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世界最高峰のビジネススクールの学生が日本の中小企業に学ぶ

以前、日本経済新聞の電子版を読んでいたとき、ある記事が目に留まりました。そこには、世界最高峰の経営大学院であるハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)の学生たちが、フィールドワーク型授業で日本企業を訪問したときのことについて書かれていました。
 学生たちは、ボストンの教室での授業で自分たちがあらかじめ練った仮説の事業戦略を日本企業の経営者に提案し、ともに議論し合って多くのことを学んで帰るというのです。
 彼らは一体どのようなことを学んで帰るのでしょうか。

 HBSの学生たちを受け入れた日本企業というのは、ITを駆使した生産管理で甘いイチゴ作りにこだわる「GRA」という農業生産法人や宮城県唯一のワイナリーである「仙台秋保醸造所」など8企業・団体でした。
 いずれも、東日本大震災をきっかけに創業した30~40代の若手中心の起業家たちの会社です。学生たちとのやりとりが次のように紹介されていました。

学生「カリフォルニアワインのように、世界的にブランドが浸透することを目指すべきでは?」
ワイナリー企業経営者「このワイナリーの生産規模を一気に大きくすることは考えていない。地域の様々な産業と連携し、地元の雇用を創出していくことが当社のミッションだ」

 その後も、学生たちの各グループは行政や取引相手、顧客など幅広い関係者への聞き取りを行いました。そして、実地での情報収集を重ねるうち、事前に考えてきた彼らの仮説の多くが次々に覆されていったというのです。
 彼らは、アメリカ型資本主義や市場原理主義、株式市場主義とはまったく異なる日本式の思想や文化、価値観に触れ、体験型のプログラムを通じて学んだことを最終日に一人ずつスピーチしました。
 その中の一人、米国出身の男子学生の感想が紹介されていました。
「HBSの教室では、企業価値の算定や収支計算といったそろばん勘定にとらわれがち。日本で会った起業家たちはいずれも、利潤追求ありきではなく、地域貢献や雇用創出をミッションに捉えていたことが忘れられない」(2016年2月2日付『日本経済新聞』)

 日本には一時的な成功よりも、「長く続くこと」を大切にする価値観が伝統的にあります。大阪市には世界最古の会社と言われる金剛組もあり、日本は世界でもっとも長寿企業の多い国でもあります。また、長く続くためには「三方良し」といった「売り手良し、買い手良し、世間良し」という近江商人の極意など、顧客や社会への貢献も古くから大切にされてきました。
 ハーバードで20年以上オペレーションを教えるある教授は、「戦後、日本が経済成長を遂げたのは、清廉で謙虚なリーダーが正しい価値観で社員を正しく導いたからだ」と言っています。
 2008年、HBSは100周年を迎えました。奇しくもこの年は、世界規模の金融危機であるリーマン・ショックが発生した年です。この危機を招いたのは、米国型資本主義を体現する金融エリートたちと言われ、その人材の供給源であるHBSは世界から多くの批判にさらされたとのことです。
 HBSは、富の一極集中やモラルなき金融商品を作り出した人材の供給源となったことを深く反省し、当時の学長は次の100年を「徳のある謙虚さこそ、ハーバードが学生に教える最も重要なことだ」と方針転換し、「知識(Know)偏重ではなく、実践(Do)と徳(Be)を持った人材を育てる」ことを旗印に掲げ、その新カリキュラムの一環としてこだわったのがフィールドワークという実地体験です。
 エリート学生たちに、利潤追求ありきとは違う「使命」「天命」、言い換えると「ミッション」「ビジョン」「バリュー」に生きる企業の“在り方”を学んでほしいという思いから、日本はその地に選ばれたのではないでしょうか。

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