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ふつうのデザイン

デザイナーの深澤直人さんから「ふつう」ということは何かを学び、「ふつう」に向き合ってみる。深澤直人さんを知らない人でも、「無印良品のデザインをしている方ですよ。」と聞けば、「ふつう」ということがいったい何なのか無印良品のデザインから何となく感じ取っていただけるのではないだろうか。

「ふつう」という奥深さを感じとり、「ふつう」という無意識をデザインすることは、つまり意識の中心を探すことなのかもしれない。散らばった意識のもっとも濃い部分であり、「人の意識が共通に通過する点は、まるで渋谷のスクランブル交差点のようなところなのだ。」こう言われても、抽象的すぎて時間をかけないと解釈できそうにない。意図的、恣意的に表現されたデザインは主観が入り混じるから美しくない、飽きがきてしまう。長く使われるにはそういった主観を排除した「ふつう」が大切なんだよと言えば、多少理解しやすくなるだろうか。

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俳句にも似たような考え方があり、客観写生という言葉がある。つまり主観の入った俳句は醜いとされ、詠み手がその風景を「美しい」と思って脚色してしまうと駄句になり、見たままのさりげなさみたいなものに見えないといけない。巧妙さは見透かされる。

あるデザインの環境下(シグニファイア)において提供される価値に、人は気づかぬうちにアフォーダンスし、その価値が途切れずに見出され続けていく状態。例えば、椅子から立つ時のテーブルが「ふつう」にデザインされると、ヨイショと立ち上がる時に人はテーブルに自然と手をつく。そのような環境下(シグニファイア)では、人は無意識にアフォーダンスする。そういった「ふつう」を意識してデザインする。

「ふつう」であることはとても難しく、 奇をてらった、うけを狙ったデザインはすぐにばれてしまうし、すぐに飽きられる。「ふつう」とは、そこにあることが自然であり、必然であるもの。


マーケティングやブランドコミュニケーションにも同じことが言えるのではないか。顧客(生活者)と長く付き合っていくには、そのような「ふつう」ともいえる絶妙なコミュニケーションデザインを設計すべきなのではないかと感じる。「ふつう」のものを「ふつう」でいさせるためには、気づかれないように今の生活にモディファイを繰り返して、変わったと思われない程度にデザインを整える。

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有名なブランドロゴの変遷などを検索してもらえればわかるが、ペプシのロゴやスターバックスのロゴも時代に合わせて違和感を感じないように徐々にデザインが移り変わっている。国内の事例では、明治ブルガリアヨーグルトのパッケージデザインなども気づかないうちに今の時代にフィットするように「ふつう」に変わっている。ロングセラーブランドだけど、古さを感じさせず「ふつう」のままで居続けるブランドはこれが自然とできてLTVの長い商品になっているように思う。ふつうを進化させたちょっといいふつうをデザインすることは、すなわち目的地へ向かうプロセスを改善するイノベーションにも近しいものを感じる。

ロゴやパッケージ以外のブランドコミュニケーションも同様に、例えばカップヌードルがずっと若者の食べ物であるのは、コミュニケーションが常にその時代の若者を象徴するようなトレンドを反映させていたりするからだと感じる。いつの間にか「ふつう」の中心にいなくなったブランドは、「ふつう」が合わないブランドのイメージが形成されてしまうのだろう。

またブランドのコミュニケーションを担当する場合、担当者のやりたいことの想いが強く、主観が入り混じって提供するコミュニケーションデザインは醜くなる可能性が高い。客観写生を意識して設計し、価値を決めるのは顧客(生活者)であることを忘れないようにしたい。買う理由の差別化(Point of Difference)を見つけては、大量の広告投下で認知をとり、店頭販促と併せて売る。これができるのは広告投下の資本コストがある限られた企業のみで、「ふつう」の考え方からすると決して美しいものとは言えない。競争戦略の不毛な消耗戦から抜け出すには、人の意識の中心としてデザインされた「ふつう」をコミュニケーションデザインにおいて探求していくことなのかもしれない。

おそらくそれは属性の順位転換とも違う。属性のの順位の中で、さらに人の意識の中心になっている「ふつう」をデザインしているブランドが本物なのだろうと感じる。例えば、この先の商品やサービスにサステナブルな選択肢という順位転換が仮に起こっていくとしたら、その時に「ふつう」とされる商品やサービスはなんだろう。先に記載の通り、奇をてらったものは見透かされるわけで、ここを「ふつう」にデザインできたブランドが中心にいることになることは間違いない。

最後に忘れてはならないのが、無意識な「ふつう」の表層デザインに加えて重要なことは、その裏側でしっかりと戦略から練り込まれたインタラクションデザインや情報デザインを設計していることだ。すなわち情報の伝達コストを下げるための情報アーキテクチャも揃っていないとうまくはいかないのだろうと強く感じる。

ブランドインサイトとヒューマンインサイトから導いたキーインサイトをWEBサイトなどのコラテラルに反映させ、情報アーキテクチャとしてのオントロジー、トポロジー、タクソノミーといった意味づけ、類型化、ふるまい付けを設計し、情報伝達コストを下げていく考え方や実際の設計についてはまた今度の機会に話したい。

長年「ふつう」に向き合い続けている深澤直人さんから「ふつう」とは何なのかを学び取り、コミュニケーションのデザインを見つめ直すと、従来の近視眼的なマーケティングとは異なる望ましい「ふつう」の未来とは何かを思考する独自の視点(Point of View)を持てる気がする。


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