおひとり磯野真穂さんのnoteものせておきます。


「熱源」 川越宗一

直木賞受賞されましたね!(ノミネート前に読んでいたのでちょっと誇らしい気持ち。)

文明の「狭間」で翻弄される人たちが、自分の生き方を決断していく姿に心を打たれました。彼らの文化が追い詰められ、何かしら決断せざるを得なかった環境でもあったわけですが、その情熱に感動させられました。決して一方的な善悪の視点ではないところも共感を覚えたところです。

作者の川越宗一さんも、直木賞受賞後、文藝春秋のインタビューで下記のように語っています。

自己決定できないというのは一番理不尽で、それが当時の混乱の正体だと感じます。でもそこでも、モチベーションを失わずに生きていく人たちがいたんですよね。 

なお、このインタビューでは、作家スキルが上がった際には焼肉小説を書かれることが明言(?)されているので、楽しみに待ちたいと思います。

ちなみに川越さんらしき方のタピオカ小説は「異人と同人」に収録されています。


「僕たちが選べなかったことを、選びなおすために」 幡野広志

自分の生まれ育った環境は自分で「決める」ことができません。しかし、それも大人になった自分は選びなおしていいんじゃないか。こう書いてしまうと薄情に聞こえるかもしれませんが、この本には“身内”や一方的な“親切”に苦しんでいる人がいかに多いか、自分もその加害者かも知れないことを考えさせられました。そして、選び直してもいいんだ、という発想は多くの人の救いになっていると思います。

文章はとても読みやすいので、読書に馴染みの薄い方にもおすすめです。参考に刊行時のイベントの記事をのせておきます。


「読みたいことを、書けばいい。」 田中泰延

いきなりゴリラが出てきたり、長い自己紹介があったり、ユーモアが前面に出てきますが、その本質には「書く」態度についての誠実な決意があります。また、これを読むことで「書く」ことに踏み出した方も多いようです。書くことに苦手意識があった私も、noteに書いてみようと「決め」た、大きなお通し、いや後押しをしてくれたのがこの本でした。

字が大きく、テンポの良い漫談のような文章なので、ツッコミを入れながら楽しく読めます。思わず吹き出してしまうかもしれないので、声が出ても恥ずかしくない場所で読むことをおすすめします。

参考にほぼ日で紹介された記事をのせておきます。


「どこでもない場所」 浅生鴨

2018年発行ですが読んだのが2019年ということ、とても好きな本なのであえて入れます。「決める」ことについて、いちばん共感した本かもしれません。

まず前書きで「決められない」って自分で言っちゃってます。また、自分から仕事をする気はなく受注体質だとか。道に迷っても、着いた先が目的地という発想。でも、このスタンスにとても共感するんです。決めないという「決断」。偶然性を受け入れるという意味では、「急に具合が悪くなる」の宮野さんと同じところに立っているのかもしれません。

大好きな本です。

こちらも刊行時のインタビュー記事を。


環境の変化を感じた2019 年は、年頭からとにかくインプットしなきゃという思っていました。上記の本に出会って、とても充実した読書体験ができたと思います。

今年も無理せず読んでいこう。

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