【イスラエルから】兵役拒否の若者インタビュー アパルトヘイトなどに反対する若者の拒否行動が増加(5月20日号掲載分)
イスラエル在住 ガリコ 美恵子
――生い立ちを聞かせてください。
ルビン…2003年5月5日にエルサレムで生まれました。乳児の時、母の転勤のため一家でロンドンに移住し、5歳までいました。その後イスラエルに帰国しましたが、13歳の時、両親の転勤のため、米国ミシガン州で1年間暮らしました。
両親はユダヤ教正統派の出身です。父は宗教シオニストで、シオニスト少年組織「ブネイ・アキバ」の一員でした。僕は正統派の家で育ちましたが、幼い頃、安息日(ユダヤ教の聖なる日とされ、金曜日没から土曜日没まで労働が禁じられ、電気製品や火を使わない)を守ったり、宗教学校へ通ったり、頻繁にシナゴーク(ユダヤ教礼拝所)に行くのを嫌がり、やがて宗教から離れました。
米国にいた時、家族は安息日を守らなくなりましたが、まだコーシェルの食生活(豚やうろこのない魚は食べない。肉と乳製品を同時に食べない、などのユダヤ教における食事規定・タブー)を守り、父はいまでもキッパ(頭の天辺を隠す小さな帽子)を被っています。
先祖は、ルーマニア、ポーランド、英国など、主にヨーロッパからイスラエルに移民しましたが、父方の祖父はリビア出身です。
両親はユダヤ教正統派で、シオニストの右派家庭に育ったにもかかわらず、どんどん左派へ移行しています。たとえば、母方の祖父は「リクード党」に投票するのに、母は「ハダシ党」(イスラエルで最も左派であり、パレスチナ人の党員が多い)に投票します。両親はそれまでシオニスト左派の「メレツ党」(2003年12月に民主選択党と合併・解散)に投票していましたが、今はもっと左派化したわけです。
刑務所か兵役か揺れる価値観
社会、宗教背景に
――イスラエルのパレスチナ占領政策に気づいたのはいつですか?
ルビン…中学生の時、ネットで左派の存在を知ってからです。特に米国の左派により、僕の世界観が変わりました。
僕にとっての左派は、社会主義者、共産主義者、アナーキストです。民主党のような自由主義者ではありません。なので、僕は何よりも、人種によって世界を分離し、ユダヤ人だけのための国を運営化するシオニズムの基本的な世界観、イデオロギーに反対です。子供の頃は、ナクバ、民族浄化、ヨルダン川西岸地区が何を意味するのか、分かりませんでした。
アラブ人が直面する差別も、まだ理解していませんでした。シオニズムのイデオロギーに反対していただけです。
中学生になって、占領のことを知りました。ノアム・チョムスキー(米国の哲学者・言語学者)の講義をネットで聞き、調べるといろんな情報があったのです。大きく影響されました。
――いつ入隊拒否すると決めましたか?
ルビン…17歳で決めました。子供の頃は、シオニスト政策に加担したくない、過激派閥である国防省に入隊したくない、と思っていました。
でも、多数の若者がよくやるように、「精神的不健康」という理由で拒否するか、「占領反対だから行かない」と明確に示して刑務所に行くか、あるいは入隊して、救急隊員を希望するか、選択に悩みました。
イスラエルは最終的には、カハニスト(極右政治組織)とパレスチナ人との間で内戦になるでしょう。そうなれば負傷者の救急処置ができるように、入隊して救急訓練を受けるべきかとも思いました。
でも結局、自分がすべきことは、入隊拒否することだ、と17歳の時に決めました。
――兵役拒否することを一般公開した理由は何ですか?
ルビン…拒否すると決めたのは、それが、世界に最も大きな影響を及ぼすことができると思ったからです。今の自分にできることは、兵役拒否の意図を公表し、軍隊に圧力をかけ、国やシオニスト政策全般に圧力を与えることです。それが、国の状況を変え、改善することになると考えたのです。だから、拒否するなら一般公開するべきだ、と考えました。
できるだけ多くの人に話し、インタビューを受け、ソーシャル・メディアで自分の意見を述べることだと。だから、軍は兵役拒否者を嫌います。イスラエル国内にもイスラエルの政策に反対する人がいるんだということを、世界に向かって白日の下にさらすことになるからです。
僕は今まで複数のイスラエルメディア、フランス、アル・ジャジーラ、米国、スコットランドなどのメディア、スウェーデンの大学研究者、英国、ドイツの旅行者からインタビューを受けました。
――嫌がらせを受けたことはありますか?
ルビン…ないです。入植者や右派思想の人は、僕と討論すると、最後は疲れてしまいます。
彼らは歴史を知りませんし、僕と討論するだけの知識をもっていません。根負けした彼らは、最後にこう言います。「信念を貫けてよかったね」と。
――日本の読者に伝えたいことは何ですか?
ルビン…僕のように自国の政策に反対しているユダヤ人がいるということを、知ってもらいたいです。ユダヤ人でもシオニストでない人は多くいます。アパルトヘイトに反対するイスラエル人もいます。
占領終止や、パレスチナ人の祖国帰還のためには、国際的圧力が必要です。だから、僕のインタビューを読んでいる人の方が、僕よりもっと影響力をもっています。
意識的、道徳的、人道的な声はイスラエルでは完全にかき消され、膨大な数の人種差別と偏見があることに対し、過半数が耳を傾けようとしません。話を聞いてくれて、ありがとうございました。
兵役拒否者それぞれの理由
アパルトヘイトや占領政策反対も
2020年1月19日付の「エルサレム・ポスト」紙によると、32・9%の若者が兵役につかず、兵役についても15%の若者が任期を完了していない。その理由の多くは、〝精神的不健康〟である。
「国際戦争拒否新聞」(2021年1月8日付)によると、2020年のイスラエルで、60人の高校生が、パレスチナの占領と自国のアパルトヘイト方針に反対し、兵役拒否を表明した。
「メサルボート」(政治的理由で兵役拒否する若者を支援する団体)によると、昨年兵役拒否して禁固刑になったのは11人だ。
イスラエルの男女は16歳になると、軍から出頭を命じられる。その若者が軍のどの部署に適しているか、試験やインタビューで把握するためだ。
私の娘も16歳でインタビューに呼ばれた。娘が通っていたユダヤ正統派女学校は、「女子が軍隊に入ることは、ユダヤ正統派の教えに反している」として、生徒に兵役拒否させていた。拒否理由が「宗教」であったため、娘は禁固刑にならなかった。
娘の夫も兵役拒否した。精神科で「精神異常」と書かれた証明書を書いてもらったのだ。
(人民新聞 2023年5月20日号掲載)
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