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東電福島原発事故12年目②被ばくからの「保養」を続けよう映画「かくれキニシタン」上映運動

NPO法人ライフケア 関久雄

10年目の「福島のいま」を「保養」という切り口から見た映画を作った。きっかけは2020年から始まったコロナ禍。それまで毎年、約1万人もの親子が保養に出かけていたが、コロナで激減。実施したのは数件だった。私たちは、2011年から新潟県佐渡ヶ島で保養をやっている。
 2012年からは、古民家を借りて「保養センターへっついの家」として通年保養をしてきた。保養とは、①線量の高い所から離れ、②汗をかき排泄を促し、③福島ではやりにくい外遊びをやって、心身ともに元気になっていく活動だ。
 1986年のチェルノブイリ原発事故後のベラルーシやウクライナでは、36年経った今でも国家事業として行われているが、日本では民間の善意に任せっきりだ。

コロナで保養活動が停滞

だが、保養活動はやる人も次第に疲弊していて、今回のコロナで保養が無くなりかねない状況にある。国は年20mSvで暮らせる、避難は不要、不安を持つ人へは「心の除染」が必要と、事故直後から電通を使い、洗脳まがいの活動を進めている。
 2020年夏、私たちは米沢と佐渡で保養をやった。コロナも被ばくも、必要なことは免疫力をあげることだから止める理由はない、と考えたからだ。同時に、尋常でないこの状況を記録しておこう、と映画作りを始めた。保養の様子や参加者へのインタビュー、不耕起の米作りの様子などを撮り、編集作業を進める中、福島の中に生まれている対立や分断の現状が浮かび上がってきた。
 例えば保養のための募金を始めたら、「風評を煽る、不安を煽って金を集める詐欺」とネットで叩かれる。また帰還したことを話さない人、被ばくへの不安を隠して暮らす人などもいる。

隠せない現実 甲状腺ガン300人

私たちは、相馬市の精神科医・蟻塚亮二医師にインタビューした。蟻塚氏は「保養の権利、保養の自由」を語り、「原発事故は明らかに人災だが、国も東電も責任を認めない。だから被害者は苦しむ」と言う。そして、精神分析家・フロイトが「悲哀の仕事」と呼んだ、人が喪失体験を受け入れていく心理的過程をあげ、「自分を大変な状況に追い込んだ加害者に対し、怒り、泣き、怨むという感情を吐き出し、被害を認めさせないと次に進めない。そのためにもっと声を上げることが大切だ」と話された。
 映画は2021年3月6日の郡山駅前の「いのちの集い」を追い、「原発はいらない」「避難は人権」と声を上げ、歌い踊る人たちの姿を撮った。映画の最後は避難者との対談で、保養活動で見えたこと、どんな社会で生きていきたいのかを語り、詩の朗読で終わる。
 「戦争と原発でごはんを食べていると、ごはんを食べるために戦争をやり、原発を動かす」。いま、そんな状況が生まれている。原発反対と声を上げる人を「風評加害者」と叩く動きもあるが、甲状腺ガン300人の事実は隠せない。
 甲状腺がん当事者の子どもたちが、東電の責任を追及する裁判も始まった。声を上げること、「福島のいま」上映運動を通して伝えていきたいと願っている。

映画「かくれキニシタン」
(カラー、ドキュメンタリ-作品)
制作:NPO法人ライフケア
時間:1時間6分
撮影:佐藤広一、今野寿美雄、  大野沙亜耶
編集:大野沙亜耶
音楽:関 久雄、三野友子
監督:関 久雄

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